『b.d.』

「誕生日、ですか」

 テーブルの上に並ぶいつもと違う料理を見てアルギズは言った。

「それも、君の誕生日だ」

 料理の向こう側に座る蒼が短く返す。

「でも、私はアンドロイドですし」

「こういうのには、人間もアンドロイドも何も無いよ。それもと、祝われるのは嫌いかい?」

「そんなことはありません。ただ……」

 アルギズは席について、

「どうして祝うんですか?」

「どうして、か。難しいような簡単のような問いだね」

 頭を掻いたり、腕を組んだり、唸ったりと考え中のモーションをいくつかやって、

「生きてこれて良かったね、と祝うというのはどうだろう?」

「来年の今頃にはテラフォーミングが完了します。それでも、その意味で祝うんですか?」

「この世にいる限り、いつかは終わりが来る。終わらずに誕生日という節目を迎えるのは、思いのほか、大変なんじゃないかな」

「だから、誕生日を祝福するのですか」

「自分の"子"が元気に誕生日を迎えたんだ。祝う理由はそれだけで十分だよ」

「論理が飛躍してます」

 アルギズの突っ込みに蒼は苦笑いを浮かべるが、すぐに取り直して、

「細かいことは気にしない。料理が冷めてしまうよ」

 蒼がグラスを取ったのを見て、アルギズも手元のグラスを取った。

「誕生日、おめでとう。アルギズ

 グラスが料理の上で交差し、高い音が響いた。