#author("2024-06-02T08:00:44+09:00","default:sesuna","sesuna")
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*なぜ学校に宇宙怪獣がいるのか【D-F-EX1】 [#af125b6a]

 少年と少女の二人が学校の廊下を歩いている。制服を着たら溶け込みそうな容姿だが二人とも成人していた。その証拠にVisitorと書かれたと企業のロゴ入りの身分証を首から下げている。

「学校に来たのは、はじめてです」

 と少女が言う。戦いのために作られ、生まれてからすぐに戦地に送り込まれた彼女には学校生活は無縁だった。ただ、いわゆる会社員生活というには縁があり、普通に就職して、今は技術営業のようなことをしている。

「営業でもいかなかったの?」

 と青い髪の少年が尋ねる。

「あの時は企業を担当していましたから」
「なるほどね。それにしても、学校の制服に組み込みたいとは大胆な話だ」
「相性はいいと思いますよ」

 と二人が話していると、横を一人の生徒が通りすぎていった。通り過ぎる際、会釈して小さく頭を下げて、と礼儀正しい。制服もちゃんと来ているし、どこに出してもおかしくはない。そういう生徒であったのだが、十分な距離をとったのを確認してから、二人は顔を見合わせる。

「カシスさんでしたよね」
「カシスさんだね。学校行ってるだなんて初耳だよ」

 カシスは二人の知り合いであり、少女のほうとは因縁と言ってもいい関係にある。
平たく言えば、移民先の星にいた巨大なアメーバ状の生命体で、開拓中に戦いになってしまい、最終的には移民船の中で派手な撃ち合いを繰り広げ滅ぼした、はずだった。最後の宇宙怪獣《FS》は、人の手を借りて生き延び、そして、人の社会に溶け込んで過ごしていた。

「どこにいてもおかしくはないのですが」

 苦笑交じりに少女は言った。南のほうの島で漁師の手伝いをしているだとか、双子を作っただとか、噂は絶えない。

「これも彼女の言う人間を学ぶ一環なのかな」

 校舎から出ると冬の風が二人を襲う。少年は駆け足で助手席へ、少女は普段通りの足取りで運転席へそれぞれ乗り込んだ。

「しっかり着込んでおいて正解だった」
「アズは寒がりですね」
「君がタフなだけだよ」

 戦闘用アンドロイドの少女に言い返す。

「人の感覚はわかっていますよ」

 そういいながら暖房のスイッチを入れた。吹き出し口から出てくる温かい風に少年は手をかざす。

「資料のたたき台は作ったので目を通しておいてください」

 少年の眼鏡型のディスプレイの隅に通知が届く。視線をあわせると、通知が拡大され、資料が展開される。今日聞いた先方の要望のまとめ、予算別と用途別の提案、それぞれの実行計画などなど。どれもそれなりのボリュームがありそうで、

「まずは要望のまとめから確認しておくよ」
「はい、お願いします」

 ハンドルを握る少女に少年は言う。

「安全運転でお願いするよ」

 にっこりと少女が笑うと、車が滑らかに動き出した。