[[DAYS]] *気まぐれ [#n9378b75] きっかけは他愛もない会話だった。 そのあのヒトのそのお願いには遊び心のようなものを感じた。 けど、それを実際にやってみる気はほとんどなかった、その時は。 だから、私は「考えておくわ」とそう返した。 もし、空から降りて、あのヒトの家の窓を叩いたらどんな反応をするだろう、と考えると実際にやってみるのも悪くない、とそう思うようになってきた。 姿が見えて問題になると困るから時間は深夜にして。 それでも起きて、空を見ているヒトはいるに違いない。 何か策がいるだろう。 翌日に会ってもあのヒトはその話題をしなかった。 おそらくは冗談だったのだろう。 そう考えているうちに本当にやってみよう、という気持ちが強くなってきた。 飛んでいる間は軽く光を誤魔化すことにしよう。 そうしたら、騒がれる心配はなくなる。 その次の晩はちょうど満月だった。 天気はよいけど、このあたりの桜はほとんど散ってしまった。 時折、気流に乗った花びらが横を流れていく。 住宅街は静かで皆眠っているようだった。 ところどころ明かりがついているのは、夜更かしが好きなヒトか昼夜のリズムが違うヒトがいることの証。 あのヒトもきっと、遅くまで起きている。 私の考えていたようにあのヒトの部屋のあかりはついていた。 ゆっくりと近づいて、屋根に降りる。 瓦と屋根を痛めないよう注意を払いながら、そっと歩き、窓を叩いた。 あのヒトはカーテンを開けると、私がいることに驚き、口をパクパクさせていた。 たっぷり数秒間、驚いたあとに窓をあけて、どうして、と尋ねてきた。 だから、私は笑みを添えて「面白そうだと思ったから」と告げた。