DAYS

I see you【D-U-1】

 エリスは身体がたくさんあるのはどんな感じなのか、とよく聞かれる。すべて繋がっているのでひとつだ、と返すのがお決まりだった。

 それは、とある航空祭のことだった。エリスは中継機、末端の小型機4機とともに参加していた。X-2を先頭に小型機4機がV字編隊を組んでいる。展示スペースの都合で本体であるX-2は航空ショーのみ参加、機体同士もかなり密集した状態で駐機していた。観客から機体の性能を聞かれれば当たり障りのない範囲で答え、思想にまつわりそうな話は広報窓口の名刺を渡す、を繰り返している間に昼を過ぎた。
 早めに食事にいった集団の戻り始め、これから食事に行く集団が動き始め、流れが衝突する。人の流れから小さな女の子が弾き出されてきた。エリスは女の子の身体をそっと受け止めて、

「怪我はないか?」
「ありがとう……えっと……」

 エリスは女の子の言葉の続きを待つ間に迷子として女の子の情報を運営本部に送信。本部から該当する迷子探しの依頼は来ていないと回答が来た。

「お顔はどっち?」

 女の子はたどたどしく尋ねてきた。エリスは人型機体の顔を指して、

「こちらでもよい」
「飛行機のほうもお顔があるってパパがいってた」

 エリスはそっと女の子の手をとって、中継機の近くまで案内する。光の吸収率を高める加工をされた機体は黒というより、そこだけ空間が切り取られたようにも見える。女の子は怯えることなく、むしろ、好奇心のほうが強いらしく、機体に近づこうとする。鋭利な部分もあるためエリスは女の子の前に出て、

「ここまでくれば、顔が見えると推測する」
「どこ?」

 屈んで女の子の視線に合わせてから、機首付近のカメラユニットを指さした。レンズの表面は加工が違うので、至近距離で目を凝らせば見える。女の子は指の方向をきょろきょろと見て、

「あそこ?」

 機体のカメラが指さしている女の子とその横にいる人型機体を捉えた。エリスはその様子を女の子の前に投影する。

「すごーい」

 女の子は体の向きを変えたり、表情を変えたりして、自分が映っていることを確かめた。

「相手の顔を見て話すのは難しいと言われている」

 きょとんとする女の子を2種類の目で見ながらエリスは続ける。

「尊敬に値する」
「褒めてくれてる?」
「とても」

 そんなやりとりをしていると人の流れから、抜け出してきた影がひとつ。若い男だ。エリスは一歩前に出て、女の子との間に入る。

「よかった、ここにいたのか」
「この子の親か?」

 運営本部に男の映像を送り、参加者リストと照会を依頼する。即座に父と娘である旨の返事があり、エリスは警戒を解いた。

「ええ、ご迷惑をおかけしました」

若い父親はエリスにお辞儀してから、娘を向いて、

「綾菜、ごめんな。手を離してしまって」
「大丈夫。えっと、バイバイ」

 綾菜は人型機体、そして、機体に向かって手を振った。エリスは、前者は小さく手を振り、後者はエルロンを動かして返した。
 人の流れに消えていく父親と娘を見送りながら、父親は比喩として顔と言い、娘は顔をそのままの意味で解釈したのだ、とエリスは推測する。コミュニケーションは難しく、そして、面白い。