誠司とシアーは久しぶりに二人が出会った浜辺に来ていた。
「思っていたよりも雰囲気は変わってないね」
「あの階段で降りれた方が奇跡だ」
「だいぶ、こう、風情が」
「歩けるから問題はないな、多分」
浜辺に腰を下ろすと、会話は自然と止まった。こうやって波の音を聞きながら、他愛もない会話をしていた時期があった。二人はそれを思い出していた。
「どうして、あの時、話しかけようと思ったの?」
「半分は好奇心」
「物好きだね」
「もう一つは綺麗だと思ったんだ」
「え」
「綺麗だと思ったんだ。その夏の日差しを浴びて輝く金色の髪、汗ひとつ流れない白い肌、究極の美だと」
「本音は」
「綺麗だと思ったのはほんとだ。もう一つは君となら他愛もない話をしていいと思ったんだ」
「へえ」
そう言いながら隣に座るシアーは誠司の手に自身の手を重ねる。誠司は応じるように指を絡めて、
「ほんと、他愛もない話をしたな」
「石の飛ばし方も教えたっけ」
「人の飛ばし方も実地で教わったね」
「いや、あれは、不可抗力なんだ」
「責任、とってよね」
「俺はあの投げ込みで禊ぎは終わったと思っていたのだが」
「それは甘いと思うよ」
この場合は重たい責任の取り方が求められそうだ。ため息をつきながら、渡すタイミングを失った小箱をポケットの中で転ばせながら、
「別の方法も用意はしたんだ。受け入れてもらえるかはわからないんだが」
「どんな提案?」
「結婚しよう」
「ここで!?」
「風情がないのはわかってるが、職場だと賑やかになりすぎる」
社長も同僚も性格はいいし、スキルも持っている。が、いかんせん祭り好きなところがあり、職場でやろうものなら、その場で式場の情報がどっさり集まってしまうだろう。下手すればウェディングプランナーと繋がりのある同僚が一気に手筈を整えるまでありえる。
「それはわかるけど」
シアーはそこで言葉を止める。誠司は彼女を見て続きを促す。
「私なんかでいいの?」
「君だからいいんだ」
「ありがとう。指輪持っているんでしょう?」
「なんだ、お見通しか」
誠司な苦笑してから、ポケットに忍ばせていた小箱を取り出し、シアーの目の前まで持っていくと、蓋に軽く力を込める。。小気味よい音がして、飾りっ気のないプラチナリングが姿を現した。
シアーはなんの迷いもなく、それを自身の左手の薬の指にはめると、五指を伸ばしてしばらく、興味深そうにながめ、そして、誠司に向ける。
「似合ってる?」
「ああ、似合ってる」
「サイズはどうやって測ったの?」
「この前のボウリングで」
「期待はしてたんだよ」
シアーは幸せそうに笑う。
「二人の時間、もっと増やしたいね」
「仕事以外のな」
「そうそう」
「二人でこの指輪したらバレるか」
「私だけがしててもバレるよ」
「ふぅむ」
「でも、外す気はないからね」
笑みのままシアーは続ける。その声には充実感からくる力がみなぎっていた。