DAYS

「参ったな」
エプシロンは正面の盗賊を見ながら言った。
周囲のエーテル濃度は魔術使用可能濃度の遥か下だ。
エーテルボンベも残量なし。
フィールドでの戦闘で使い果たした自分の管理能力のなさを呪った。
近接武器は刃渡り30cm程度の小剣と自動小銃だ。
どれも使い方はわからないが、向こうを視認すると反射で銃を握り構えていた。
おそらく、彼女のせいだ、とエプシロンは思う。
いつも彼女の戦い方を見ているから、いつの間にか、覚えていたのだろう。
安全装置は、記憶を頼りに外していた。
撃てない状態で構えるのは間抜けだ。
対峙する盗賊はナイフを構えているが身動き一つしない。
こちらの動きを伺っているのだろう。
距離は15m、詰めようにも詰められない距離だ。
まだ、こちらの方が有利だ。
向こうがこちらが銃の扱いに慣れていないと気がつくまでどれぐらいだが、とエプシロンは冷静に状況を整理する。
持って残り数秒なら少し早めても良い。
彼は覚悟を決めてトリガーを引く。
相手は素早く右にステップ、間髪入れず走りだす。
弾はかすりもせず男の遥か左横を通り抜けていった。
「下手くそだな!」
迫りながら相手は叫んだ。
エプシロンは無視して胴狙いで発砲。
狙いはよかったが光の壁に阻まれて届かない。
シールドだ。
残り10m、エプシロンは右方向に走りだした。
青い髪が風に流れる。
「逃げるのかチキン」
よく煽ってくる人だ、とエプシロンは思う。
何か言い返すのも面倒なのでアイテムパレットオープン、ブレードサーバを選択。
アクションは取り出し。
黒い板状のサーバを手にすると彼はそのまま後ろから追いかけてくる相手に投げてやった。
「うわ、仕事思い出すからやめろ!!」
予想外の反応に彼は迷わず、同じ動作を5回繰り返した。
仕事がよほど嫌なのか投げるたびに相手の士気が面白いように下がっていく。
が、速度は落ちない。
しつこいな、と思っていると正面に見覚えのある人影が見えた。
茶色の髪と青の瞳、黒のボディアーマーに身を包んだ少女だ。
対物狙撃銃を接地せずに構えて、彼に避けるよう目配せした。
すぐに彼は左にステップ。
彼の左に体が流れていく間に少女はトリガーをなんのためらいもなく引いた。
エプシロンが着して後ろを振り返ると盗賊の姿はなかった。
体の破壊判定が上限に達して消滅したのだ。
今頃、最寄りの病院で全身、包帯巻きになっているに違いなかった。
「お待たせしました」
「タイミング良かったね」
「ありがとうございます」