#author("2024-06-02T08:04:36+09:00","default:sesuna","sesuna") [[DAYS]] *ばれました【D-F-EX2】 [#h717b646] 廊下ですれ違ったのは間違いなく、あの二人だった。営業できていた、とは想像はできるが、まさか、この学校まで来るとは。知り合いは来ないと見込んでこの学校にしたというのに。 まったく、と思いながらカシスは屋上に続く階段をのぼる。屋上から駐車場を見下ろすと、車に乗る二人がちょうど見えた。運転手がアルギズなのは当然だろう。狙撃特化の戦闘用アンドロイドの空間認識能力は非常に高い。目は当然よいので事故とは無縁だろう。 「カシス?」 「何かしら、優也」 「何を見てるの?」 「あの車」 フェンス越しに優也も車を見下ろす。会社の名前とロゴが入っているから、乗っている人物はそれなりに年が離れていそうだが、 「知り合いが乗ってるの?」 「そうといえば、そうね」 自分が悩みともいえないもやもやを抱えていた時ですら、最後まで聞いてぴたっと原因を言い当てるカシスが、ぼかした物言いをするのが優也にとって意外だった。車はわざわざロータリーを一周してから、裏門を抜けてスロープを降りていく。 「これは見られたかもしれないわね」 「だいぶ、離れているよ」 「彼女、とても目がいいの」 と言ったところでカシスの端末が鳴った。 「何か用かしら?」 『もしかして、と思ったんですが、カシスさんでしたか。挨拶が遅れてすみません』 「単刀直入にどうぞ」 『彼氏さん、かわいいですね』 「あなたからそういわれるとは思ってなかったわ」 カシスはマイクに拾われない程度に小さく溜息をついた。 『否定しないんですね』 「ええ、私の可愛い恋人よ」 横で聞いていた優也が顔を赤らめて、もごもごと何かを言った。 『ほかの人に話しませんから安心してください』 「ここだけの話、といって広めるのもなしよ」 『秘密は守る主義です』 「口が軽かったら仕事にならないものね」 『そういうことです。では、勉強頑張ってくださいね』 「あなたは仕事頑張ってね、アルギズ」 『それでは、失礼します』 終始、楽しそうな調子で話すアルギズを思い出いして、カシスは性格って変わるものね、と呟いた。 ・ ・ ・ 助手席に座るアズには屋上の人影が全く見えなかったが、電話の内容から何となく想像がついた。あの距離でも見えるんだ、と校舎がある方向をちらっと見てから、 「よく彼氏だってわかったね」 アズが感心した調子で言うと、アルギズは、いつもの微笑みのまま、 「ブラフだったんですよ」 といった。彼は、うわぁ、という驚きの声を飲み込んで、 「ものの見事に引っかかったわけか」 「距離が近かったので、付き合っていると感じましたが、確証が欲しかったんです」 「君、人の色恋沙汰に興味を持つタイプだったっけ?」 「FSの色恋沙汰には興味があるんですよ」