[[DAYS]] * 『異世界にて』 [#f2adf849] 青年は自分のおかれた状況が理解できずにいた。 少なくとも自分の知っている場所ではない。 壁は小さく切り出した石を積み重ねたものだ。 照明は見慣れた電気の明かりではなく、ろうそくか何か燃やしているものだ。 昨晩は学校の友人の家で出たばかりの格闘ゲームの相手をさせられていた。 夜の1時ぐらいまでやり倒した後、軽く酒を飲んでバカな話をして解散したはずだ。 確か、3時だ。 自室のベッドに倒れ込むように寝る時、視界に一瞬だけ目覚まし時計が入った。 記憶が正しければだが。 だが、今、自分がいるのは自室ではない。 上着のポケットから取り出したVIST(仮想情報空間端末)は圏外だ。 夢にしては現実感がありすぎるようにも思うがこれは夢だろう、と彼は思うことにした。 扉を開ける音。 反射的に彼はその方向を見た。 水差しを持った白の少女だ。 よく見れば頭には猫の耳のようなものがついている。 「……ゲームのやり過ぎか?」 青年の呟きが聞こえたのか、 「どうかしましたか?」 と少女が問う。 「大丈夫だ、大丈夫」 どう考えても大丈夫ではないがな、と心の中で続ける。 「でも、悩んでるような顔をしてますよ」 調子が狂いっぱなしだ、と彼は顔を手で押さえようとして、やめた。 この少女のことだからこちらのことを気遣ってくるに違いない。 「どうして、俺はここにいるんだ?」 「……覚えてないのですか?」 夢遊病者にでもなったのか、俺は、と彼は問う。 「入ってきた後、いきなり倒れてしまったしまったので……」 「それは迷惑をかけたな」 困ったような笑みを浮かべるだけで言葉はなかった。 「どうやら、俺は少しばかり変わった夢を見ているようだ」 少し驚いた表情で少女は青年を見る。 耳がぴんと立っているので驚いているに違いない。 尻尾があれば同じようになっているのだろう。 青年の位置からは見えないが。 「……寝て覚めたらいるべき場所にいる、と思う」 「ねこが眠るお手伝いをしましょうか?」 「横にいてくれ」 少女の言葉の意味を理解したのかしなかったのか、彼はぶっきらぼうにそう言った。 早く覚めてくれ、と彼は彼女の返答を待たずに瞳を閉じる。 人に横の気配、恐らくその少女だろう。 青年は心の底にあった緊張が解れていくのを感じた。 額に何かが触れる感触。 少女の手だろう。 その指は少しばかり細いが優しい。 懐かしさを覚えながら、彼は眠りに落ちた。 遠くから何か音が聞こえる。 規則正しい高い電子音。 布団を被ったまま、時計の位置を手で探り拳で叩いて止める。 寝返りを打って天井を見れば、見慣れた自分の部屋だ。 「……見慣れた、か」 今日の夢は随分と変わった夢だった。 詳細を思いだそうとしたところで、頭が痛みを訴える。 調子に乗って飲み過ぎたか、と彼は頭を抑える。 おぼろげに見えていた夢のイメージが消し飛んだのがわかる。 夢の記憶が脆いと聞いたことはあるが本当らしい、とだるい身体をひきずり、買い置きの薬を探しながら彼は思う。 しかし、と彼は続ける。 不思議と優しい夢だった。 詳しくは思い出せなくても、それだけ覚えていれば十分だ。 区切りをつけて彼は日常に復帰した。 ** 背景の類 [#tced6836] 猫耳の少女は[[【拙速尋問者】:http://project.hacca.jp/]]で公開されている「ゆうやけ ないて」の神殿の猫さんです。 青年の方は自作の架空オンラインゲーム「Extreme World」に出てくる登場人物の一人です。 精進します、はい。