『変わる前に』

「何!?」
「読みやすい攻撃だわ」
ハガラズの構える剣の先に立ってカシスは言った。
台詞が言い終わると同時にハガラズは剣を手放し、拳を放つ。
「それも外れ」
彼女の言葉通り、拳は宙を殴っただけだ。
二打目を放つ前に身体に軽い衝撃。
気付くとハガラズは地面に大の字で倒れていた。
そんなハガラズの胸の上にちょんと正座しながら、
「私の勝ちね」
涼しそうにカシスは言った。

ハガラズは向かいの席で、特大のチョコレートパフェに挑むカシスを眺めて、
「お前、飛べるんだったよなぁ」
剣の上に立てたところで、剣が落ちれば乗っているものも落ちる。
が、カシスは人やアンドロイドと違い空が飛べるのだ。
足場が崩れても、その場にいられる。
「私の飛ぶところはよく見ているでしょう?」
「忘れてた」
チョコアイスをひとさじ口の中にいれ、目を閉じてカシス
「良くそれで生き延びれたわね」
「運が良かったんだろ」
その言葉に目を開いて、カシスハガラズを見る。
「でも、生きてて良かったと思うわ」
「お前も、殺そうとしたり、助けようとしたり忙しいな」
「お互いにね」
「だな」
そういってハガラズは苦めのホットコーヒーを一口。
「よく、そんな苦いのが飲めるわね」
「よく、そんな甘いのが食えるな」
「……」
「まぁ、あれだ。味覚は人それぞれって奴だ」
「お互い、ヒトではないのによく言えるわね」
「盾食う虫も好き好きって奴だな」
「蓼食う虫も好き好きの間違いよ」
「細かいところ気にするなよ」
「それは気にしなさい」
ぴしゃりというカシスハガラズは少したじろぐ。
「話は変わるが、地球行きの秘密兵器があと少しで出来るぜ」
「どんなものなのかしら?」
「まぁ、ちょいとした小細工だな。楽しみにしとけ」
「そうさせてもらうわ」
見れば、特大だったはずのパフェはもう無くなっている。
その小さな身体の何処に入るのかハガラズは疑問に思うが、
「甘いものは別腹ってことか?」