#author("2024-06-02T08:30:18+09:00","default:sesuna","sesuna")
[[DAYS]]

*After the story【EW-A-4】 [#h430d955]

 制空権を維持しようと思って索敵したら敵の空母を中心とした打撃艦隊を見つけて沈めただとか、敵が山を発破して崩してきただとか、それを砲撃で打ち破っただとか、山の裏で陣取っていた敵ギルドマスターをピンポイント爆撃で仕留めたとか、サプライズ合戦は敵ギルドマスターの爆殺によって、エンケの空隙連合の勝利に終わった。戦闘ログの解析やら振り返りやらは得意なギルドに任せよう。アズは狙撃手ばかりのギルド「ロッシュの限界」のスポッターとして参加していたが、今回はアルギズとその友人たちの補佐をすることになり、なかなかハードな戦いだった。
 アズは椅子の背もたれに身体を預け、足で床を蹴ってゆっくり回る。こうしていると落ち着くのだ。仕事中でもたまにやっているが、周りも慣れたようで何も言わない。それどこから同じように回っている。視界の隅で新着通知のアイコンが点灯した。休日だから緊急の連絡か雑談のどちらかだ。何でもありませんように、と声に出しながら通知を開くと、ライラックからダイレクトメッセージが届いていた。

"派手でしたわねー"
"そうですね"
"もっと、派手でもよかったんですのよ"

 それなら、EWで武装の開発をしてもらうのがはやそうだが、それは黙っておく。実際始まると兵器開発競争が加速するのが目に見えている。GMに技術を独占したと判断されると、特殊部隊に襲撃されてしまう。この人なら、独占はせずに開放しながら全体を押し上げる動きもできそうだ、とも思ったがこれも伏せておく。

"十分派手ですよ。というか、見てたんですか?"
"ええ、ロビーで"

 ロビーなら確かにギルド戦の中継をしている。多少のタイムラグやギルドマスターの居場所が映されないなどの制約はあるが、全体を俯瞰して楽しむには必要十分だ。

"参加はされないんですか?"
"スポーツは観て楽しむものですのよ"
"参加すると時間もかかりますしね"

 ついさっきまで数時間ぶっ通しでゲームをやっておいて、我ながら説得力がない、と椅子を反対方向に回しながら思う。

"祝勝会はするんですの?"
"しますよ。しばらくしたら出発します"
"あら、それは少々、残念"

 何が残念だろう、と思っていたら、メッセージが削除された。

"楽しんできてくださいまし"

 祝勝会の会場はアルギズの部屋だ。皆、住んでいるところがばらばらで、近場の数名だけが実際に集まり、残りはリモートでの参加だ。空中投影された映像には十名程度の顔が並んでいた。

「アズ、こちらへどうぞ」
「ありがとう」

 案内されるまま、Yシャツとジーンズというラフな格好のアルギズの横に座る。四人掛けのテーブル、正面にいるのは先ほどまで一緒に戦っていたプレイヤーのはずだが、キャラクターの容姿と実際の容姿が結びつかない。

「こちらでは初めまして」

 アズは定番の挨拶をして出方を見てみる。

「はじめまして。エプシロンさん、ですよね」
「ええ、まぁ」
「第2小隊のシラスです。改めてよろしくお願いします」

 差し出された手は指も腕もどこか華奢な印象があったが、力強い握手にアズは力を入れ返す。

「僕は、第3小隊のカナです。改めてよろしく」

 今度の握手は柔らかく、軽い握手だ。

「みんなハンドルだよね」

 あえてアズは砕けた調子で言った。二人ともそうそう、と頷いた。

「本名はおいおい話していこうと思う」
「彼女は全部、知っているけれど」

 シラスはアルギズを見て笑う。同期なのだから、知っているのは当然だ。つられてアルギズを見ると、ちょうど電話でピザとポテト、飲み物を注文しているところだった。

「料理到着まで20分ほどお待ちください」
『こっち先にはじめてもいいか?』
「0次会許可します」
『0次回の許可が出たぞー!』
『うぃー』

 すごいゆるいノリだ、とゲーム中の冷静な動きとのギャップにアズは驚く。それに気が付いたのか、

「集中力いりますからね。オンオフの切り替えも必要な能力なんですよ」

 横にいたアルギズが耳打ちする。なるほどね、と思いながら、改めて、アルギズの不思議な人脈にアズは感嘆の声を漏らした。