DAYS

「僕はFSを追いかけているんだ」
魚が頭の男は言った。
ヘゲルは「はぁ」と間抜けな返事をするしかなかった。
「正確にはネットロアだね」
「ネットロアってなんだ」
「都市伝説のネット版だよ」
男の声は楽しそうだ。
FSと戦うために生まれた身としては、都市伝説扱いされると複雑な思いだった。自分は命をかけてきたというのに。
「それで、うちのギルマスに用か」
「噂で聞いたからねぃ」
「そのネット何とかになっているわけじゃねぇのか」
「ほかにもFSを自称している人は多いんだ。だから、噂レベルなのさ」
「ほむ」
「それでできれば実際に話ができたら、と思ったんだけどアポなしは強引だったね」
いまいち、つかみ所がないな、とヘゲルは顔に出さずに思う。言葉に感情が籠もってないような、本気ではないと感じる。
対する自分は声に感情がにじんでいるだろう、とも思うが隠せないのだからしょうがない。
「そろそろ戻ってくるぞ。どうせ、買い物だろうからな」
「親しいのかい」
余計なことを言った、と思ったがもう遅い。
「一緒に暮らしてたからなぁ」
「恋人だったのかな」
そんなわけがあるか、とヘゲルが言おうとしたのを遮るように、
「あら、そう思われるのは心外だわ」
扉を見ればスグリが立っていた。
「よう、はやかったな」
「その様子だと随分とサービスしたようね」
「いや、そんことはないぜ」
「そう?」
冷ややかな視線にヘゲルは身震いする。背中に氷をつっこまれたような、とはこのことだ。
スグリはヘゲルの隣に腰を下ろし、
「こんにちは、いおさん。用件はヘゲルから聞いたわ。FSを探しているそうね」
「そう。人類がはじめて遭遇した地球外知的生命体にして、はじめて戦いになった知的生命体。今も生きていると聞いたらあいたいと思うのがふつうではないかな?」
「随分とFSを買っているのね」
「公開されている戦闘記録や書籍は調べたからねぃ。過大評価ではないと思っているよ。でも、なかなか本物には出会えないんだ」
「その戦闘記録には人類の勝利が、書籍にも絶滅した、と書いてあるはずよ。まるで生きているかのような物言いね」
「そこからが噂だ。実はFSは生き残っている。人に姿を変えて潜んでいる。人類に報復を考えているのだとか、人に同化して自分が何者かわからなくなっているのだとか、奇妙な事件はすべてFSの仕業ですでに人類に対する復讐ははじまっているのだとか、いろいろさ」
「殺したり、生きていることにしたり、忙しい話だわ」
「本当だね。FSを自称する人もたくさん見てきた」
「ふぅん。真偽はどうやって見極めたのかしら?」
「すぐに異能を見せたがるからトリックを破ったのさ」
いおは肩をすくめた。
「なるほどね。では、ここに来たのは実際に会う段取りをつけるため、かしら」
「鋭いねぃ」
「誰だってわかるわ」
スグリはそういって微笑んだ。目に宿る鋭い光はそのままで、ヘゲルはおっかねぇなぁ、と思った。