#author("2024-06-02T08:05:09+09:00","default:sesuna","sesuna") [[DAYS]] *ばれても変えるつもりはなく【D-F-EX3】 [#r9ee923b] 『まぁ、お前はそういう奴だよ』 通話越しのハガラズの声は柔らかい。FSと戦うために作られた戦闘用アンドロイドの彼とカシスは、実際に戦ったことがある。そして、紆余曲折を経て、彼はカシスの保護者になっていた。 「どういう意味かしら」 『たまに隙ができたり、何かに執着したり』 「執着、ね」 今の学校生活は新鮮な出来事が多く、満足感すら覚えている。それを手放すのは惜しいし、何より、 『惚れた奴にはとことんだもんなぁ』 「うるさいわね。切るわよ」 『俺を切らないでくれよ』 「なら、塵にしてあげる」 『おっかないっすなぁ、カシスさんは』 間を空けて、彼は声のトーンを落として、 『うちの深海で見つかったあれ、FSは関係ないんだな』 「関係ないわ。もし、作るのだったら貝にしておくわ」 『しゃべる貝が見つかったら速攻、連絡するぜ』 声はすでにいつもの調子に戻っている。姿かたちを自由に変えられる上に群体として活動できるのだから、何かあれば疑われるのも仕方ない。 ただ、ハガラズも本気で聞いているわけではないだろう、ともカシスは思う。おそらく、別の誰かから確認するよう頼まれているのだ。本気であればもう少し、食いついてくるに違いない。 「ヒトの変異種だと思うわ。生まれてすぐに捨てられたのではないかしら」 『その線で探しはしているが……いったい、何年分のリストをみればいいんだ……』 「あなた、いつからそんな仕事を請けるようになったの?」 『FSがらみの可能性のものは全部、こっちに来るんだよ』 彼が椅子の背もたれに身体を預け、頭をかいている様子を思い出しながら、 「使い潰されないでね」 『ある程度まとまったら、この手のが得意な連中に回すつもりだぜ』 端末のディスプレイに別の通話が来ている通知が来た。優也だ。 「ほかの通話が来たから切るわ」 『うぃー、グッドラック』 「グッドラック」 ハガラズとの通話を切り、優也との通話をはじめる。 『もしかして、邪魔しちゃったかな』 「別に。暇つぶしに動画を見ていただけだから」 『何の動画?』 「猫」 『猫、いいよね』 「そうね。触ってみたいのだけど、逃げられるのよね」 猫の感覚器では正体がわかるのかもしれない、とカシスは内心嘆く。身体にいくつか改良を加えてみたが、効果は今のところなかった。 『猫もなんか気まぐれだし、そういうこともあるんじゃないかな』 「そうね」 『話は変わるんだけど、次の休みって空いてる?』 「ええ」 『一緒に映画を見ない? あの話題になっているの』 「FSが暴れる映画?」 『そうそう、それ。すごい迫力あるんだって』 「待ち合わせは、いつもの場所、いつもの時間でいいかしら」 『わかった。先に予約しておくね』 嬉しそうな優也の声にカシスは微笑み、 「お願いするわ」 『ええっと、それじゃあ、切るね』 「おやすみなさい、優也」 『おやすみなさい』 もう少し話していてもよかったが、課題が山になっているのを思い出した。 「学校生活も大変ね」 ソファから身体を起こすと、彼女はテーブルに座り、学校専用の端末のスイッチを入れた。