「ここがパイオニア2ですかぁ・・・」 話に聞いてはいたけど実際に立って見るとまた違います。 ゼブリナさんは仕事の報酬をもらいにハンターズギルドへ行ったそうです。
ルーフさんに案内してもらいながらパイオニア2を歩いているとあることに気が付きました。 圧倒的に民間の方が多いのです。 そういえばパイオニア2は移民のための船だと聞いたことがあります。 急に立ち止まったルーフさんに思わず激突。 「あ、ごめんなさい」 「ここで一度診てもらったら?」 ルーフさんの指さすところを見るとメディカルセンターでした。 「そうさせてもらいます」 「わたしは外で待ってるよ。そろそろゼブリナも来るだろうしね」 「はい、わかりました」 検査してもらうこと数秒、治療にかかった時間も数秒。 10メセタ支払うのもあっと言う間でした。 残金が・・・危ないです。 こういうときは自分が丈夫なアンドロイドで良かったと思えます。 メディカルセンターからでてくるとルーフさんがどうだったと尋ねました。 「とりあえず大きなケガは無かったそうです」 「良かったね」 遠くに走って来るゼブリナさんの姿が見えます。 「いやー、女の人の服探すのって大変だな」
アイテムパックから取り出した袋をわたしに手渡すと膝に手をついて荒い息してます。 余程の距離を走って来たのでしょうか。 中を見るように促され袋を開けて見ると男の人の服が入ってます。 「すまん、俺には買えなかった。その服だとさすがにやばいだろ」 ところどころ穴が空いている程度であまり気にしてはいませんでした。 でも結構・・・恥ずかしい、かも。
スペアはパイオニア1にあったはずだけどもうパイオニア1には戻れません・・・。 突き刺さるような現実が呪わしい。 でもどうしてこんなことになったの? パイオニア1のみんなはたぶん助かってはいない。 フェイドも・・・。 どうしてそうなったのか真実が知りたい。 それが今、わたしにできること精一杯のことだと思うから。 「ラフな格好かもしれないがそれでしのいでくれ」 ゼブリナさんはぱしっと両手を合わせ頭を下げました。 「ありがとうございます」 こちらも頭を下げてお礼を言います。 「とりあえず溜まり場行くか」 「溜まり場ってなんですか?」 「ちょっとした場所だから“溜まり場”。行って見ればすぐにわかると思うよ」
一般の区画とこの区画は機密情報保持の為に隔離されている。 ハンターズライセンスを持っているということはラグオルに降りる事ができ地上のことを知っている。 地上で起こっている事はまだ公表するには不透明過ぎで最上級機密事項。
ここはハンターズ専用区画と一般の区画の境に位置している放棄区画で所属も種族も関係ない自由な場所、とゼブリナさんとルーフさんが教えてくれました。 ほかの区画と違う活気があふれています。 ゼブリナさんの言葉どおり、いろいろな種族の方がいるようです。 気軽に人の集まる事の出来る場所だから“溜まり場”。 わたしたちの姿を見つけて一人の赤いヒューマーが話しかけて来ました。 赤いハンターズスーツと黄色く伸ばした髪の毛が鮮やかに映えます。 「ようゼブリナ、このアンドロイドは誰なんだ?」
「お、さすがゼロだな、一目でわかるなんて。下で知り合ったんだよ。名前はエオって言うんだ」 「俺はゼロ、よろしく」 「こちらこそよろしくお願いします」 手を差し出されたので握り返しました。 どこか細い感じのする優しい手です。 「とりあえず、着替えとけよ」 「あ、はい」
ゼブリナさんに案内されて何故かある脱衣所に入ると渡された袋を開けました。 ゼブリナさんは扉のところに立っているそうです。 見張りすることもないと思うのですが・・・。
各種ハンターズの差が良く分かるこのハンターズスーツは滅多の事が無い限り脱ぎません。 わたしのようなアンドロイドは特に。 人工皮膚で覆われた身体を鏡で確かめて見てもほとんど傷はありません。
関節の部分までしっかりとナノマシンで作られた人工皮膚で覆われていてヒトそっくりにできています。 フェイドは『機械の完成型はヒトである』と言ってましたが・・・。
自己修復機能で傷は消えてますが大した傷を負った形跡はログを見た限りだと無いです。 マグが自分の“命”をわたしにあげるつもりで守ってくれたこと。 正体不明の防御プログラムが発動したこと。 この二つだけがはっきりとしています。 あ、後もう一つありました・・・服の寸法が少し合いません。 裾を巻いてみると大丈夫ですが全体的にかなり余ってます。 鏡の前でくるっとまわって自分の姿を確認します。 「まあまあ・・・かな」 壁のスイッチを押すと扉が開きちょうどゼブリナさんの背中が見えました。 「あー、選択間違えたかもな。すまない」 「こういう服は着たことがないので嬉しいです」 「なら良かった」 歯切れの悪い言い方をするゼブリナさん。 何か言ってはいけないことをいってしまったのでしょうか。 「あ、ゼブリナが趣味に突っ走ってる」 「ばか言うなよ。俺が買える服なんてこれくらいが限界なんだから」 「これくらいねぇ」 また何か先のありそうな言い方です。 こうやってルーフさんはゼブリナさんで遊んでいるのでしょうか・・・? 壁に寄りかかりながらゼブリナさんがため息をついています。 似合ってるよというルーフさんの言葉に頷きました。 「でもエオ気をつけてね」 「何にですか?」 ゼブリナさんの動きが止まりました。 「ゼブリナ」 「何を人に吹き込んでいるんだーっ」 怒っている言葉なのにゼブリナさんは楽しそうです。
・・・・・・。 ・・・。
ルーフさんの向かいにゼブリナさん。 わたしはゼロさんの向かいに座っています。 この椅子の数から考えるとレストランだったのかな。 「なあ、エオ」 「な、なんですか?」 突然、ゼブリナさんに名前を呼ばれて驚いてしまいました。 「どうしてあんな場所に倒れていたんだ?」 「・・・わたしはパイオニア1のラボに所属していました」 静かに話を聞いてくれてます。 この人たちは信じて大丈夫だから躊躇うことは無い。 そんな気がしてゆっくりとわたしは今まであったことを話しました。 「そっか・・・。そんなことが・・・」 「まぁ、ここの連中はワケアリな奴が多いからなぁ」
「このなかで一番ワケアリなのはゼロだろ。ところでエオのマグはどうなってるんだ?」 わたしは無言のままアイテムパックからマグを取り出します。
テーブルの上に光が集まり錆び付いたようなマグがごとりと重い音を立てて転がりました。 「酷い・・・」 ルーフさんが呟きました。 わたしも同じことを今思ってますが酷いのはマグより自分です。 わたしはなぜこの子のことを考えられなかったの・・・? 黙ったままマグは答えてくれません。 責めることも何も言わないでただ黙っています。 「マグを専門に研究している奴が知り合いにいる」 「本当ですか?」 「嘘ついてどうするんだよ」 ゼブリナさんは苦笑しながら続けます。
「ディスという少し変わった奴だがマグに関する技術、知識はパイオニア2の中なら誰にも劣らない」 「この子を治すことができるのでしょうか?」 「あいつの技量なら大丈夫だよなぁ」 ゼブリナさんは横にいたゼロさんに同意を求めました。 「ああ、このマグなら金とらないかもしれないぜ」 「どういうことですか?」 「貴重なマグを見たら礼として金をとらない奴なんだ」 ゼロさんの代わりにゼブリナさんが言いました。 「この子は貴重なのでしょうか・・・」
錆びたようにぼろぼろになっている装甲に触れるとざらざらした感触が伝わってきます。 捨て身でこの子はわたしを守ってくれた。 “あの時”ことがフラッシュのように思い出してしまいました。
「セントラルドーム周辺で起きた正体不明の大爆発から生還したアンドロイドのマグだからな」
「わたしは貴重なマグというより“いい子”って表現した方がしっくりくるかな」 自分のマグに触れながらルーフさんが言いました。 誰でも自分のマグには愛着があります。
ハンターになった時に支給されるマグは自分と共にずっと歩んできた存在です。 相棒という言葉が人間の形をしたものだけに使うわけじゃないです。 「話がまとまったところで奴のところに行くか」 「はい」 ゼブリナさんと一緒に立ち上がります。 ゼロさんはまた地上に降りてアイテム探すそうです。 「わたしはエオのスーツ直してもらってくるね」 「あ、お願いします」 「さすがにいつまでもゼブリナの着せ替え人形にはできないからね」 そう言い残してルーフさんは目にも留まらぬはやさで行ってしまいました。 モノレールに少し揺られてディスさんの住んでいる区画に着きました。 ジャンク屋などの集中するこの区画はほかの区画よりフォトンが濃いです。 恐らくフォトン濃度が高いのは武器加工などしているからだと思います。 宇宙を翔ける移民船の中とは思えないほど背の低い建物が密集した場所です。 「パイオニア2でも異色の区画でオタク街なんてあだ名までついてる」 「こういう雰囲気も好きですよ」 「ラボ出身だからか」 「それもあるかも知れません」 「ま、俺も嫌いではないな」 しばらく歩いたところにディスさんはいました。
分解された武器の部品や道具が辺に散らばっていて人の立つ隙間すらありません。 ゼブリナさんがディスさんの名前を叫ぶとひょっこり姿を表しました。 場には不釣り合いな白衣姿の女の人です。
髪の毛はブラウンで肩くらい伸ばしていてその間からニューマンの証しである先のとがった耳が覗いてます。 背の高さは小柄なわたしより少し高いくらい。 「ゼブリナか。となりの子は?」 男の人のような口調で淡々としてます。 「エオ・ラグズフィアといいます」 「エオ、か。いい名前だ。ところで今日はルーフはいないのか?」 「ああ、ちょっとな」 そこでゼブリナさんが区切ります。 「マグを直して欲しいんだ」 「お前のマグではないな。エオのか?」 「はい」 アイテムリストでマグを選択するとマグが実体化しました。 ディスさんに手渡すとゆっくりまわしながら何かを調べ始めました。 「どうしてこうなったのか経緯を説明してくれないか」
フォトンブラストのところは何かメモをとって一つも聞き漏らさないように聞いてました。 聞き終えると軽くため息をつきました。
「パイオニア1の生き残りか。不法乗船扱いで捕まらないうちに総督に会って来た方がいい」 「マグは直りますか?」 「さすがのお前でも二週間はかかるよな」 「だいたい一週間くらいだ。終わったら連絡する」 解析装置にマグをセットしながらディスさんは言いました。 「ありがとうございます。あの、お金はいくらですか?」 「ふふ、久々に興味深い物に触れることができるんだ。それだけで十分だよ」 「この子をよろしくお願いします」 「それじゃ、頼んだよ」 「ああ、気をつけて帰れよ」 ディスプレイの光に照らされたディスさんの顔はどこか楽しそうです。 フェイドのことを思い出しました。
好奇心や探求心で瞳が輝いている、そんな顔をあの人も見せることがあります。 「フェイド・・・」 ゼブリナさんに聞こえないよう小さくその名を口にします。 ずっと近くに感じていたのに今はずっと遠くに感じる・・・。 立ち止まり見上げた空には人工の青空が見えます。 手を伸ばすと黒い影が顔に落ちました。 「本当の青空が拝めるのはハンターズだけだからなぁ」 ゼブリナさんも立ち止まり空を見上げ目を細めました。 「はやく一般の方も降りられるといいですね」 空を見上げているゼブリナさんは何処か悲しそうに見えました。 「俺もそう思うよ。さてと溜まり場に戻ろうか」 ふっと悲しそうな表情が消えて笑顔になって言いました。 またわたしたちは歩き始めます。 「それにその格好で総督のところへは行けないしな」 「ですね」
溜まり場に戻るとルーフさんが話しかけて来ました。 「二人ともおかえり。どうだった?」 「直してくれるそうです」 「よかったね、エオ。それからほら、スーツ直ったよ」 着慣れたスーツを手渡されます。 あちらこちらに空いていた穴が嘘のように消えてます。 「いろいろやってもらってばっかですみません」 「気にすることはないだろ。なぁ」 ルーフさんに同意を求めるとルーフさんも笑顔で頷きました。 「わたしだって自分の用事ついでに行ったようなものだし」 「それでは着替えて来ますね」 やっぱり着慣れているこの服が一番しっくりきます。 鏡の前でくるっと一回りして確認。
簡単に着られるように工夫してあるのでこんなことしなくても良いんですけど。 ゼブリナさんとルーフさんの前でまたくるっと一回りしました。 「おー、レイキャシールって感じだなぁ」 「ゼブリナはエオにべた惚れー」 「違ーうっ」 左手でぱしっと突っ込みをいれるゼブリナさん。 「まだ時間はありますから総督に会いに行って来ます」 「案内しようか?」 「だいたいの構造は覚えているので大丈夫ですよ」 「それじゃ、気をつけてね。なんかあったら連絡してくれれば行くよ」 「いつもこの辺にいるから好きな時に来いよ」 「ありがとうございます。では」 席を立つとわたしは溜まり場を後にしました。 転送された場所はハンターズギルド。 すぐ近くに総督の部屋に通じる転送装置があるようです。 外に出ると目の前にその転送装置があります。 光の輪に飛び込んでから一呼吸置いて転送しました。 「ここが・・・総督の部屋・・・」
パイオニア2やラグオルの情報すべてがタイレル総督のまわりに表示されています。 少し緊張しながら細長い部屋を歩いて行きます。
秘書らしい人に呼び止められたのでパイオニア1の生き残りであること、ハンターのゼブリナさんに助けられたことなどを話しました。 横にいたタイレル総督の険しい顔が少しずつ変わって来ます。 「君のほかにパイオニア1の生き残りは?」 「わかりません・・・。でもリコさんなら大丈夫ですよ、きっと」 リコという言葉に一瞬だけ総督が止まります。
言ってはいけないことを言ってしまったかもしれないと謝ろうとすると総督が先に口を開きました。 「エオだったかな。レンジャーならハンターズ専用区画のここに住めば良い」
秘書の方に何か指示をするとディスプレイがこちらまで流れて来ました。 先程までゼブリナさん達といた区画のすぐ近くです。 「細かい連絡はおって秘書のアイリーンからある」 「わかりました」 礼をして部屋からでていきました。 気づかれないように振り返ると総督は落ち込んでいたように見えました。
指示された区画に着きました。 わたしの割り当てられた部屋はここのようです。 中に入るとアンドロイド用の部屋だということがよく分かります。
メンテナンス機能のあるクレードルとネット端末の置いてある机と椅子があるだけでした。
ディスプレイにはランダムで適当にピックアップされた情報が表示されていて窓の外にはパイオニア2の町並みが見えます。 あまりに無機的な部屋に“軽いため息”をつきました。
最近のできごとやパイオニア2のことはよくわからないのでネット端末を使ってみることにしました。
パイオニア2のネットのトラフィックが謎の増加していてパイオニア2のラボが全力を挙げて原因の特定を急いでいる、という記事が目に止まりました。 「ウィルスかサイバーテロ・・・。でも管理は厳しいからそんなことは・・・」 いくらスキルの持っている人間でも無謀なことはしないはずです。
考えても仕方が無いのでほかの記事に目を通したりあの爆発について調べることにしました。 「地上で起こった爆発に関しては何もわからないまま・・・降りるしかない・・・」
Hunters Info.というハンターズ同士の情報交換サイトを見つけましたが求めていた情報はありませんでした。
わずかながらあの爆発についての情報がBBSに書き込まれているみたいですがもうしばらく経たないとダメみたいです。 外を見るともう朝になっています。
軽く溜息をついて立ち上がると近くに設置してあるクレードルに入ると暖かい光に包まれました。 伸びをして体を動かして・・・心なしか調子が良いです。 これといって行く宛も無く溜まり場へ歩き始めました。
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