Feathery Instrument

Fine Lagusaz

第十三章「花と風の街」

枠の中から外を眺める。 切り取られた世界。 青と青しかない。 そんな風景に緑が見え始めた。 僕には広すぎるのかも知れない。 今まで見えなかったこの世界は――

――商業の街バロール 「う~ん、やっと着いたわね」 ウィルが伸びをしながら言った。 体が未だに上下しているような錯覚。 船旅には初めてなのだからそんなところなのかもしれない。 「インフェリアとは違う賑やかさだな」 レイルは町並みを見回した。 あちらこちらに店が軒を連なれ花の匂いが漂っている。 ドエニスの花だったかな。 記憶から消えかけた花の名前と形を思い出した。 いい匂い。 「・・・・うるさいところだ・・・・」 「タナトスさんはこういう賑やかなところは苦手なのですか?」 「・・・・そう・・・かもしれない」 「とりあえず、宿屋決めてから動こう」 レイルの言葉に一同頷く。 街のつくりを覚えながら宿屋にたどり着いた。 「えっと5000ガルドになります」 「・・・・高い・・・・」 五人が泊まるにはこの額は異常だ。 呟いたわりにはタナトスの青い目の先には宿屋の人がある。 独特の冷たい瞳が細くなる。 「あ、え、とその・・・・五名様で150ガルドになります」 「・・・・その差は・・・・なんだ・・・・?」 「こ、これが正規の額ですから」 「・・・・」 「た、タナトス、睨んじゃダメだって」 レイルとウィルがタナトスをなだめる。 そのやりとりを微笑みながらフィールが眺めていた。 宿に荷物を置くとさっそく街へ出た。 いろいろな店がある。 ここにくればなんでも揃うのではないだろうか。 それはこの街を訪れた者は思うことだ。 「兄さん、ちょっと本屋行ってくるよ」 「わたしも一緒に行くよ」 「とりあえず、俺ら三人はいろいろ情報集めて見る」 「ごめん、兄さん」 「ゆっくりと見てきてくださいね」 「行くならフィールさんも一緒に行ってきたらどうだ?」 「いえ、あなたに付き合います」 「悪いね、三人とも・・・・。行こう、レイル」 「うん」 仲良く肩を並べ本屋に消える二人を見送り三人は歩きだした。 あちこち話を聞いて見るが特にこれと言った情報は得られず肩を落とす。 広場でアイスを三人で食べて休むことにした。 「タナトスがチョコでフィールさんがミントで俺がヴァニラ、と」 三つのアイスを器用にもちながら手渡す。 「う~む、これだけ見つからないと悲しいなぁ」 襟をぱたぱたさせながらぼやく。 アイスにかぶりつくと冷たさと甘みがほどよく舌の上で溶け合う。 「・・・・風晶霊の空洞・・・か」 「風の大晶霊シルフのいる空洞ですね」 「・・・・大晶霊の居場所は・・・・知っているのか・・・?」 「ええ、セイファート教会にいるときに聞いたことがあります」

もっとも大晶霊の居場所には昔からの伝説やグランドフォール事件のことでほぼインフェリアの人間が知っている。 「俺はあったことないからなぁ、一度くらいはあってみたいもんだ」 情報集めを半ば放棄して大晶霊探しの話になりつつある3人。 先にアイスを食べ終わり三人に一言断り一人、街を彷徨うタナトス。 「・・・・」 「・・・・」 少女がタナトスを見つめていた。 知らない顔だ。 少なくとも知り合いではない。 「・・・・」 「・・・・」 無視して前に進もうとすると袖をつかまれる。 また顔を見るが知り合いではない。 「・・・・なんだ」 「・・・・」 「・・・・」 返事がない。 どうすることもできずそのまま袖を握られたまま立ち往生。 軽くため息をつき天を見上げる。 そして再びため息をついた。 本屋で本を手に取る二人。 「この本かな・・・」 表紙には 文:デザイア・ウィンド 絵:シェリア・ウィンド の文字が読める。 挿絵つきの小説らしい。 調べると絵本数冊も見つかった。 どうやら、旅のことを元にして書いたようで不思議なほどの現実感がある。 「絵と文がよくあっているわね」 ぱらぱらとページを繰りながら言った。 「ずっと一緒にいるからかな」 同じくぱらぱらめくりながら答えた。 「わたしたちもそうなりたいな」 「そうだね・・・・。あ、え、あ、こ、これの会計済ませてくるね」 手に取った小説を会計まで向かう。 絵本を買うのはいくら何でも気が引けたしかさ張るので小説となった。 しかし立ち読みはしたようだった。

一番に宿屋についたのはケイとフィール、その次にレイルとウィル、大きく遅れてタナトスが戻ってきた、一人の少女を連れて、だが。 「タナトス、オマエそんな趣味をしていたとはなぁ」 「兄さん、冗談はやめてよ」 「タナトスさんのお知り合いですか?」 「・・・・街であって・・・・そのまま・・・・ついてきた」 「えっ」「そうなのですか」 四人のなかで一人だけ違う言葉を発したが反応は同じである。 驚いた、ということだ。 「・・・・」 それでも少女は黙っていた。 フィールとタナトスが一緒に話しかけても反応なし。 深夜になっても少女は喋らず寝てしまった。 不運(?)は重なるもので少女はタナトスの寝るベッドを占領してしまう。 空きはない。

フィールの「二人で寝たらどうでしょうか」の一言で同じベッドで寝る羽目になった。 タナトス本人は「・・・・狭い・・・・」と言っただけだ。 特に気にしないタイプらしい。 そして朝がきた。 ・・・・眩しい・・・・。 瞼を貫通し目を焼くかのごとく光線が当たっている。 右手で両目を庇いながら自分の横を見た。 まだ、少女はいた。 静かな寝息をたてている。 何処か自分に似ている感じがする・・・・。 その穏やかな寝顔を見ながらタナトスは思った。

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