DAYS

混戦

イルミネア大陸ノース・フォレストの北方120kmの海上。
海底地図コンプリートに情熱を燃やす男たちがいた。
彼らは攻城戦や各種生産活動、クエストなどよりもこの世界の海底地図作成に力を入れていた。
ギルドマスターにとやかく言われることもなく、ギルドメンバーとの煩わしい人間関係に悩まされることとも無縁だった。
どうも、この海底地図作成に没頭する人間にはお人好しが多いらしかった。
この付近にいるのは10名程度だ。
大体が3人前後でチームを組んでそれぞれの船に乗り込んでいる。
それぞれが調査結果を共有し、大きな海底地図を作り上げる形だ。
操作の大半は機械任せでもあって、モニターを時折見ながら彼らはのんびりと雑談を楽しんだりしていた。
男の一人が北の方を指差した。
「なぁ、何か見えるぞ」
隣で釣りをしていた男はその方を見ず、
「竜か、機竜だろ。見慣れてるだろう?」
「それなら言わないさ。雲みたいだ」
雲という表現に竿をおいて、男の指さす方角を見た。
「……なんだ?」
別方面を調査していた船から無線が入った。
『もの凄い数の機竜だ。群れなんてもんじゃない……』
『こっちも確認した。まるでイナゴみたいだ』
『何処の機竜隊だ? エンブレムも何もないぞ』
無線が入る中、その機竜の群れが頭上に辿りついた。
イナゴすら生やさしいと思えるほどの機竜機竜機竜機竜
どれも超音速戦闘に特化したタイプだ。
「陸の連中に知らせよう」
「緊急信号の方が良さそうだ」
「そのようだな……」
機竜の一機がこちらに向けて低空で迫ってきている。
彼らが緊急信号を発信するのと同時、機竜が20mm機銃を数秒間発砲。
アルミ製の船体を紙のように破り、粉砕した。

緊急信号は陸に届くことはなかったが、同胞が調査情報の送信停止に気がついた。
無線は繋がらず、困っていたところにあるプレイヤーの携帯電話が鳴った。
海上で正体不明の機竜隊と出くわし、襲撃されたという内容のメールだ。
何やら不穏そうだ、と言うのはわかるのだが、どうすればいいのかわからない。
海の上でも陸の上でも彼らは他のギルドと独立していたからだ。
とはいえ、さすがにそのままにするのも気が引けた彼は、プレイヤーの集うBBSに情報を書き込むことにした。
同じ内容の記事が既に投稿されてあって、彼はその記事に返信する形で投稿する。
そして、端末の画面を見ると、キャラクターがデッドダウンしたとのメッセージ。
何者かの攻撃を受けて通信施設事吹き飛ばされたようだ。
恐らく、件の機竜だろう、と溜息をついてから自分の記事に追記する。
敵は既にイルミネア大陸上空に到達している、と。

書き込みは大規模ギルドの一部が既に把握し、同盟ギルドへの緊急情報として伝達された。
機竜や機兵を有するギルドだけではなく、歩兵のみのギルドも臨戦態勢を取った。
書き込まれた記事やゲーム内で収集した情報から判断すると、正体不明の機竜隊は総数3万超。
第1世代から第2世代の機竜で構成されていると言う。
機竜そのものは既に存在するものだが、その所属も目的も不明だった。
一つ言えるのはサウス・フォレスト事件の時と同じようにすべてのプレイヤーにとって敵であること。
単機でクエスト遂行中だったブラック・アウトにも迎撃の命令が下った。
「面倒事の多いゲームだ」
「楽しそうだと判断する」
「否定しないよ」
事実、彼はこの状況を楽しんでいた。
友軍の空中管制機から無線が入った。
『こちら、空中管制機オールシーイングアイ。状況が混乱している。これより緊急編成を行う』
混乱しているという割に管制官は冷静だった。
互いの欠点を埋め、長所が埋められるよう適切な編成を進めていく。
『ブラック・アウト、君は僚機を欠いている。ワイルドファイア、君も迷子か」
火と言う言葉に田辺は思わず眉をひそめた。
まさか、な、と。
『これよりブラック・アウトをエクスカリバー1、ワイルドファイアをエクスカリバー2とする』
「エクスカリバー1、了解」
ブラック・アウトの周囲をサウス・フォレストの戦いよりも多い数の機竜や機兵が飛んでいる。
後方から高速で接近する機兵が一機、ワイルドファイアだ。
『ブラック・アウト、聞こえるか?』
声の主と後方についた真紅の機体には見覚えがある。
「聞こえるぞ、エクスカリバー2。久しぶりだな」
『ああ、久しぶりだ。ったく、何がオールシーイングアイだ。ふざけやがって』
毒づく通信相手に田辺は苦笑しながら、
「落ち着けよ、エクスカリバー2。良く見通してるじゃないか、名前通りだ」
ふっと短く息を吐き出す音に続いて、やれやれと、
『……だな』
一息置いて、力強く、はっきりと、
『よろしく頼むぜ、エクスカリバー1』
「こちらこそ頼む。エクスカリバー2、今は休戦だ」
田辺の言葉を鼻で笑い、
『誰がフレンドリーファイアなんかするかよ。そっちこそ、へまするなよ』
笑って田辺は返した。
「誰がするものか」

空中艦隊と合流する、とエリスは田辺に告げた。
「何とか間に合ったな……」
視界の一部を拡大してみると、確かに艦隊が見える。
運営直轄ギルド「エクセキューショナーズ」の所有する空中艦隊だ。
機竜や機兵の空母、艦首に主砲を有する戦艦、それらの中央に巨大な旗艦が見える。
「こんなもの、いつの間に作ってたんだ?」
「衛星軌道上に待機していたと推測する」
「有事の際は突入してくるわけか」
こんなものが攻めてきたらどのようなギルドであっても勝ち目はないだろうな、と田辺は思う。
『オールシーイングアイより全機。PB-1からPB-5が主砲発射体制に入った。至急退避せよ』
既にブラック・アウト、ワイルドファイア以下エクスカリバー隊は退避済みだ。
田辺の視界に重なるように主砲発射までのカウントダウンがはじまる。
PB-1から5の主砲周囲に光の魔方陣が展開された。
周囲のエーテルを3重の魔方陣が集め、変換し、加速させる。
カウントがゼロになる直前、3重の魔方陣が一つになり、大きな魔方陣を形成する。
砲撃。
機竜群は回避せず直撃を受ける。
田辺は着弾空域を拡大し、敵の被害状況を確認する。
濃度の高い白い煙が広がり、その中を稲妻が走る。
着弾から4秒経過。
何も見えない。
着弾から7秒経過。
雲のような煙が晴れ始める。
10秒経過。
薄くなった煙を貫いてミサイルの群れが飛び出してきた。
田辺はすぐにAMS(ミサイル迎撃システム)をアクティブにして、長距離ミサイルを全弾発射。
ワイルドファイアも両肩に搭載したミサイルを発射する。
両軍の放ったミサイルが爆発し、誘爆し、巨大な火球を作る。

『敵、機竜群は第1世代から第2世代の機竜を改良したものと推測される。各機、油断するな』
新しい情報を入手次第、すぐに送信する、とオールシーイングアイ。
エクスカリバー1、エクスカリバー2は一度、補給のために空中空母に戻っていた。
「まさか、お前と共闘する羽目になるとはねぇ」
無人機械が自動的に弾薬を補充し、装甲の簡易補修を続ける。
「そう言うゲームらしいから、な。プレイヤーの名前、聞いてなかったな」
シートに身体を沈めてゆっくりと田辺は尋ねた。
視界の一部にエクスカリバー2のコックピットとパイロットの姿が重ねって見える。
彼はヘルメットを外して、
「紅蓮だ」
散らした赤の髪の毛、鋭さのある赤の瞳、まさに炎だ。
「紅蓮、か」
「良い名前だろ?」
「悪くないな」
「そう言うのは素直に良いって言うもんだろ。ったく、性格が悪いぜ」
紅蓮の言葉に田辺は苦く笑う。
名乗ろうと田辺が思ったところで、
「ところで田辺さんよ」
「なんだ?」
「この戦い、勝てると思うか?」
「良い勝負にはなるだろうな。勝つかどうかは向こうの気分次第だろう」
「はぁ?」
「向こうは真っ当な手段で機竜を確保してない。もしかすると、望むように物を生み出せるのかも知れん」
田辺は今まで得た情報から考えられる敵の姿を紅蓮に話す。
「その手段がチートか何かはわからん。が、ゲーム内に目的があるとは思えない」
紅蓮は田辺の言葉を補うように続ける。
「何処かのギルドじゃない。そうなると、土地や資源が欲しいわけでもない」
「ゲームの外に目的があると考えても良い。たとえば、Extreme Worldのサービス終了などだ」
「一端の工作員じゃねぇか」
赤い髪の少年はカメラに向かって身を乗り出して、語気を荒げる。
「あくまで可能性の話だよ」
「じゃぁ、目的はなんだろな」
「誰かの気を引くため、と言うのも考えられる」
「それにしちゃあ、やることがでかすぎだろ。そうだな、腕試しってのはどうだ?」
田辺はゲーム内に目的はない、と否定したが紅蓮の言葉に考え直す。
「腕試し、か」
紅蓮はヘルメットを被りながら、
「あれだよ、ハッカーがウィルス作るようなもんだ」
「フムン、その可能性はありそうだ」
「エクスカリバー2、補給完了」
「エクスカリバー1、補給完了」
正面の大型ゲートが開き風が吹き込む。
その遙か向こうには戦場が見える。
「エクスカリバー隊、発進する」

『エクスカリバー1、後ろだ。何やってやがる!!』
エクスカリバー2が叫ぶ。
エクスカリバー1の後ろについているのはMD-35の改良型だ。
追尾性能の高いミサイルとシールドを貫通するエーテル凝縮弾を搭載している化け物。
『そのまま、直進だ。あたるなよ』
『了解』
真上から斬りこんでくるのは赤の機兵だ。
真紅の槍を構えた突撃。
エクスカリバー1の追撃に集中していたMD-35をエクスカリバー2の槍が貫通する。
それでも飛行を続けるMD-35の上に立つと、屈みこんで連続で拳を叩き込む。
MD-35の流麗な装甲がゆがみ、ひしゃげ、剥がれる。
内部構造に胸部搭載の機銃を浴びせると、MD-35を蹴飛ばして離脱。
バランスを失い落下しながらMD-35が爆発する。
『助かった。ありがとう』
『貸し1つにしておいてやろう』
『了解。必ず返す』
AMSの砲身の強制冷却が終わったのを田辺は確認する。
旧ブラック・アウトの方が機体に余裕があった。
感覚が追いついていないようだ。
『気に入らないなぁ』
見知らぬ声が通信に割り込んでくる。
エリスが通信元を特定、敵機竜群中央の大型機竜だ。
『そういう人をライバル扱いするんだ……』
『俺は人間様の得物を無人機でやろうってのが気にいらねぇな』
すぐさま、紅蓮が応じる。
『機体に振り回されるような人だよ?』
『機体に振り回される、だ? 自己紹介でもしてんのか?』
エクスカリバー2の通信に断続的なノイズ、おそらくは笑っているのだろう。
『悔しかったら単機で来いよ。お前の言う機体に振り回される野郎とやらはサシでやる度胸があったぜ』
『それも良いけどねー、今はそれはメインじゃないから残念でした♪ そーゆーのはまた今度ね~☆』
脳天気な言葉にエクスカリバー2が叫ぶ。
『舐めるなーっ!!』
彼の叫びに応じるように機竜群がエクスカリバー2に向かってくる。
赤の機兵が背部の推進器を全開にして、機竜群に突貫開始。
黒の機竜がミサイルで援護しながら続く。
炎に似た軌跡を残してエクスカリバー2が機竜群に突貫する。
エクスカリバー1が多弾頭ミサイルを打ち込みながら続く。
彼らが通り抜けた分、機竜は減っていた。
が、その穴を埋めるように敵の機竜は増え、道を塞ぐ。
『エクスカリバー1、キリがないな』
『エクスカリバー2、競争でもするか』
『その話、乗った』
エクスカリバー2が両の手にエーテルで出来たブレードを握り、手当たり次第に機竜を叩き斬る。
機竜のシールドにはむらがあり、強度にばらつきがある。
ある機体は前と後ろの強度が高く、上下の強度が低い、などだ。
攻撃を受けたときに瞬時にその部分だけ強度を上げるタイプの場合、反対方向が脆くなったりもする。
彼らはそれをよく理解していた。
『やっぱり、こいつら硬いだけだな』
上機嫌にエクスカリバー2は言った。
ブラック・アウトの放ったミサイルが機体上部に命中し、敵の機竜が火に包まれる。
『間違いない。特性は変わってない』
『シューティングゲームの敵か、こいつらはよ』
彼の台詞を知ってか知らずか、敵の機竜が機銃とミサイルを雨のようにエクスカリバー1と2に向けて撃ち込む。
360度から放たれる攻撃に対し、2機は同じ対応をとった。
エーテルバーストシステムを起動、それぞれの機体を中心に大規模な爆発が発生する。
その爆発は周囲の敵機竜とそれらの放ったミサイル、機銃弾を飲み込み蒸発させた。

オフィーリアエプシロンの二人は地上の魔術師部隊の護衛にあたっていた。
彼らの頭上、はるか高い場所で敵と味方の機竜が戦っている。
時折、落下してくる機竜の残骸を銃撃や魔術で破壊するのが彼らの役割だった。
「あの声……」
無線から聞こえてきた敵の大ボスの声に聞き覚えがあった。
「ケイさん、ですね」
エプシロンの思考を補うようにオフィーリアが言った。
「まさか、とは思っていたけど」
「真上から残骸、来ます」
レーダーに映る機竜は非常に大きい。
銃撃でも魔術でも破壊はできないだろう。
エプシロン、防御魔術を展開。
半球のバリアが彼らを包み込む。
バリアから外れた場所に機竜が落下し、爆発、炎上する。
炎と破片をバリアが跳ね返す。
爆発が収まると、バリアを解除して、
「行って来るよ」
「あまり、待たせたら駄目ですよ」
「そうだね」
苦笑いをしながらエプシロンは駆けだす。
そして、歩兵用のボードを圧縮空間から呼び出し飛び乗る。
ボードがエーテルを浮力と推力に変換し、加速する。
青く長い髪が風に流れる。
彼を見送るオフィーリアに指定通信が来た。
『のこのこ前線に出張ってくると思ってたよ、むっつりさん!』
声と同時、機竜の残骸を突き破って何かが出てきた。
未だに熱を帯びた残骸の上に「立つ」熊のぬいぐるみ、ぶりきの兵隊、木製の人形。
残骸の上ではなく、ひっくり返したおもちゃ箱なら良かったかも知れない。
意思を持つように自ら動き出す光景は不気味だった。
ぶりきの兵隊がライフルを構える。
危険を感じてオフィーリアは塹壕に伏せる。
着弾音と土の飛び散る音、雨のように土の降り注ぐ音。
手前に落ちたようだが、威力は洒落にならなかった。
横に居る男がJesus!!などと叫んでいる。
武器を狙撃銃から短機関銃2丁に持ち替えてオフィーリアは応戦を開始する。
『すまない』
「聞こえてましたか?」
『無線の中継は君に任せたままだったからね』
エプシロンの声に溜息が混じった。
『後で注意しておくよ』
「あまり、厳しくしないであげてください。荒れたくなる時もありますから」
『りょーかい。それじゃ』
通信が終わる。
携帯無線の範囲からエプシロンが離脱する。
「D:6:Aにて正体不明の敵と交戦中、至急応援をください」
応援を要請しながらぶりきの兵隊の隊列に向かって連続発砲。
ぶりきが浅く凹み、兵隊が後ろに数mほど吹っ飛び乾いた音を立てる。
オブジェクト破壊メッセージは表示されない。
オフィーリアは構わず、射撃を続行する。
「応援が来るまで持ちこたえましょう」
彼女の言葉に周囲のキャラクターが頷き、攻撃を持って応える。

彼の勘通り、彼女は見晴らしの良い丘の上にいた。
キャラクターの容姿が本人と同じだったのですぐにわかった。
全力で飛ばしてきた彼をケイは潤んだ瞳で迎えた。
「来てくれると思ってたよ、アズ兄」
それは兄が、ではなく恋人が来てくれたかのような雰囲気だ。
「お前の仕業だろう思った」
そう言って彼はケイを抱きしめる。
左の腕は腰に右の腕は頭を抱く形。
「アズ兄?」
彼の声に感情が含まれないことを怪訝に思って、ケイは顔を上げる。
「何が望みだい?」
「え?」
彼のふっと短く息を吐く音。
続く言葉には優しさが含まれていて、
「何が望みなのか尋ねているんだよ」
「えっと……?」
それでも何か違和感があった。
「僕も怒るんだよ、わからないのかい?」
少女から身体を離すと、彼は少女の左右の頬を左右の手で掴む。
戦闘服のグリップの良いグローブと少女の滑らかな肌の相性は抜群だった。
これ以上はないというぐらいしっかりと掴んで、引っ張る。
「やるにしてももう少しマシなやり方があっただろう?」
それでも彼は微笑を浮かべている。
「いつも通り、後ろから抱きつくなりなんなりすれば良かっただろう?」
言い終えると頬を解放した。
泣きそうな顔で少女は彼を見上げて、
「だって、最近、アズ兄冷たいし。……こうやってゲームする時間はあるのに」
「こっちにも都合があるんだよ。それなら、素直に会いたいと言えば良いだろう」
彼は肩をすくめると、
「彼女は休日潰して本来の仕事だよ」
「じゃぁ、なんで彼女さんがここにいるの?」
「並列処理はアンドロイドが得意とする分野だからね」
「……彼女さんのことばっか知ってるんだね」
「そして君の事は良く知らない。仮にも家族なのに変な話だ」
「他人事みたいに言わないでよ、アズ兄のいじわる……」
「今日、この後は一応、空いているんだ。これが終わったら一緒にでかけないか?」
一呼吸おいて、
「この前、会ったときに伝えておくべきだったよ。今日が休みだったってね。ごめんよ、ケイ」
まだ、痛むのかケイは頬をさすりながら、
「……ほんと?」
「本当さ」
「じゃぁ、すぐに終わりにするね♪」
どうやって、終わりにするかによって事態がさらにややこしくなる恐れがある、とエプシロンは考えて、
「すぐに消せるのか?」
「うん♪ だってすぐに行きたいし☆」
「いや、消すと怪しまれる。増やすのをやめて戦った方が良い」
「えー」
嫌そうな顔をするケイにエプシロンはすかさず提案した。
「僕も手伝うから」
「うん♪」
笑顔でケイは言った。

スグリは各ギルドの魔術師を召集し、大規模攻撃魔術の準備を進めていた。
使用する魔術は空間をえぐり取る魔術だ。
規模が有効半径がkm単位の為、地上絵のごとく魔法陣が描かれている。
その魔法陣の模様にそってエーテルを散布する機械と魔術師がある。
魔法陣のほぼ中央にスグリはいた。
ある程度の規模の魔術になると魔術の威力を強化するエンハンサー、エーテルの制御量を増やすアンプリファイアと呼ばれる魔術師の協力が必要になる。
今、行おうとしている規模の魔術だと、それらが部隊単位で必要だった。
準備は着々と進んでいた。
スグリが指示を出そうとしたところで、オープン回線での通信が飛び込んできた。
『今からボスバトルするよ~、デスペナ覚悟の自信家とか募集中だからね~☆』
スグリは次の言葉を待つ。
『ブラック・アウトが先に落ちるか、このリヴァイアサンが先に落ちるか……勝負はそれだけだよ? 精々全力を尽くしてね♪』
大ボスとも言える機体は敵の機竜群中央にいるようだ。
彼女がデータを調べる前に敵から知りたい情報が来た。
第1世代の拠点防衛用の大型機竜だ。
移動速度は低いが戦闘機竜を上回る分厚い装甲と、圧倒的な火力が特徴だが、さらに火力が増していた。
機竜5機をシールドごと貫通するだろう。
「これはさすがに寝返るヒトたちもでるかしら?」
彼女の言葉を証明するように味方から通信が入る。
機竜隊の一部が反乱を起こした!! 地上でも動きがあるぞ!』
了解、あなたも気をつけてね、と短く返すと指揮車に駆け込んで、
「解放回線で全体に伝えるわ。準備は良い?」
通信士は笑顔でいつでも、と答えた。
ざっと、見回した限りではここにいるのは味方のようだ。
「あなたについた方がこの戦いは楽しい。そう思うんですよ」
スグリの心を見透かしたように彼はそう言って、ヘッドセットを渡した。
「ありがとう」
ヘッドセットをつけると、指揮車中の視線が彼女に集中した。
だから、と言って彼女はどうもしなかった。
左手でヘッドホン部分を押さえながら、
エンケの空隙のスグリより全軍へ。言うことはいつも通りよ、楽しみなさい。その為にどうすればいいのか、何をなすべきなのか考えて行動すること。以上」
正面の大型ディスプレイから幾つか味方の部隊の色が塗り変わる。
味方の緑から敵を示す赤へ。
混沌としてきたこの状況をスグリは楽しんでいた。
そうない状況なのだから楽しまなければ大損だろう、と。
「地上の護衛部隊に出番が来たと伝えて。私は準備を続けるわ」

手甲型の武器の中でアリウムはこぶしを強く握っていた。
ころりと態度を変えた相手が気にいらないのだ。
ぐちゃぐちゃにかき回して、気が済んだらそそくさやめる。
そういうプレイはオフラインのゲームでやるべきだ。
さらに彼女が気に入らないのは正面から来る造反部隊だ。
不利な戦いだとわかった瞬間にこれだ。
アリウムは意地は無いの、と問いたくなるのを堪えた。
彼らの狙いはアリウムの後方にある大型の魔法陣の破壊だろう。
アリウムの前にいる重武装の剣士たちが盾を構えた。
パワードスーツを着込んだ剣士の一人が言う。
「銃剣士連中は突破してきた連中の始末を頼む」
隊長らしく、彼は周囲の剣士たちに二、三の指示を出してから、
「突撃する」
身体を低くし突撃を開始する。
響くのは突撃の足音とパワードスーツの力強い駆動音。
そして、狙撃手の銃撃だ。
味方の狙撃手が造反部隊に向けて銃撃を開始したのだ。
数分してから双方の部隊が防衛戦を突破し、奥に流れ込み始める。
アリウム、左腕の中を構えて射撃準備。
周囲にいる銃剣士たちも同じような姿勢をとり、射撃を開始した。
だが、アリウムを含む幾人かは撃たなかった。
その代わり、剣を構えてラインを突破してきた敵に向けて突撃する。
「行くよっ」

『生きてるか、ブラック・アウト』
エクスカリバー2――ワイルドファイア――の問いに田辺は浅く息を吐いてから、
「生きてるよ。そっちはどうだ?」
『見ての通りだ』
「なるほど、元気そうだ」
並走する両機の後方、敵の機竜集団には球状の空間が生まれている。
エーテルバーストで吹き飛ばした跡だ。
だが、黒の機竜と紅の機兵はエーテルバーストで敵集団を攪乱し、強引に抜けてきたことを感じさせなかった。
補給に戻るぞ、と田辺が口を開こうとしたところで、開放回線で、
『今からボスバトルするよ~、デスペナ覚悟の自信家とか募集中だからね~☆』
通信で聞こえるのは能天気な声。
「まったく、気まぐれだな」
『乗るのか?』
「こちらがそうでなくても向こうは仕掛けてくるだろう」
『そうじゃなくて、どうするんだよ』
「踊らされるのは好きじゃないんでね」
田辺の言葉を補うようにエリスが続ける。
「踊らねば損だと判断する」
『お前ら二人揃ってそれかよ』
通信機越しにため息が聞こえる。
「お前はどうするんだ?」
田辺は紅蓮に尋ねた。
レーダーには友軍が敵軍に寝返っている様子が見て取れた。
『雑魚は任せとけよ』
「了解。落とされるなよ」
『そっちもな。お前は俺に落とされるんだからな』
「その言葉、そっくり返す」
『くく、楽しみにしてるぜ』
その言葉を合図に赤の機兵が雲を引きながら最寄の敵集団に向かっていく。
周囲を待機していた味方の機兵群がエクスカリバー2に続いて移動を開始する。
敵の機竜群に機体を向けながら田辺はオールシーイングアイの言葉を聞いた。
『各機、造反部隊及び敵機竜群を殲滅し、制空権を奪還せよ』

紅蓮は機体を造反した部隊に向ける。
左右を見れば黒や灰、空の色の機兵が並び、上を見れば機竜隊がV字隊形で雲を引いている。
敵も機竜と機兵の混成部隊のようだった。
良く見れば新型の機兵も混じっている。
彼の乗っている機体よりも、機動性も高く航続距離も長い。
より空と親和性の高い。
だから、と紅蓮は冷静に考える。
こちらの方が不利とも有利とも言えた。
機兵が真価を発揮する格闘戦では機体の強度や重さがものを言う。
強度が低ければ打撃をすることも、打撃を防ぐことができない。
重さが軽ければ速度はでるが、一撃が弱くなる。
後はパイロットの技量次第だ。
『各機散開しろ』
機竜と機兵の陣形が左右と前後から崩れて、空に散らばっていく。
散らばってできた空間の中央を光線が貫いた。
すぐさま彼はその方向を睨んだ。
その部分だけ切り取ったように拡大され、青色の機兵が見えた。
「オリジナルかよ」
データバンクを検索したが該当する機体は無い。
何処か華奢な感じのするデザインの機兵だ。
本体の印象とは逆にそれが構えている大型の狙撃銃は無骨だった。
彼は少女と大きな武器と言う連想をした。
不釣合いなのだ。
しかし、と前置きをしてから、
「いつまでもその場にいるのは素人だよなぁ!」
赤の機兵が爆発的な加速を見せる。

エプシロンは赤の機兵に向けて連続で射撃する。
だが、赤の機兵はひるむことなく一直線に突っ込んでくる。
相手は直情タイプらしかった。
射撃はコンピュータに任せ、近・中距離用の攻撃魔術「ウィンドウォール」の詠唱を開始。
ウィンドウォールは名前の通り、風の壁を構築する魔術で最初は防御魔術として作られたのだが、加速して相手に叩き付ける方法が確立してからは攻撃魔術としても使われるようになった。
彼もこれを攻撃用として使うつもりだった。
魔術用の照準が赤の機兵を捉える。
胸部の装甲が開き、魔法陣が露出する。
「エクセキューションっ」
叫ぶのは詠唱完了の台詞。
不可視の風が赤の機兵に向かって放つ。
「んなのわかってるんだよぉっ!」
叫びと同時、紅蓮はボードの先を空に向け、シールドをボードの下に展開する。
シールドの形状はボードと同じで、
「風なんか流せばおしまいなんだよ」
風の壁がシールドにぶつかって砕ける。
赤の機兵が風の壁を波に乗るように超える。
「行くぜぇっ!!」
構えるのは対機兵用の大型の槍だ。
重力とスラスターを使った全速力で青の機兵に向かって突撃する。
エプシロンは防壁を展開、直後に槍が激突し、白い火花が飛び散る。
槍の先が3つに分かれ、内部が露出した。
砲身だとエプシロンが気づいたのは紅蓮が砲撃をしてからだ。
防壁が威力に耐えられず消失する。
突き出された槍を咄嗟に右へ回避する。
すれ違いざま、二つの機兵は互いの顔を見た。

玩具の人形の砲撃にさらされながら、オフィーリアたちは防衛を続けていた。
弾倉を交換しながら彼女は赤と青の機兵が戦う空を見上げる。
突撃してきた赤の機兵を防壁で青の機兵はやり過ごそうとしたが突破され、青の機兵は緊急回避。
すれ違いざまに赤の機兵が青の機兵に拳を放ち、青の頭部センサーを砕いた。
だが、青の機兵は怯まずに右の杖を通り過ぎる赤の機兵に向けて、魔法を行使した。
右に回避する赤の機兵の左腕がかげろうのようなものに包まれると同時、装甲が歪み剥がれ落ちる。
「どちらの味方なのでしょうね」
彼女は苦く笑いながら、温もりの残る弾倉にそっと触れた。
エプシロンの作った属性弾だ。
属性弾は魔術が込められているのだが、内部の魔術が活性化している時は人の同じ温かさを持つ。
「いきますよ」
彼女は周囲に宣言して、ブリキの兵隊どもに連射撃。
「それもいつもより派手に」
微笑みと共に彼女は両の手に突撃銃を持った。
着弾と同時、魔術が発動し、ブリキの兵隊が燃え上がる。

ブラック・アウトが射程にとらえるよりも早く、相手の拠点防衛用機竜が攻撃を仕掛けてきた。
こちらに向かって飛来してくるのは16連の青の光だ。
田辺は右方向にブレイク。
だが、光も角度を変えてブラック・アウトに迫る。
蛇のようにしつこい奴だ、と田辺は思った。
追尾する光を見てエリスは叫んだ。
「バカなっ!!」
それもオープン回線で。
当然、敵にも聞こえているだろう。
叫びとは裏腹にエリスAMSを後方の追尾ビームに向けて発射。
AMSのビームと反応して、敵の追尾ビームが爆発する。
黒の機竜は反転し再度、距離を詰めながら、
エリス、何で叫んだ?」
「その方が相手に混乱したと認識できるだろう」
「しかし、この会話はオープンだ。相手も聞いている。つまり、混乱していると嘘つく気はないわけだ」
「そのようだ」
「ははは、こいつぅ」
「似合わない台詞だ」
「相手もそう思ってるだろうな」
田辺の言葉を肯定するように16連のビームと2門の超長距離ビーム砲がブラック・アウトに向けて放たれる。
ブラック・アウト、再び回避行動。

機体の操作は田辺に任せてエリスは敵への攻撃手段を考えていた。
敵は超長距離・超火力の空中要塞だが一つだけ弱点があった。
装甲が薄く、通常の空対空ミサイルでもダメージを与えられるのだ。
しかし、シールドを装備しているので、装甲に攻撃するにはまずシールドジェネレータを破壊しなければならない。
一度の接近でシールドジェネレータと装甲を破壊できればいいがミサイルを放つ隙を突かれる可能性がある。
ブラック・アウトの機体特性を考えると、ヒットアンドアウェイが最適だろう。
それを田辺に伝えると、彼は頷きと加速で応じた。
一撃でも被弾すればひとたまりも無いだろう、と考えたが被弾する可能性は低いとエリスは否定した。
田辺はブラック・アウトも自身の能力も知っている。
機体に振り回される、とリヴァイアサンのパイロットは言っていたが、その自覚は彼にもあることを彼女は操縦から理解していた。
問題は無い、とエリスは判断し、彼が望むように機動をするよう機体を制御する。
砲弾と光の雨をかわし、雲を割いて黒の機竜が加速した。

苛立ちに似た気持ちを覚えながら、ケイは突撃してくる黒の機竜に連射撃を行う。
全武装で射撃しているのにも関わらず、攻撃は一つも当たっていない。
大して機体の性能は生かせない癖に英雄面して、友軍がついてきて当然という態度が気に入らない。
あの赤の機兵のパイロットならわかってくれそうだったのにあの機竜――ブラック・アウト――にべったりだ。
何より腹立たしいのは早く終わりにして出かけたいというのに落ちないことだろう。
こちらが撤収すれば済むことだがそれは兄に「不自然だからやめた方が良い」と止められている。
今は敵を落とすことに集中しよう。
溜まったストレスは甘えることで解消すれば良いのだから。
黒の機竜に向かう弾幕がさらに濃くなった。

田辺がリヴァイアサンの姿を観察できたのはほんの一瞬だけだった。
大きさに圧倒されると言った感慨を覚える暇もなく、今までに経験が無いほど密度の高い攻撃を受けたからだ。
先まであった対空砲に加えて近距離用対空機銃、短距離の高機動ミサイルも撃ってきた。
対空砲と機銃はともかく、ミサイルがしつこい。
打ち落としても次が放たれ、かわしても振り切れない。
弾幕の嵐に飛び込んでからミサイルアラートとAMSの温度上昇アラートが消えない。
シールドジェネレータは流線型の機体の中央の外周部に4カ所ある。
ブラック・アウトは体勢を立て直すため、左旋回してリヴァイアサンから距離をとる。
大きくバンクして再び、リヴァイアサンに機首を向ける。
狙うのはリヴァイアサン右側面にあるシールドジェネレータだ。

壁のように目の前に立ちはだかる弾幕にも機体が通れるだけの隙間がある。
黒の機竜はその隙間に一直線に飛び込む。
上下、左右に隙間を通り抜ける機体は大きく揺れる。
弾幕を切り抜けると、リヴァイアサンの右側面が見えた。
弾幕が止んでいるのは
「シールドを展開したか」
田辺の言葉どおり、薄緑の光の壁が目の前に現れる。
ブラック・アウトは機体下部にあるスラスターを使って、機体を水平にたまったまま垂直上昇し、シールドを避ける。
足元から強烈な圧迫感、追尾式のビームだ。
機首下面のスラスターと後部背面のスラスターを噴射して、機体を垂直にして、最大推力。
飛行機雲を残しながらブラック・アウトは安全圏まで退避しようとする。
ビームのほうがはやく、進路をふさぐように集束している。
光でできた網だ。
エアブレーキを展開して急減速、ビームはブラック・アウトの前方300mで点となり爆発する。
爆発の横を切り抜けなら、
「手ごわいと判断する」
「まったくだな」
敵は自分の機体の特性をしっかりと把握しているようだ。
この戦いに田辺は子どもが蟻の巣を破壊するような印象を受けていたが、どうも変えないといけないようだ。
攻撃中にシールドが解除される特性を使って攻撃するのは難しいだろう。
機体の後方を警戒しながら田辺は問うた。
「EBSを前方に集中させて、シールドと装甲を貫けるか?」
「可能だと推測する」
確実にできるのなら、エリスは判断する、と断言するが推測と言った。
可能性としては低いのだろうな、と田辺は考える。
データが少ない。確実性は低い、とエリス
「失敗した場合、こちらが堕ちるのだけは確かだ」
「だが、代案はない。現在の装備でシールドの突破が可能な武装はEBSのみだ」
「なら、行くぞ、エリス
「了解した」
機体を反転させて垂直降下、推力と重力を使った急加速。
黒の機竜は一瞬で音を追い抜き一直線にリヴァイアサンに突撃する。
速度にリヴァイアサンの砲撃が追いつかず、機体の後方で炸裂。
リヴァイアサンが砲撃を止め、シールドを展開する。
ブラック・アウト、EBSを集束モードで起動。
機首のスリットが開きエーテルを放出、瞬時にエーテルは攻撃に変換され、リヴァイアサンのシールドを砕いた。
激しい衝撃に田辺の身体のセンサーがダウンし、視界も感覚も消え失せた。
リヴァイアサンの中央に激突したブラック・アウトは巨体の内部を食い散らすよう突き進む。
黒の小さな機竜が敵の巨体を上から下へ貫通するまで2秒もかからなかった。
エリスはEBSを停止させ、安全圏まで退避を開始。
機体の左右にある2機のシールドジェネレータのうち右側のシールドジェネレータが破損している。
飛行に支障はない。
「……終わったのか?」
復帰した田辺が周囲を見ながら言った。
後方、巨大な機竜の身体が炎と煙、小爆発を伴って崩れている。
しかし、レーダには敵の機竜群が映ったままだ。
田辺は操縦系に問題ないか確認し、再び、ブラック・アウトと同調する。
「まだ、終わってないぞ」
リヴァイアサンが再び、小爆発。
破片が煙をまとって飛び散る。
そのうちの一つが真上に向かって、飛翔する。
機竜だ。
それも、見覚えがある。
「ブラック・アウトのコピーか……っ!」
彼の叫びに応じるかのように長距離ミサイルが放たれた。

スグリは攻撃対象を上空から迫り来るリヴァイアサンの亡骸に切り替えた。
エーテルディスペンサーによりエーテル魔術が使用可能濃度に達している。
各補助系魔術師により濃度は均一化にされ、後はスグリたちが攻撃魔術を唱えるだけだ。
周囲からは様々な高さの声が詠唱を続けていて、独特の歌を作り上げていた。
スグリは深呼吸してから、直径数キロに及ぶ魔法陣の中央に立った。
「我ら、エーテルを征する者なり」
彼女の声に続いて十数人の魔術師たちが続く。
周囲のエーテルが声に反応し、蛍の光に似た光を帯びる。
詠唱が進むにつれて、光が強くなる。
「エクセキューション」
まわりの光が上昇し、黒の巨体の下に幕のように広がる。
光が黒に変わり、亡骸がゆっくりと膜に飲み込まれていく。
「消えてなくなりなさい」
さらに黒の膜は広がり他の敵の機竜をも飲み込む。
ある機竜は膜に丸呑みにされ、ある機竜は膜をかすめて機体の一部を飲み込まれる。
スグリは無線機に向かって、
「最後まで見ている必要は無いわ。撤収するわよ」
いつまでもこうやって眺めているわけにはいかない。
造反した歩兵に対応しなければならないのだから。

ミサイルを振り切ろうにも機体の推力があがらない。
田辺は咄嗟に生きている機体左にあるシールドジェネレータを作動させる。
さらに壊れたシールドジェネレータ分のエネルギーを送り込む。
設計限界を超える強度の光の防壁がブラック・アウトの左側面に発生した。
長距離ミサイルは防壁に激突し、爆発。
シールドジェネレータが異常加熱、爆発の危険性があるとしてエリスはシールドジェネレータ2基を切り離した。
機体内部のエーテルの流れを阻害していた要素が消えたことにより、推進器が生き返る。
ブラック・アウト、最高速度でコピーのブラック・アウトを振り切ろうと試みる。
素早く田辺は機体の状況を確認する。
使用可能な武装は機銃、AMS2門、空対空ミサイル2発。
シールドジェネレータやミサイルを使ったことで随分と軽くなったものだ。
格闘戦能力は高くなったに違いない、と田辺は考える。
エリスも同じことを考えているだろう。
「勝てると思うか?」
田辺はエリスに軽い調子で問うた。
「難しいと判断する」
そこでエリスは一拍おいた。
まるで呼吸を整えるように。
「勝ちたい。その為には」
エリスの言葉に重ねるように田辺も同じ言葉を続けた。
「力を貸して欲しい」

ブラック・アウト、速度を維持したまま機首を反転。
大きな半円を描いてリヴァイアサン――コピーのブラック・アウト――に向かう。
リヴァイアサン、AMSを集束モードで射撃、ブラック・アウトを薙ごうとする。
黒の機竜は機首を水平にしたまま、スラスターを使って高度をずらして光の刃を回避しながら空対空ミサイル発射。
さらにリヴァイアサンはAMSでミサイルを切り裂いた。
爆発をシールドで突き抜けてリヴァイアサンは短距離空対空ミサイルを発射。
ブラック・アウトは加速を殺さぬよう緩やかな角度で上昇する。
その後ろをリヴァイアサンの放ったミサイル2発が食いつく。
エリスは装甲を切り離す。
後方に流れた装甲とミサイルが激突し爆発する。
AMSをリヴァイアサンに向けるが田辺は機体を左にブレイク。
虚空を白の光が薙いだ。
リヴァイアサンがAMSを作動させたのだ。
距離を取りながらブラック・アウトはAMSで応戦するが、リヴァイアサンのシールドに弾かれ、飛沫になる。
装甲には届かない。
左にブレイクするブラック・アウトをリヴァイアサンがスラスターを使った急旋回をして追いかける。
リヴァイアサン、ブラック・アウトの後ろを取ると搭載したミサイル一斉射。
計8発のミサイルがブラック・アウトに目掛けて加速する。
黒の機竜は左側のスラスターを噴射、機体がブーメランのように回転し、飛んでいく。
ミサイル群のうちの1つがブラック・アウトを追いかけようと機動するが、他のミサイルが追突し連鎖的に爆発する。
爆発の横をリヴァイアサンが加速する。
回転する黒の機竜の前に出る形だ。
それを待っていたと言わんばかりに黒の機竜は回転を止め、後ろについた。
ブラック・アウト、空対空ミサイル2発を同時発射し、速度をあげる。
リヴァイアサンのAMSの砲身が後ろに向き、空対空ミサイル2発に照準を定める。
黒の機竜はさらに速度をあげて、ミサイルの上方に出る。
2つの機竜の間を白の光が交差し、爆発が生まれた。
リヴァイアサンの放った光はブラック・アウトのミサイルに命中し、ブラック・アウトの放った光はリヴァイアサンの胴体を貫いていた。
黒い煙を噴き上げながら、リヴァイアサンは高度を下げていく。
ふいにリヴァイアサンの姿が消える。
ブラック・アウトのレーダーからも光学カメラからも消えた。
「何処へ消えた!?」
さらに周囲を覆っていた機竜の群れも消えている。
「索敵範囲を広げたが造反組以外の敵影は確認できない」
「終わったのか……?」
コントロールをエリスに譲り、田辺は目を閉じた。
「全く、疲れる奴だ」