白い日差しがまぶたを突き刺す。 朝。 上半身を起こし伸びをする。 どうにか昨日の疲れは取れたようだ。 今日中にはこの森を抜けたい。 ふう、一息つくと同時にお腹の減った音がした。 夕飯は食べてないからね、仕方ない。 カバンの中を漁る。 ナイフを取り出し森の中に入る。 モルル出身のレイルにとって森は家であり、食糧庫でもある。 食べられる草や木の実、薬草や毒草なんかおおかた覚えている。 果物中心になってしまったか。 エネルギー補給には良いかな・・・。 数個はカバンの中にいれた。 さてと、そろそろ行こう。 昨日の二の舞いはいやだし。
夜はただ開けた場所としか思っていなかったがどうやら水晶霊の河のすぐ横だったらしい。 しばらく進むとそれらしいところに来た。 モルルと似ていて違う。 同じように水が流れていて緑がある。 人のいない、寄せ付けない。 神聖、そんな言葉が浮かぶ。 でも落ち着くのはどうしてだろう。 風は涼しく優しい水音は心地よい。 草の上に腰を下ろした。 本当に水晶霊なんているのかな。 ・・・この雰囲気は確かにいるんだよね。 仰向けになると木々の間から青空が見えた。 静寂。 どれくらいの時間が経ったのだろう。 なんかかなりいるかも。 太陽は真上にある。 ・・・。 先程カバンにほうり込んだ木の実を取り出し口にほうり込む。 まずは腹ごしらえしてから、と。 一休みしてから上流に向かうことにした。 しばらく進むと洞窟が見えた。 何となく人の気配がする。 本当に居るのかもしれない・・・。 好奇心で洞窟の中に入る事にした。 洞窟の天井から光が差し込んで来ていて洞窟の中は思いの外明るい。
「ぅ」
人の声がした。 当たりを見回すと奥の方で人が横たわっていた。 水の匂いにまぎれて血の匂いもかすかにする。 思わず後退りする。 青く長い髪の毛の間から見える肩は大きく上下している。 服のあちこちに血の染みが見える。
「あ、あのっ」 「だ・・・れ」
辛そうな言葉を返しながらも彼女の右手はなんだかわからないが武器に手を伸ばしていた。
「無茶しちゃ駄目ですよっ」
慌てて駆け寄りヒールをかける。 近くで見ると血の後はなお、痛々しい。 駄目だ、晶霊術だけじゃどうにもならない。 カバンの中を探すと薬草の残りも少ない。 昨日自分の分で使ったんだ。 ここまで状況が悪いなんて・・・
「薬草採りにいってきますから。待っててください」
洞窟のまわりになんとかあった薬草をかき集める。 えっと、あの草もあれば効果があがるんだけど・・・。 あ、あった。 急いで洞窟の中へ戻る。 見たところさっきよりは楽になったようだけど。 すり鉢の中に薬草を千切り水をいれて乳棒ですり潰す。 それを布でこしてコップに注ぐ。 よし、できた。
「ちょっと苦いかも知れませんが薬草を混ぜた水です。よく効くはずですよ」 「あ、ありがとう」
体を起こしコップを受け取り顔に近づける。 少しだけ動きを止めたがそのまま一気に飲み干してしまった。
「苦い」 「あはは、なんとか大丈夫そうですね」 「どうも」
結局、夜になってしまった。 薪の火が二人の顔を照らしている。 火の横に彼女の服が干してある。 血が落とせてよかった。 大きさはあわないが少年の服を着てもらっている。 なんとか傷は治っているようだ。 後は彼女の治癒力に任そう。
「さっきは本当にありがとう。助かったよ」 「だいぶ、ケガだらけでしたけど・・・なにかあったんですか」 「聞いて笑わないでよ」 「笑いませんよ」
「いや、ここの大晶霊にあって見たくってね。かなり上の方まで行ったんだけどそこでモンスターに襲われちゃってね。なんとか振り切ったんだけど・・・。後は知っての通り」
「そうだったんですか。偶然ですね、僕も大晶霊にあいたくってここに来たんです」 「大変だったでしょ」 「昨晩、きつかったですけど」
あれは、本当に辛かったかな。 昨晩の戦いがフラッシュのように浮かび消えていった。
「そっか」 「これからどうするんですか」 「そうね。もう一度、上に行こうかな。腕を上げるためにも好都合だし」 「僕も、上流に行こうかと思います。・・・また苦戦するのも嫌ですから」
「あしたは上流に向かうということに決定。それから、まだ名前聞いてなかったね。わたし、ウィル・エア。」 「レイル・ウィンドです。よろしくお願いします。ウィルさん」 「さんはいらない。ウィルでいいよ」 「で、でも初対面ですし・・・」 「細かいこと気にしない。そのしゃべり方も」 「年上ですしあって間もないです。しばらくしたら、ということで……」 「あ、いや、いいよ。無理してまで変えなくていいから」 「ありがとうございます」
それからしばらくいろいろなことを話した。 自分のことや家族のこと、昔の自分のことを。 ウィルが旅に出た理由はレイルとは違い重たいものだった。 両親と一緒にとある村に住んでいたが家庭はうまく行かず両親が離婚。 そんな親に失望して家を出た。
『ごめんね、変な話しちゃって』
少し苦笑いしながら言った。
『いえ、こちらこそ、すみません』 『なんであなたがあやまるのよ』
そんなこと言っていたら、埒あかないじゃない、と続けた。
『リッドという人達に少しあこがれて出て来たんですよ』 『へぇ、あの人達に影響されてかぁ』 『そうなんです。まるで知っているような言い方ですね』 『数カ月前、これの練習している時にモンスターに囲まれちゃってね』
レイルが近寄った時使おうとした武器らしきものを指さしながら言った。 刀か剣の柄のようだけど何だろう。
『よく囲まれますね』 『そんなこと言わないでよ』
笑いながら突っ込まれた。
『そのときに助けられたんだ』 『そうなんですか。いいなぁ。僕も』 『僕も一度あってみたい』
途中で言いたいことを言われてしまう。
『そうだね。もう一度わたしもあいたいな』 『そろそろ寝た方がいいですよ』 『明日は忙しくなりそうだもんね』 『お休み。レイル』 『お休みなさい。ウィル』
互いに寝袋に潜り込んだ。
瞼を綴じると今日のことが思い出された。 いろいろあった。 本当に。
水のながれる音。 ゆっくりと瞼を開く。 一面、青い世界だった。
「水の・・・中・・・?」
そう呟くと言葉は泡になり昇って行く。 慌てて両手で口を抑える。 苦しくない・・・? ゆっくりと抑えていた手を離す。
「・・・・・・」
上を見ると太陽らしき光が青くゆらめいていた。 動こうと思っても身体の自由が利かない。 ただ漂うことしかできなかった。 ふと視線を感じて振り返る。 赤い瞳、まわりに溶け込むような青い身体。 人の形をしているのに人ではない存在。
「ウンディーネ・・・?」
ゆっくりと彼女(?)は頷いたが何も言わなかった。 レイルはただ、その赤く透き通る瞳を見ていた。 自分の姿がその瞳に映っているのに少し驚く。 彼女は優しくほほ笑むと水に溶けるように消えた。 誰かの呼ぶ声が聞こえる。
「兄さん・・・違う。ウィル・・・?」
まわりの景色が変わり光りに包まれた。 眼を開くとぼやけた世界。 洞窟。 誰かの顔。 ああ、そういえば
「やっと起きた」 「あ、おはようございます」 「一瞬、だれだかわからなかったでしょ」 「ぅ」 「まぁ、いいけどね。ご飯にしよ」
いつの間にか器に目玉焼きとパンがあった。
「口に合うかはわからないけどね」 「あうもなにも・・・」 「確かに」
二人でいただきます、といって食べ始めた。 パンに卵と野菜を挟む。
「美味しそうですね」 「簡単なものしか作れないけど」
夢の中であったのはウンディーネだったのかな。 そんなことを思いながらパンをかじった。
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