DAYS

ずっと、画面と睨めっこしていた瞬子はため息をついた。
ここ数週間ほどは新しいゴーストの作成に没頭していた。おとといにだいたいの作成が終わり、昨日から今日にかけては動作の確認と調整をやっている。今日も確認と調整をやっているが調整の作業は集中力が必要になるせいか、とても疲れる。今までの中で最高の出来だ、と思っていたのも影響しているかもしれない。
「休憩にしたら?」
ベッドの上で本を読んでいたカシスはページに視線を落したまま言った。
「うん、そうする」
席を立とうとする瞬子を止めるようにカシス
「お茶は私が淹れるから」
といった。
「お願い」
瞬子の言葉に白の少女は微笑みで応じて、部屋から出て行った。
しばらくしてから、お盆にティーポットと二人分のカップ、お菓子を盛り合わせた皿を持って戻ってきた。
「ありがとう」
瞬子は壁に立てかけてあった折り畳み式のテーブルを広げて、PCの前にある椅子とベッドの間におく。
そのテーブルにカシスはお盆をおいて、ベッドに腰をかける。
ポットに手を伸ばそうとするカシスの手を瞬子の手がさえぎった。
「紅茶ぐらいは淹れさせて」
お客さんばかり働かせるのはよくないから、と続ける。
静かに紅茶を淹れる瞬子カシスは進み具合を聞いた。
「だいぶ、苦労しているようだけど、どうかしたの?」
「フラグ管理でおかしなところがあるみたいなの。条件がよくわからなくて……」
瞬子からカップを受け取りながらカシスは、
「それは大変ね」
「複雑な処理はやってないから、見落としているだけだと思う。しばらくは別のことやるつもり」
と言って瞬子は紅茶を静かに飲んだ。
「休んだらきっと、すぐに見つかると思うわ」
カシスも紅茶を一口飲み、二人は同時にカップを置いた。
「11月11日はポッキーの日だったんだよね」
ネットゲームのギルドでポッキーゲームどうこう叫んでいたギルドのメンバーと、ポッキーゲームしようと言い寄ってきた馬鹿どもを蹴り倒したことを思い出しつつ、
「そうね」
カシスは頷いた。
「今の間は、何?」
「何でもないわ」
「ギルドで何かあったの?」
実はこの子も見ていたのではないかしら、とカシスは思ったが口にはしない。
「ポッキーゲームしようって言い寄られたとか」
カシスはカップに手を伸ばそうと思って止めた。その日のことはあまり、話していなかったと思うけれど、と自分の発言を振り返る。
「あなたの観察眼は本物ね」
「ねぇ、ポッキーゲームってどんな感じ?」
集められる限りの情報は集め、体験できる限りのことは体験しようとするのも考え物ね、とカシス瞬子を見る。
「全員、蹴り倒したから知らないわ」
「知ってると思ったのに残念」
「なら、自分で経験するのが一番よ」
カシスのセリフに瞬子は動きを止めて短い驚きの声をあげた。
「えっと、えっと……」
顔を赤くしている黒の少女に構わず、白の少女は皿からポッキーを一本つまんで、
「簡単なことでしょう?」
自分の口にくわえて、黒の少女に顔を向ける。
「ぅー」
と小さく唸ってから黒の少女は観念したかのようにもう一方をくわえる。
プレッツェルの乾いた感触がする。
最初に食べたのは白の少女、続いて黒の少女が食べる。互いに食べる量はわずかだ。しかし、確実に互いの顔は近づいていく。
顔を真っ赤にしている黒の少女と顔色一つ変えていない白の少女。
あと2cmぐらいのところで、目を閉じているのを忘れていたといわんばかりに白の少女が目を閉じる。黒の少女はわずかだけためらってから目を閉じた。確か、唇がふれたらダメだったはずだけど、とルールを思い出すがここで引くのもなんだかもったいない。貴重な経験をしているのだから、どう転んでも良いネタになる、と誰ともなしに言い訳――唇が何かに触れた。
黒の少女が目を開くと、白の少女の目とあった。数秒ほど唇がふれた状態を維持してから、慌てて黒の少女が唇を離した。それでも白の少女は平然としていた。
「もしかして、先に目を閉じたのは……」
「ふふ、かわいかったわよ。まるで恋する乙女のようで」
白の少女はいたずらっぽく笑った。黒の少女はさらに顔を真っ赤にして顔を手で覆った。