Feathery Instrument

Fine Lagusaz

3rd 戦いのいしずえ

どうやら二人ともラグオルに降りているようです。 武器か何かを集めに行っているとか。

メールを送るのも気が引けたのでギルドへ行って戦いのいしずえという仕事を引き受けちゃいました。 「君がエオか。わたしはジットという者だ」 依頼者はこのジットという人です。 内容はアッシュ・カナンさんの救出とデータディスクの回収です。 「そこにいる彼を連れて来てくれないか。話はそれからだ」 入り口のすぐ近くに紫のヒューキャストが一人。 近くに行くと向こうから話しかけてきました。 「エオというのはお前か。他人と組むのは初めてだぜ」 「わたしも初めてです。よろしくお願いしますね」

手のひらを前に出しても握ろうとはせずちょっと見ただけでそのまま話を続けるヒューキャストさん。 無愛想な人なんでしょうか。

「この依頼は、もともとオレがジットから受けたものだが突然誰かと組んで行けと言い出した。クライアントの言うことだ、やむを得んがラグオルではあまりはしゃぎ回らんようにな」 「大丈夫ですよ。慣れてますから」 わたしが歩き始めると何も言わず紫のヒューキャストさんがついてきます。 なんか怖いです。

「来たか、エオ君。そのヒューキャストが今回一緒に行ってもらうキリークのだんなだ」 「・・・」

「っと。キリークのだんな、まぁそう気を悪くしないでくれよ。二人いてくれた方が良いんだ」 キリークさんの無言の威圧にジットさんはたじたじです。

一人はアッシュに依頼した調査結果のデータディスクを確実にもらってくる役。そしてもう一人は、彼が負傷していた場合に備えての護衛要員だ」 だから誰かと組んで行けということらしいです。 でもまだ何かわけがありそうです。

「確実を期したいのだよ。・・・これは公の調査ではなく、個人的な依頼でね。アッシュは私のいとこなんだ。死なせたくはない。・・・よろしく頼む」 データディスクより大切なのはアッシュさん自身かな。 「・・・気にいらんのは確かだが・・・まあ、よかろう」 かなりキリークさんは不満があるようです。

緑の木々を見上げると木漏れ日がまぶしいです。 見慣れた場所のはずなのに何処か違います。 何処が違うんだろう? 「来るぞ・・・ラグオルの原生生物だ。囲まれるな」 ブレイパスを握り締める手に力が入ります。 レーザーフェンスを抜けるとブーマが三匹、土の中から姿を現します。

キリークさんがソウルイーターを振り下ろすと紙のように切り裂かれあっと言う間に三匹は姿を消しました。 レーダーに反応3、真後ろからサベージウルフが飛び出して来ます。

ブレイパスを構え狙いをサベージウルフに定めトリガーを引くとフォトン弾が高速で射出され頭蓋骨を貫き体液が吹き出しました。 それでも突撃して来たのを避けながら再び撃ち込みます。 わたしが一匹仕留めている間にほかの二匹をキリークさんが仕留めました。 「前よりも狂暴化しているの・・・?」 巨体が崩壊し地面に消えて行くのを見ながら呟きました。 あの爆発の前より間違いなく狂暴化しています。 精神的な干渉を受けているとしたら説明がつきます・・・。

「油断するなよ。一つの群れを倒しても、隠れていた群れがまた出てくる時がある」

「ウルフの特徴ですね。群れを指揮しているリーダー格を倒せば楽に戦えるようになるはずです」 「知識だけはあるようだな」 「一応、ラボにいましたから・・・」 また会話が途切れます。 無理に話そうとすることは無いのですが・・・

辺り一面に広がるエネミーの体液。 少し負荷がかかっているのか疲れてきました。 まだ慣れていないみたい。 「どうした、攻撃が当たらないのか?」 先を歩いていたキリークさんは振り返りながら言いました。 「いえ、そんなことはありません」 「なら足手まといになるな」 また歩き始めるキリークさん。 「あの、ありがとうございます」 その言葉にキリークさんは立ち止まります。 一瞬だけわたしを見た後、さっきよりゆっくりと歩き始めました。 こわい人だけど悪い人じゃないんだ・・・。

何度目かわからない戦いが終わりゲートを抜けると誰かのうめき声が聞こえました。 「だ、誰だ・・・?」 ゲート付近の草むらに人が倒れています。 慌てて駆け寄ると呻くようにその人は言いました。 「あんたら・・・何者かは・・・知らんが・・・気を付けろ・・・」 かなり体力を消耗しているけど命の危険はないようです。 「やつら・・・そこらへんに・・・まだ、隠れて・・・・・・く・・・」 「しっかりしてください・・・!」 返事がありません。 モノメイトを一個、アッシュさんの横に置きました。 やつらって・・・? エリアの奥をみると何かディスクが光を反射して輝いています。 たぶん、あれがデータディスク。 「何か聞こえるな・・・?うなり声・・・?」 「みたいですね。サベージウルフが複数と言ったところでしょうか」 キリークさんがソウルイーターを両手に持ち替えます。 わたしはブレイパスからクラッシュパレットに武器を変えました。 バランサーが散弾銃向けに調整されていきます。 キリークさんと目で合図をしながらデータディスクを拾います。 ほぼ同時にサベージウルフの群れが飛びかかってきました。

まとめて照準を合わせフォトンの弾丸を撃ち込んでいるところへキリークさんがソウルイーターでなぎ払います。 あっと言う間にサベージウルフの群れは大地へと還りました。 「ありがとう助かったよ」 「間に合って良かったです」 モノメイトひとつでは完全に傷は癒えなかったようです。 ところどころアザなどが残っていて痛々しいアッシュさん。 「ジットの依頼で来た」 「え・・・ジットが・・・?そういうことか。くそっ、いつまでも半人前扱いか」 悔しそうに唇を噛みながら続けます。 「依頼を果たしたのはいいが、ここでやつらに襲われて・・・」 不意を突かれたのでしょうか。

「データディスクも落としてしまうし、奴らはまだ隠れているようだし途方に暮れていたところだったよ」 緊急転送装置も作動しなかった様子。 一応、精密機器ですから直撃すれば壊れてしまいます。 余程当たり所がわるかったのでしょうか。 「傷は大丈夫ですか?」 「ちくしょう・・・悔しいな」 「あの、何か気に障ること言ってしまいましたか?」 「すまない、助けてもらっておいて・・・だけどやっぱりな」 力なく首を横に振りながらアッシュさんは言いました。 緊急転送装置は壊れたんじゃなくてわざと使わなかったのかも。 「オレはこの足手まといを連れて行く」 「わかりました」 差し出されたデータディスクを受け取りました。 「お前はそのディスクをクライアントに届けろ。それで依頼終了だ」 「はい」 「エオ・・・もっともっと強くなれ」 顔を上げるとキリークさんの目とあいました。 獲物を見つけて喜んでいるような、そんな目です。 「オレを満足させるくらいにな。お前には見込みがある。ククッ」

そしてキリークさんはアッシュさんを連れてゲートの向こうへ消えていきました。 「強くなれ、か」 青い空を見上げながら思う。 真実を知るためにはもっと強くならなきゃ。 誰かのためじゃなくてわたし自身のために・・・。 もう一度みた空はさっきより深い青に見えました。

テレパイプでシティに戻り報酬を受け取りにギルドへ行くと依頼人のジットさんと傷だらけのアッシュさんがいました。 「キリークはとっくに報酬を受け取って帰ったよ。あんたより先にね」 そこでジットさんは切って深くため息をつきました。

寄り道せず真っすぐ帰って来たつもりなんですけど早過ぎです、キリークさん。 「ふうっ・・・あんなアンドロイドは初めてだ。殺気すら感じたよ」 どういう世界を渡り歩いていたのか少し気になるところです。 かなり戦い慣れしていたようですし。 「まさに戦うために作られたかのようだな」 「ほんとそんな感じですね」

「持ってきてもらったものは確かにアッシュに頼んだディスクだ。ありがとう」 「アッシュさんは?」 「あいつ、メディカルセンターにも行かずそこでヤセ我慢してるよ」 見るとやっぱり傷だらけのアッシュさんが立っています。 「まったくバカなやつだ」 その言葉に苦笑い。

ハンターズに無茶は禁物なんですけど考え方は人それぞれですから他人が強制できるわけじゃないです。 「報酬はハンターズギルドにある。受け取ってくれ」 礼をしてアッシュさんのところへ駆け寄りました。 「ありがとう・・・オレも強くなるよ。そして、いつか借りは返す!」 「わたしも強くなりたいです。次に会うとき、互いに驚けるといいですね」 「ああ」 ギルドカウンターで報酬を受け取るとハンターズギルドを後にしました。 なんとかはじめての仕事を無事こなすことが出来たと思うと嬉しいです。 ショップ前の広場で町並みを眺めているとメールが届きました。 総督府からのメールです。 このままこの船に乗っていて良いそうです。 パイオニア1の生き残りであることはまわりに教えないという条件つきで。 「あ、生き残りだって教えたらバラされちゃうか」 慌てて口を抑えて辺りを見回すと白衣を着た男の人がすぐ後ろにいました。 一瞬だけ眼鏡が光って見たのは気のせい、ということにします。 ぽんと肩を叩かれ振り返るとゼブリナさんが立っていました。 「その様子だと地上に降りたんだな」 「なんでわかったんですか?」 フェンスに寄りかかりながら景色を眺めるゼブリナさん。 「初めて地上に降りた後、大体の人間はあれこれ考えるからな」 自分のことを思い出したのかその顔は少し笑ってます。 「ゼブリナさんも、ですか?」

「人の言っていることは鵜呑みに出来ない、そう思った。情報と下の状況が全然違ったからな」 「その目で見てその肌で感じた事が全て、ということですか?」 「まぁ、そんな感じだな。エオはどうなんだ?」

ロケットバイクが頭上を通り抜け風が吹き髪の毛がさらさらと音を立てました。 「もっと強くなりたい・・・そう思いました」 「強くなりたい、か。どうしてだ?」 「真実が知りたいから、です」 「例の爆発のか。だったら俺たちのパーティに入らないか?」 「あの、本当に良いんですか?」 「嫌なら最初から誘わない」 そういってゼブリナさんは端末の時計を確認しました。

「この時間ならいつものメンバーが揃ってるな・・・。溜まり場で詳しい話はしよう」 「はい」 この人たちと一緒なら真実に近づける、そんな気がしました。

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