『雨の日』

外から聞こえてくる音に目が覚めた。寝ぼけたまま、外を見れば雨が降っている。けだるさが抜けない理由はこれかぁ、などと思いながら伸びをする。枕元の時計は6時半を指している。

「……はふ」

一瞬、二度寝しようかと思ったが、此処で寝ると午前中を寝て潰しそうだ、と考えて動き始めることにする。手始めにベッドから抜け出し、服を着替える。そうやっていくうちに意識がはっきりとしてきた。普段と違って時間にかなりの余裕があるし、

「学校にも行けるかな?」

口から出てきた言葉に苦笑い。行ったところで良いことはないだろう。まだ、寝ぼけているのだろうか。

1階の居間に下りると、アリウムの母親が朝食の準備、スーツの父親が会社に行くところだった。

『おはよう』

「おはよう、お父さん、お母さん」

「ん、寝付きが悪かったか?」

こちらの顔をのぞき込みながら、少女の父親は言った。さっきのことが顔に残っているらしい。

「少しだけね」

「それはいけないなぁ」

「朝から娘と長話して、遅刻するのもいけないわねぇ」

母親の突っ込みに父親がびくっと身体を起こして時計を確認。

「走れば間に合うさ」

「今日は雨よ」

母親の第2波にすぐさま撃破される父親、このノリはネットでも見ているなぁ、と思っていると、

「ご飯、少し遅くなるけど良い?」

「うん。時間が無いなら、はやくいった方が良いよ」

「顔、随分と良くなったな」

「女の子にそれは禁句よ。それじゃ、行きましょう」

父親が母親に手を引っ張られて行く様子を見送ると、少女は冷蔵庫の扉を開けて牛乳を取り出して、コップに注いだ。コップを片手に自分の部屋に戻って、机の前にある椅子に座る。牛乳を一口飲んだあと、コップを置いて、机の上にある小型のHMDを慣れた手つきで頭にかける。仮想情報空間の接続手続きを軽く済ませて、メールチェック。文字と音声のメールが何通か届いていた。最新のものはEW仲間から今さっき送られてきたものだ。内容にあたりをつけながら開いてみるとあたりどおりの内容だった。すぐにEWのクライアントを呼び出し、ログイン。視界が一瞬だけ暗くなり、復帰すると自分の部屋ではなく、仮想の街の景色だ。

「わりぃな、朝で動けるの少ないんだ」

声のする方を向けば無愛想そうな剣士が一人。

「ボクは別に構わないよ」

「あいよ。状況はメールどおりだ」

「竜騎士の人たち、大丈夫かな?」

分厚い雲の空を見上げてアリウムは言った。