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アンダー・ア・バーニング・スカイ(1)【EW-B-6】

## プロット

  • アンダー・ア・バーニング・スカイ(1) EW-B-6
     - 主役: 様々なギルドのマスター
     - 機竜全機投入の大規模作戦の準備
       - 大陸全体の戦力、今までの関係をも超えた編成
       - 規模に関係なく様々なギルドが参加し、前線部隊を支えるべく、奮闘する
     - 作戦開始
       - 長距離攻撃能力のある機竜による長距離砲撃支援
       - 空中格闘戦能力のある機竜による敵機竜および機兵迎撃
       - 待機していた機竜群によるミサイル一斉発射
     - 機竜隊が破った包囲網の穴に飛び込む本命の突入ポッド群

## 本文

 イルミネア大陸各地の機竜を有するギルドは作戦の準備に追われていた。ステップ1の敵機竜迎撃は大陸あげての総力戦だ。機竜も、人も、弾薬も一点に集中させて、アーセナル・バタフライを守る敵機竜の群れに穴をあける。字にすればシンプルなのにやることは多い。予定されていたあらゆるギルド戦のキャンセル、これを機に不意打ちを仕掛けようとするギルドへの警戒と牽制、出撃スケジュールの変更、人員と物資の輸送、ほかにもこまごまとした調整、やるべきことは山のようにあった。

「空戦がしたかったんだよ」

 全機出撃と書かれたボードを見て、ギルド「第500飛行隊」のギルドマスター「山辺」は呟いた。

「大ごとですね、長」

 端末でブラック・アウトの整備状況を確認してながら田辺が言う。

「おかげで俺たちは心置きなく飛べてますよ」
「やりがいはあるが……これがやりがい搾取か……」
「疲れてます?」
「それなりに。血が騒いで仕方ない」
「それは、皆一緒ですよ」

 整備状況を見ると、可能な限りのミサイルやレーザー砲が積まれ、増量分を追加の推進器で補うという強引な構成に仕上がっている。

『装備テスト完了、いつでも飛べる』
「今のエリスの言葉、聞きました?」
「彼女も昂るか」
「この戦い、楽しみましょう」
「楽しむために少し、休んでくる。年には勝てないな」

 ログアウトして山辺の姿が消える。

「休憩終わり。次の打ち合わせは――」

 楽しい祭りのための準備はプレイヤーでも多い、と田辺は苦笑する。

 アーセナル・バタフライに突入する人員の選定は困難を極めていた。ダンジョン攻略が主目的のギルドは多いが、ダンジョン開拓を主としたギルドは少ない。筆頭にあがったのはギルド「オールトの雲」の「アリウム」だ。彼女はあちこちのギルド戦に助っ人として参加する傍ら、様々なダンジョンの開拓を行っていた。エッジファイターズ戦で見つかった例の遺跡の調査も彼女が行っている。危険を感じて調査を中断し帰還する機転の良さも選ばれた理由だ。

「意外といないんだね、楽しいのに」

 自分しかいない会議室でアリウムがぼやいていると、後ろから声がした。

「すでに知られているお店を回るほうが楽しいやつもの多いのさ」
「あれ、突入したときの隊長さん?」
「おうよ、久しぶりだな、ネギ坊主」
「隊長さんもダンジョン探索好き?」
「俺が得意なのは地下迷宮だがな。ほかにもいるぜ」

 ダンジョンは地下迷宮型、近未来型の2つにわけられる。外観やアイテムに違いはあるが、仕掛けを解いて進み、時に戦闘し、アイテムを得るという大枠は同じだ。攻略法やマップのない新規ダンジョンに潜れるかどうかが問われている。アリウムはそう理解した。
 隊長の後ろ、フルフェイスの防具に身を包んでいるため、誰がなんだかわからないが、あの時の作戦に参加したメンバーだ。

「あんたの護衛のために来た。守ってみせるとも」
「それはすごい心強いよ。ボクの装備は速度重視だから」
「しかし、操縦士が見つからないんだったな」
「操縦士……」

 アリウムは該当する人がいないか必死に思い出そうとする。ひとり思いついた。突入作戦のときの輸送機のパイロットだ。

「あの時の操縦士さんはどう?」
「あいつは確かにベテランだが、敵地侵入とまた違うぞ」
「大丈夫だと思う。あの人の飛び方、すごい綺麗だったから」
「抽象的だな」
「隊長、意外とそういうのあたりますよ」

 隊長がくだんのパイロットに連絡をとると、二つ返事だった。

「高難易度ミッションは嫌いだと言っていたのに、食いつきがいいな」
「どうしたんだろうね」

 隊長がアリウムを見る。フルフェイスの防護服を着ているため、表情はわからないが両肩を少し上げてから落とす仕草でなんとなく、察せられた。お前が口説いたといわれても、地上降下する前にありがとう、といったぐらいだ。

「まだまだ集めるべき人材がいるぞ」
「え、そうなの?」
「あいつを内側から破壊するのが得意な連中が必要だ」
「うん。あとトラップ対策が得意な人もいるよ」
「いい気づきだ。もう数名は欲しいな」

 全員揃ったらこの小さな会議室はぎゅうぎゅうになりそうだ、とアリウムは思った。

 作戦決行日、大陸北方の通称「氷壁の砦」の上空に無数の機竜たちが集結していた。ミサイルを撃ってから格闘戦に移る標準的な機竜、火力と防御力を重視したガンシップ型機竜、電子情報戦と空中管制に特化した機竜までが飛んでいる。機竜の見本市のようだ、と田辺は思った。レーダー上のマーカーにはギルド名、敵か味方、どこの隊かといった情報が表示されるが、今回は隊しか表示されていない。

「混成部隊にもほどがあるな」

 ブラック・アウトを先頭にV字編隊を組んでいる。右の一番後ろには機竜ではなく、赤い機兵が飛んでいた。田辺は通信をオンにして、機兵のパイロットに話しかける。

「久しぶりな、元気にしてたか。フレア1」

 正面切って戦い、旧ブラック・アウトを撃墜した敵への挨拶がこれでいいのか、と田辺は苦笑する。

『お前を倒したくってうずうずしている。そちらも元気そうで何よりだ』

 好戦的だが社交的な返事だ。

『おまえを倒すのは、俺だからな。あんなガラクタにやられるなよ』
「あんたこそ、落とされるなよ。サシでやりあうのを楽しみにしてるんだ」

 機兵は本来、空を飛ばない人型ロボット兵器だ。それを肩と背面の推進器強化、サーフボードのような補助飛行ユニットを組み合わせて、飛行しているのがフレア1だ。この名がコールサインなのか、機体名なのか。まさかプレイヤーネームということはないだろう。フレア1以外の呼び方を田辺は知らなかった。呼びかけて彼が返事するのだから、今はそれでいい。

『いうじゃねえか、ブラック・アウト』

 二人の会話に全体通信が割り込んできた。空中管制機からのものだ。

『こちら空中管制機フローズンアイ。作戦開始時刻まであと3分だ。各自最終チェックをしながら聞いてくれ。こんな戦い、人生に何度も経験できるものではない。だから、楽しもう。そして、勝って歴史に名前を刻んでやろう。以上、通信終わり』

 田辺の真面目にしめるという予想に反して、盛り上げる方向に突っ走った。まわりを見れば翼を軽く振っている機竜がいくつかあり、オープン回線は熱量の高いコメントで溢れていた。

『いい管制官を連れてるじゃないか』
「彼はこういうときじゃないと来ないんだ」
『祭り好きってことか』
「そうかもな」

 対象をフレア1から編隊全体に切り替える。

「アンブロークン隊全機に告げる。間もなく、ミサイル攻撃がはじまる。アーセナル・バタフライの自動防衛ラインに侵入後は敵機竜群との格闘戦が予想されている。が、我々はその手の戦いは得意だ。経験を活かせ、味方と自分を信じろ」

 編隊の下を無数の白煙が飛んでいく。友軍のミサイル攻撃がはじまったのだ。

「戦闘開始だ、存分に暴れるぞ」

 2機編成にわかれてアンブロークン隊が敵機竜群に襲い掛かっていく。その先陣をブラック・アウトとフレア1の異種混成隊が切る。

 アーセナル・バタフライの突入に使われる機竜は通常の輸送機ではなく、20人を高速で輸送するというニッチなコンセプトの機竜だった。今回の作戦のため、より強力なエンジンに換装されたそうだが、外観に変化はないという。戦闘機の使われるのと同じシートに身体を預けているのが、破壊工作チーム。装甲服ごと固定されているのが防御チームだ。

『予定通り、通路ができた。アロー1、突入を許可する』
「アロー1、了解」

 客席の最前列にいるアリウムは、管制官とパイロットのやり取りを聞いた。

「機長から連絡です。本機はこれより、ハイウェイより危険な領域をマッハ2で飛行し、皆さまを最速最短で目的地にお届けします。激しい揺れが想定されますので、皆々様、感覚フィードバックをオフにする。揺れの表現を抑えるなどの対処をお願いします」

 返事を待たずに機長が告げた。

「それではエキサイティングな空の旅をお楽しみください」

 瞬間的に加速した。外を見ようとしていたのであろう誰かがうめき声を漏らす。身体の小さいアリウムは比較的、Gの影響を受けにくいがそれでも体力の消耗は感じた。しかし、不安はない。この人だったら安心できるという確信がアリウムにはあった。機竜も飛行機のこともよくわからないが、動きに危なっかしさを感じない。道の遠くまで見て適度な減速と旋回をしているイメージがある。敵機竜群の隙間は一定の形ではなく、戦況によって幅も形も変化するにもかかわらず。

「まるで、未来が見えてるみたいだ」

 アリウムは感嘆の声を漏らした。

「いいか。アーセナル・バタフライの直前で減速はするが、止まらない。チャンスは数秒だ。降下シグナルが点灯したら一斉に飛び降りるんだ」

 防御チームは吊り下げられているので、手荷物さえ忘れずに持てばいい。問題は座席に座っている破壊工作チームだ。身体をシートに預け、ベルトで固定しているため、簡単には降りれない。降下直前に座席が上がり、180度回転し、降下開始と同時に床が開き、シートの固定が解除されるという乱暴極まりない方法で解決していた。強引だ、と抗議する者もいれば、降りれればいいという者もいた。
 シグナルが点灯、床が開く。キャビン内が白く照らされる。アーセナル・バタフライの装甲の反射だ。後部の防御チームが雄たけびをあげながら降下し、続いて破壊工作チームがシートから落とされ、悲鳴をあげる。

「ちゃんと迎えに来てね!」

 浮遊感と高揚感を味わいながらアリウムは無線機に叫ぶ。

『任せろ』

 短い応答。アロー1はヴェイパートレイルを引きながら急速離脱。アリウムたちは空飛ぶ迷宮に飛び乗った。