「ついにこの日が来たか」
「ずっと話してた気がするけど、実際に会って話すのはじめてなんだよね」
シアーの言葉に誠司は計器類を確認しながら頷く。
「全系統異常なし」
「術式装備も問題ないよ」
「問題があるとしたら、やや華美なところだな」
隣にいるシアーに目を向けないように意識しつつ、誠司は言った。念のために彼女の使える結界を新しい技術である術式で強化してある。体力消費は抑えられ、結界の強度や規模の調整がしやすくなり、シアーは喜んでいた。
「いまさらじゃない?」
「そういう問題じゃないんだ」
誠司は通信機のスイッチを入れ、
「――こちらりゅうじん、管制室、聞こえるか?」
「はい、管制室。聞こえますよ」
「りゅうじん、発進する」
「了解。いってらっしゃい」
管制室にいる社長とのいつも通りのやり取りを済ませる。母艦のレールを白い船体が滑り、海面に小さなしぶきをあげて沈んでいく。誠司は母艦と十分な距離が取れたことを確認すると、
「動力潜航に切り替える。遅れてどやされるのは勘弁だ」
「了解。航路上に障害物なし。大丈夫何かあったら守るから」
「喧嘩になったら計画はご破算なんだからな」
「最初にプリステラが攻撃されたかもってなった時に応戦しようとしたの誰だっけ」
「記憶にございませんね」
「誰も誠司だとはいってませんよ」
「はいはい」
海が鮮やかな青から濃い青、黒と急速に色を変えていく。外はもう太陽の光の届かない深海だ。
「集合地点は深度4,000mか。注意は怠るなよ」
「任せておいて」
「了解です」
シアーとディープブルーがそれぞれ返事したのを確認して、
「では、諸君、いこうか」
誠司はスロットルをついた。推力が増し、潜航速度が増す。海流も貫いて目標地点に一直線だ。
「荒っぽい運転するよね」
「揺れてはいないだろう」
「でも、それ、ディープブルーのおかげ」
「それは認める。おかげで予定通り到着だ」
「プリステラはいるけど、ロミオは……?」
近づいてプリステラと回線を物理的に繋ぐ。
「どうなってる?」
『ロミオならいるよ。そこの岩に擬態してる』
プリステラの言葉に誠司とシアー、ディープブルーが岩を見る。表面に堆積物もあるように見えるが、よく観察すると模様だとわかる。
「すごい擬態だな」
「各種センサーともに岩と判定しています」
『もうすぐ来るって時になったら、擬態が始まっちゃって。何度か話しかけたけどダメだった』
「シアー、会話任せる」
シアーはこくっと頷くと、外部マイクをオン。
「こんにちは、私はシアー」
挨拶が終わるかどうかのタイミングでロミオは擬態を解き、墨を吐いた。視界は当然ながらソナーまで妨害する墨に誠司は神経を研ぎ澄ませる。攻撃にすぐ反応するためだ。しかし、攻撃はなかった。墨が薄まっていくと、そこにはロミオの姿はなかった。