Feathery Instrument

Fine Lagusaz

第十章「崩れ行く世界」

「俺はそろそろ戻る。くれぐれも変なことをするなよ」 「あー、安心しろ。そういうことに興味はない」 「ふん」

ロエンは鼻で笑い扉を閉めた。 クレーメルコンピュータの画面には城の見取り図が浮かんでいた。

「お、動いている。実験成功か」 「・・・・」

嫌な予感がしたがそのまま気にせず話に戻るアレンデだった。

『助けて』

「ん」 「どうかしたのか、レイル?」 「誰かの声が聞こえる」 「わたしは何も」

とウィル。

「私も」

ウィルに続くようにアレンデも言った。

「俺らも違うぞ」

画面を覗きながらケイが言いタナトスが無言で首を横に振る。

「いや、女のひと」

『誰か助けて・・・はやくしないと大変なことに・・・』

「ほら、また」 「なぁ、レイルだったら探しに行ったらどうだ」 「そうするよ」

勢いよく部屋をでようとする背中をタナトスが呼び止めた。

「俺も・・・・付き合おう」

二人は通路にでるとあっという間に駆けていった。

「わたしもいくよ」

続こうとするウィルの右手をつかみ止めるケイ。

「状況はそうもいかないらしい」 「なんで」 「これだ」

城の中の見取り図が表示され点が移動していた。

「風晶霊と水晶霊の力を借りて城の中を図にしたものだ。この移動しているのがレイルとタナトス、そしてこの止まっているのがロエン」 「すごいですね」

「が、ロエンが少しも動かない。この部屋についた時は動いていたんだが・・・・」

こっちじゃない。 T字路で耳を澄まして見る。

「こっち」 『そっちは行き止まりだ』 「兄さん?何処にいるんだ?」 『クレーメルケイジに干渉して音を出している』

どこからか聞こえて来るケイの声。 え、クレーメルケイジ?

「兄さん、聞こえる?」 『ああ、問題ないな。ロエンを助けに行ってくれ』 「どういうこと?」 『ある部屋に行ってから動かないんだ。あの動きからは戦ったとも思える』 「なんだって、わかったよ、兄さん」 『俺が誘導する』

反転し通路を走って行った。

『私を助けて』

まただ、この声。

『その通路は行き止まりだ右に曲がれ』

華やかな装飾のある壁から石の壁に変わった。 冷たい石の模様が後ろへ流れて行く。

『その正面の部屋だ』 「声もあの部屋から聞こえる」

タナトスが木の扉を触りながら

「扉は・・・・開きそうにないな」

といった。

「僕が壊すよ」 「・・・・ぇ」

水の種が剣に形を変えた。 その水の剣をかまえる。 ひゅっ 風を切る音がした。 扉が真っ二つになり開いた。

暗い部屋の奥に背の高い男と小柄な老人が一人が見える。 傷だらけで壁に寄りかかっているのはロエンさん!? そしてその後ろに見えるのは女のひと・・・・何が起きているんだ。

「来て・・・くれたのですね」

ゆっくりと頭を上げレイルを見ながらいった。

「役者が揃ったか」 「ちょっとばかり予定が狂ったな」

タナトスは二人をきっと睨みつけている。 レイルはロエンのそばに行った。

「お前ら・・・じゃ・・・・かなわ・・・・ない」 「喋っちゃダメだよ。・・・キュアっ」

優しい光がロエンを包む。

「少し楽になった。助かった」

剣で体を支えながら立ち上がり構えた。

「ほう、まだやる気か」 「あいにく、大切な預かりものがあるからな」 「あの男からのか。まぁ、いいだろう。もう少し付き合ってやる」

背の高い男が剣を握る。 天井に届きそうなほどの長い剣だ。 色は黒く鈍い光を放っていた。

「ウィルバー・・・・貴様」 「フィグの晶霊術を食らって生きているのだからしぶとい奴だ」

互いに振った剣が激しくぶつかり合い火花が散る。

「ではわしが相手するか」

フィグと言われた老人が二人によってくる。

「なんでこんなことをするんですか?」

俯きながらレイルはいった。

「この腐った世界を変えるためさ」 「なにしてもいいわけではないでしょう?」

レイルの拳には力が込められている。 レイルは怒っていた。

「レイル・・・・話しても・・・・無駄だ。・・・・ダークフォース」 「その程度の術で・・・・」

黒い風は見えない壁に弾かれ消えた。

「漆黒の剣よ、かの者を切り裂け・・・・ダークブレード」

老人の杖から無数の黒い剣がタナトスに放たれる。 すんでのところでかわす、が。

「くっ」

一本が胸を貫いていた。 口から赤い液体が溢れ胸からも吹き出した。 床に赤い水たまりが水の音に似た音を伴いながら広がっていく。

「タナトスっ!?」 「・・・・だ、大丈夫だ・・・・」 「若いというのはいいものだ。しかし次で終わりだ・・・・ダークブレード」 「すべてを通さぬ盾となれっ」

レイルの言葉に応えるように巨大なシールドになった。 シールドというよりは半透明の球体が二人を覆った。 その次の瞬間、強い衝撃が襲う。 シールドの内側でキュアを唱えるレイル。

「ぅ・・・・」 「しっかりしてよ、タナトスっ」 「ほう、おもしろい能力だ。水奏石だな」

ロエンと戦っているウィルバーが疲れたそぶりも見せずいった。

「ウィルバー、そろそろ行った方がいいのでは?」 「そうだな」

ウィルバーは一撃でロエンを払った。 思いっきり飛ばされたロエンは頭を押さえながら呻いた。 頭から血を流している。

「エアスラスト」

フィグの鋭い風を盾で防ぐ。

「こんな威力があるなんてっ」

桁外れの力に押される。

「ふ、腕を上げて来るんだな。ロエン」 「く、逃す・・・か」

ウィルバーとフィグの姿が揺らぐ。 盾が杖に変わりレイルの手に握られた。

「氷の槍よ すべてを貫け フリーズ」 「その程度か」

フィグが右腕を振り下ろす。

「ラン・・・・っ」

レイルの詠唱が止まる。 息ができないっ!? 口から何かが吹き出す。 あわてて押さえると手が赤く染まっていた。 肺が・・・潰れる・・・。

「また会おう」

そう残し消えた。 部屋に残されたのは傷ついた三人と捕らわれの女性だけだった。

『おい、何が起きたんだ』 「・・・・」 『レイル、どうした?』

目の前が暗くなってきた・・・・。 床が冷たい・・・・。 そうか・・・・石だからか・・・・。 横にいるのは・・・・だれだっけ。 でも・・・・どうでもいいか。 ものすごく・・・・眠い・・・・・・。 こんなとき・・・・なんていうのかな・・・・。 さようなら・・・・兄さん・・・・ウィル・・・・。

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