『夢』

気がつくと真っ白な空間に彼女は立っていた。

自身を見れば黒い布を乱雑に纏っていた。

白い地は平らで何処までも続いている。

見渡しても先にあるのは地平線だけで、山や建物といったものは見つけられない。

上を見ても白く奥行きの感じられない空が広がっているだけだ。

そこでようやく、彼女は此処が夢の中だと気がついた。

普通、夢ということに気がついた時点で覚めるものだが、覚める気配はまったく無い。

「……」

静かに風が吹き、纏っていた黒が音を発てる。

その風の中に良く知った人の温もりを感じ取ることができた。

彼女の足はその温もりの方へ自然と向かう。

歩いていた足はいつの間にか走っていた。

何も無い空間を彼女は走る。

走って走って走って。

また、風が吹いた。

鉄に似た匂いがした。

彼女は文字通りの全力で走る。

その間にも鉄に似た匂いは強くなり、温もりは消えていく。

前方に誰か立っているのが見える。

その足下には誰かが寝ている。

見たくない。

しかし、身体は止まることなくその方向へ進んでいく。

誰かが何なのかはっきりしてくる。

立っているのは自分だ。

纏った白の布を赤黒いもので染め上げて。

見たくない。

それでも、目は見ることを続ける。

横たわっているのは蒼だ。

血溜まりに身を沈め、冷たくなって。

すべてを確認して、ようやく彼女の身体は止まった。

もう一人の自分の視線を感じた。

顔を向けると、それは血黒いに染まった両手を差し出しながら笑っていた。

そして、彼女は自分の纏っている色の正体に気がついた。