二人の前方にはプラカードや横断幕を掲げ声を荒げる集団がいる。興味を持ち立ち止まった人間に署名させているようだった。
「何の署名だろう?」
「戦闘用アンドロイドの廃絶、ですか」
「ほんとだ……時代遅れにもほどがある」
「そうですね」
呆れて立ち止まる二人を興味があると勘違いしたのか、3人がこちらにやってきた。
「戦闘用アンドロイドの廃絶のため、署名をお願いします?」
「具体的にどういうことなのでしょうか?」
尋ねると男は後ろにいる女性からパンフレットをもらい、指差しながら説明をはじめた。
「まず、民生用と戦闘用アンドロイドの違いですが、人格面において大きな違いがあります。前者は人間的、後者は機械的……戦闘用アンドロイドは人を殺し、物を壊すために作られているわけです」
静かに聞こうと思っていたエプシロンもさすがに呆れた。呆れている間に話は戦闘用アンドロイドの思考から、件の存在が引き起こした事件や事故に変わっていた。
「未開拓惑星の原生生物を滅ぼした、ですか」
「酷い話でしょう。戦闘用アンドロイドは独断でその星に生きていた原生生物を滅ぼしたのです」
「人間は反対しなかったのでしょうか?」
「何でも、反対する人間は皆殺しにしていたとか」
「それは酷いですね」
「ええ、資料を探すのに苦労しましたよ。今は自由に行けますが、過去のことは謎が多くて……きっと、証拠の隠滅を図ったのでしょう」
頭を掻きながら男は言った。
「質問をしてもよろしいでしょうか」
「どうぞどうぞ」
「関係者に話は聞きましたか?」
「関係者と言ってももう、半世紀以上前のことですからねぇ。さすがに――」
「無理と言うことは無いでしょう。開拓世代の方なら80代です。話を聞こうと思えば、いくらでも聞けると思いますよ」
「はぁ」
「開拓にかかわった第一世代のアンドロイドなら、こちらにもいますから話はしやすいでしょうね」
口をあけてぽかーんとする3人組。察しの良い人間ならそろそろ、オフィーリアが関係者であることに気がつくだろう、とエプシロンは思ったが誰も気づきそうに無い。
「すみません。主張は面白いのですが、賛同は出来ません」
「そうですか……貴重なお時間とご意見ありがとうございます」
此処まで時間を割いて収穫ゼロはまずい、と男は考えてこの難解な少女の後ろにいる少年に声をかけてみた。
「後ろの方は?」
「僕も断るよ。彼女を見てると、戦闘用も民生用も特に違いは無いと思うしね」