隊長は激戦で傷んだ装備のメンテナンスをしていた。かなり無茶をさせていたから当然とはいえ、出費はかなりものになりそうだ。
「隊長」
「どうした?」
声のしたほうを見れば、ギルドメンバーのタワシも防御服をばらしている途中だ。外部装甲を外して、内側の衝撃吸収層に傷がないか、触りながら確かめている。
「あいつみたいなの、またでるんすかね」
傷がありそうな箇所にシールを貼りながら彼は言った。盾を使っていたはずなのに全身にシールが及びそうなのは、盾と自身で仲間を守ったからだろう。
「ベータ時代の遺跡がまだ残っているなら、あり得るんじゃないか」
「勘弁してほしいっすよ」
「同感だ。また、出てきたらどうする?」
「そんときは、また落としてやりますよ」
彼はさらりといった。その言葉に隊長は、そうだな、と短き、そして、うめいた。どうやら、無理をしすぎたらしい。内部もかなり傷んでいるのだ。
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アーセナル・バタフライが浮上した海域に船団が再集結している。海底の地形に大きな影響が出ているかの調査のためだ。大体は、あの場に居合わせた船だが、新しい船も混じっている。
「船長、知らない船が増えてますね」
「あの一件で海に目を向ける奴が増えてるんだ」
「一攫千金狙いですか?」
「さぁな」
船長は双眼鏡で新しく合流した船を確認すると汽笛を鳴らすよう命じた。汽笛の音を確かめて、
「理由は何でもいい。新しい仲間だ。歓迎しよう」
相手の船も汽笛を鳴らした。
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サトゥルヌス城の庭園にスグリ、へゲル、アリウム、エリス、田辺、オフィーリア、エプシロンがテーブルを囲んで紅茶を飲んでいた。天気は晴れ、風も心地よい。庭園の木々はよく手入れされ、花が咲き乱れている。芝生には雑草の一つも生えていない。
「さて、本題に入りましょうか」
ソーサーにカップをそっとおいて、
「なぜ、アーセナルバタフライが今になって動き出したのか。答えは簡単。今も私たちがギルド戦をしているからよ」
「なんだよ、それ」
とへゲル。
「ギルド戦なんぼだろ、このゲーム」
「ボクも同じ」
「僕もだ」
「でも、遊ぶ幅はもっとありますよね」
茶葉の銘柄を確かめながらオフィーリアはいった。現実には存在しない独自の品種だ。栽培、加工、運搬、販売をしているのはプレイヤーがいる。そういう遊び方もできるのがExtreme Worldの特徴だ。
「そうね。あなたの言う通り。戦いを捨てることが望ましい、と思っていたヒトたちがアーセナル・バタフライを作ったのよ」
「どっちが好戦的なんだ?」
スグリの言葉にヘゲルは呆れ調子でいった。
「これは推測だけれど、今の水準にあわせて再設計されているんじゃないかしら?」
「情報収集のために俺たちが襲われた、と」
田辺の言葉にスグリは頷いた。
「小瀬の推測があたったか」
「だったら、ボクたちがギルド戦をしていなかったら、アーセナル・バタフライは出てこなかったのかな?」
アリウムの質問にはあえてはぐらかすようにスグリは言った。
「内部はヒトが乗る前提の構造になっていた。居住区らしきものも確認されているわ」
なら、と想像を膨らませてみる。内部はゆったりとした作りで、案内板の多さも多かった。訓練された人間を乗せて飛ぶだけではなさそう。純粋な戦闘艦はではないとすると、
「宇宙旅行に連れて行ってくれる、とか?」
「その可能性はあったと思うわ」
田辺はため息をついて、
「平和であれば星々を渡る船、好戦的であればすべてを焼き尽くす劫火か。加減を知らないな」
『半端よりは良いと判断する』
白黒つけたがるエリスらしい、と田辺は苦笑する。
「今回もよくやってくれたわ。近いうちにみんなでご飯でも食べに行きましょう」
「何かすごい集まりな気がする」
アリウムの言葉にスグリは微笑んで、
「ただのオフ会よ」
一区切りついたところでオフィーリアはこう切り出した。
「ところでスグリさん」
「何かしら」
「あの装備使いたかったですね」
オフィーリアの言葉にスグリはしばし考えてから、
「そうね」
と遠くを見る目をしながら頷いた。