[[DAYS]] * 『初詣』 [#p297065d] 早朝の境内には彼と彼女の二人しかいなかった。 「さすがに誰もいないね」 とガウンのジャケットを着た少年が少女にいった。 「狙い通りです」 黒の服の少女が微笑みながら返した。 どこへ行っても初詣には変わりはないから、と彼らは近所の小さな神社を選んだ。 ここも元旦にはそれなりに行列があって、甘酒の配布などもやっていたらしい。 「静かなものだ」 言葉と一緒に漏れた息が白く固まって後ろに流れていく。 「気温と風の弱さもあってなおさらそう感じます」 木々に囲まれた石の階段を二人は登っていく。 歩いていて少女はあることに気付いた。 「足、揃ってますね」 「二人揃って右足、左足を出しているのか」 「はい」 そういって二人は笑った。 しばらくして、彼らは拝殿にたどり着いた。 二人は財布から五円玉を取り出して、賽銭箱へ同時に投げ込む。 拍手からお辞儀のタイミング、目を開くタイミングまで同じで、 「終わったよ」 「終わりました」 発言のタイミングまで同じだった。 「では、戻ろうか」 と二人は階段を降り始める。 「何をお願いしたんですか?」 「皆が幸せになろうと思えるように、さ。君はなんてお願いしたんだい?」 「身近な人たちの安全と幸せを。二人とも誰かのためにお願いしてるんですね」 「そうかな。回りまわって自分のことに繋がるよ」 「その理屈はずるいですよ。何にでもあてはまりますから」 と微笑みながら少女は言った。 「ずるいのは認める」 と少年も笑った。