「無限に存在できるかは不明だ」 [#d6659c5b]
彼の疑問に"それは"そう答えた。
「なぜだ」
彼は重ねて問う。
「強力な物質再構成機構を持っているのだろう?」
「そうだ。機体の9割を損失しても再生可能だ」
「論理面でも強力なエラー訂正能力と、自己保存能力がある。無限に生きられる条件は揃っている」
恐らく、と"それ"は機械には似合わない一拍おくと言う行動をとった。
「ヒトと比べて長く存在できる程度の違いしかない」
「現時点で稼働年数は1000年を超えている」
「1000年稼働してきたことと、無限に存在できるかは別のことだ。保護区画の大木を知っているか?」
自然保護区画の中央には大木があるのは彼も知っている。
相当の樹齢を持つらしいが、詳しくは知らなかった。
「この船が出航する際、記念に植えられたものだ。他の樹木は移民先惑星に移植するが、あの木だけは残してある」
何が言いたいのか彼にはわからない。
「あの木は1000年の間、存在を維持してきた。が、これから先も維持できるかはわからない。たとえば、貴殿が切り倒すかも知れない」
彼は怒りから声を低くして、
「そんなことはしない」
「すまない。たとえだ。私もその木と同じだ。ヒトと尺度が違うだけで、いつ終わりが来てもおかしくない」
「終わりがくる可能性があるのか?」
彼はため息をついて、"それ"を見る。
「私の身体がナノマシンでできているのは知っているだろう?」
この船の防衛システムは全身がナノマシンから成り立っていて、生物のように新陳代謝を行う。
人間が手を入れなくても自らの身体を修復したり、状況に最適化する。
昔、学校で教わったことを思い出す。
「知っている」
「生物と同じ問題が起こりうる。ガン化やウィルス性の疾患などだ」
ウィルスなどあるわけが、と言おうとして、人が作る可能性に思い当たった。
この船の護衛の要であるが、敵対した場合は脅威だ。
それに気づいて唸る。
「だから、不明なのだ」
彼は苦く笑って、
「なるほど、俺の勘違いだったわけか」
「推測が外れただけだろう。勘違いではない」
「それは、フォローか? あまりなってないぞ」
彼の言葉に"それ"は小さく唸った。