DAYS

普通のアンドロイドは人間と全く同じ姿形をしているが、内部の構造は人間と異なっている。
人間の体は60兆の細胞、206個の骨から出来ている。
アンドロイドは表面に生体部品を使っているが、内部は金属や強化プラスチック、シリコンが大量に使われていて生体部品は一切使われていない。
部品として独立しており、大半のものは交換可能だ。
見た目や思考、文化は人間の範囲にあるものの内部構造は外れている。
それが人間とアンドロイド、そして生物・無生物の分水嶺だ。
そこまで考えて彼は、キーボードから離した左手で頬杖をつく。
「もし、自己再生可能な体を持つアンドロイドが出てきたら、それは、なんなのだろう?」
言葉にしてから身近にその存在がいることを思い出した。
なぜ、今まで忘れていたのだろうか、と彼は疑問に思うが、身近なものほど見落としやすいだけだろう。
「……それも、違う」
言葉に思考を出して整理する。
思考が言葉という鋳型に収められていく感覚を覚えながら、忘れていた理由を考え直す。
きっと、怖いのだ。
人間や生物の定義をひっくり返す存在が身近にいることが。
「言葉にしてみたら何のことはなかった」
呆れたように彼は呟いた。
だいたい、人間の定義などいい加減だ。
価値観、文化、法、何でもいいが誰かが決めて皆が守っているものの範囲内であれば人間で、そこから外れれば非人間だの何だの言われるぐらいには曖昧だ。
生物だってどこからどこまでが生物で無生物なのか、と明確な境界はない。
細胞単位でできていて、新陳代謝、増殖ができれば生物、それができないウィルスは非生物だという。
ならば、ナノマシンという細胞でできていて、新陳代謝も増殖も行える彼女は生物だ。
思考に区切りがつくと、彼は深く息を吸ってからゆっくりと吐き出した。
「切って考えるから話がおかしくなるんだよな」