DAYS

『AD3145(1)』

「ナイトさん、何かいってやってくださいよぉ」
泣きついてきたのは訓練中のワイバーン隊の拓郎だ。
「おいおい、どうした」
拓郎の言葉に全長30mほどある大きな人型ロボットが腕を組んだまま振り返る。
彼が乗っている訓練機より一回り小さかったが、飛行機型の宇宙船と人型のロボットでは存在感が違う。
無機的なデザインなので表情はわからないが、その挙動や声は人間味があると拓郎は思う。
この船の防衛システムであるエリスの相棒だと聞いているが詳しいことは知らない。
エリスに取り込まれた人間だとか、自ら望んで機体に意識を移植しただの噂は聞いているが、どれも眉唾ものだ。
「それが、エリスさんが……」
拓郎は何があったのか話し始めた。
要約すると、飛行訓練中の隊員二人が所定のコースから外れて、競争を始めてしまった。
それを発見したエリスが隊員二人の機体の制御権を奪い延々と説教している、ということだった。
「ふむ、それはどう考えても二人に非があるだろう」
「でも、言い方がすごい厳しくて、限度があると思います」
「限度か。人の命がかかってるんだぞ」
ナイトから拓郎の機体にデータが送られてきた。
船外の概要マップだ。
どこにどのような施設があるのかが細かく記されている。
「その二人が飛んだコースをマップに重ねられるか?」
「はい、できます。ちょっと待ってください」
ホログラフィックキーボードを呼び出して、拓郎は飛行データとマップを重ねた。
「コース上には何がある?」
「特には何も。障害になるものはありません」
「ふぅむ。ワイバーン隊に支給されているマップを見せてくれないか?」
返事とともに拓郎はナイトにデータを転送した。
「確かに何もないな。俺が送ったマップをよく見てくれ」
拓郎は飛行コース付近を拡大して表示させる。
言われた通りよくみると緊急脱出用のハッチが5個ある。
「船内で大規模な災害が発生した時、脱出するためのハッチがあちこちに設けてある。その付近は原則飛行禁止だ」
「それで、あんなに厳しく……」
「そういうことだ。あいつ、昔から伝えるのが下手だからな」
苦笑まじりにナイトは言った。