DAYS

第二章 侵入 -disisive battle-

蒼を始めとするラボの博士たちの設置したTFSは確実にあの惑星をヒトの生存可能な惑星に変化させていた。
戦いにおいてもその変化はフリースタイルの強度の低下という形で現れた。
鉄壁を誇っていた射撃型の装甲も薄くなり直接、斬りつけることさえできるようになった。
接近戦型の動きも遅くなった。
最後のエリアを制圧し輸送船に乗り込んだ。
降りたときと同じ顔触れが揃っていることに私は安心した。
以前のような重い空気は無い。
それどころかこの重圧から解放されるんだ。
お祭りでも始めそうな感じすらしている。
私を始めとするアンドロイドが戦うことはもう無いだろう。
これからどうなるのか?
その疑問はずっと私を苦しめていたけどこれからは各区画で手伝いの仕事をするそうだ。
つまり、いつもお世話になっていた蒼や私を作ってくれたラボの博士たちにもお礼ができる。
浄化室を抜け私は蒼のいる研究区画へ向かった。
ID照合を済ませると隔壁がゆっくりと開き明るい空間が広がった。
明るい色使いの研究区画は清潔な印象がある。
白衣を包んだ人々がゆっくりとした足取りで歩いている。
その中でこちらに手を振っている男のひとが一人・・・蒼だ。
「お疲れさま、アルギズ
「蒼もTFSの設置、お疲れさま」
アルギズもお疲れ様。後、その格好だと目立つだろうからこれ」
差し出されたのは白衣だった。
羽織るように着ると蒼は似合っていると笑った。
「意外と馴染むのもはやいかもね」
「私はここでなにをすればいいんでしょうか」
「名目上は僕の助手になってるけど・・・TFSの管理をやってみないかい」
TFSの管理、ですか」
「人間よりはアンドロイド向きの仕事なんだ」
案内された場所は小さな部屋だった。
小さな部屋に大きなディスプレイが複数並んでいる。
「このイスに座って」
促されるままイスに座ると今度は手を差し出すように言われた。
腕にコードを繋げるとTFSの情報が頭に流れ込んで来た。
「大丈夫かい」
「ちょっと違和感はあります・・・でも大丈夫」
「無理はしないでくれよ」
「はい」
すべてのTFSは正常に動作している。
順調にテラフォーミングは進んでいてあちこちに草原ができあがっている。
ところどころに残る機械の残骸が痛々しい。
ついさっきまで戦場だったところなんだ。
死んでいった仲間のことを考えると胸が苦しくなった。
細かい操作方法を尋ねようと部屋を探した。
でも蒼の姿は何処にも無かったのでコードを外して立ち上がり部屋を出た。
「あれがお前の愛娘か」
問い詰める声が聞こえてドアの影に隠れた。
「そういう言い方はやめてくれないか」
「お前があれに感情移入しなくなったらやめてやる」
胸倉を掴まれ蒼の体が少し浮いている。
「嫌な言い方をするんだね、君は」
それでも蒼は落ち着いた声で話しているけど、目は冷たく相手を捉えていた。
あんな目をした蒼を私は見たことが無かった。
「俺はお前らの頭を心配してやっているんだ。あれは人間と同じ形をしているだけのがらくたなんだぞ」
ネームプレートにある紋章は作戦部のものだ。
作戦部の人間がどうしてここにいるんだろうか。
「確かに彼女の体は機械でできているね」
「そうだ、わかっているじゃないか」
「僕は彼女たちアンドロイドを見下したりするつもりは無い。人間と同じように接するつもりだ」
「・・・・・・後でどうなっても知らないからな」
捨てぜりふを残しその男の人は消えて行った。
「大丈夫でしたか」
「ああ、まったく彼も不器用な奴だ。・・・・・・もしかして、聞こえていたのかい」
「・・・・・・はい」
痛い・・・・・悔しいのかもしれない。
私はずっと戦って来た。
蒼たちがあの星に降りられるように、自分の役割を果たすために。
だけどあんな言い方は酷すぎる。
俯くとぽろぽろと涙がこぼれ落ちて、金属の床に染みを作っていく。
「僕やラボのみんなは君のことを人と同じように、いや、人として接しているつもりだ」
肩に蒼の手がそっとのる。
スーツ越しにその感触が伝わって来た。
「すべての人間が君たちを人間として見てくれるわけじゃない。だけど全員が嫌っているわけじゃないんだ。そのことはわかって欲しい」
「・・・・・・蒼」
そのまま蒼に倒れ込み泣いた。
腕が優しく私の体を包む。
それでも涙は止まる事なく床を濡らし続けた。



No Error...
TFSのカメラには静かな地上の様子が映っているだけだ。
定期的にラボの観測機のエンジン音がするぐらいで人の活動らしいものはない。
あれだけ地獄のような世界だったのに今は静かなものだ。
戦闘が終わってから一カ月が経ちテラフォーミングもだいぶ進んだ。
後、数カ月もすれば移民可能な状態になる。
TFSの管理といってもこのシステムに繋いで監視しているだけだ。
「特にこれと言った問題はなしか・・・することもないのは暇です」
「確かに暇だね」
差し入れと言って紅茶を渡してくれるとほのかに香りが広がった。
「ここでの飲食はまずいのでは・・・・・・?」
「防水防塵処理ぐらいはしてあるよ」
「それがシステム管理者の言葉ですか・・・・・・」
静かに口に運ぶと紅茶の味が広がった。
「とかいいつつ飲んでいる君はなんなんだい」
「・・・・・・管理者の許可をもらったと判断しました」
わざと声の抑揚を無くして喋った。
「なるほど」
笑いながら蒼も紅茶を飲んだ。
暇だと言ってしまったけど、強い疲労感がある。
「その様子だとだいぶ疲れているようだね」
「なんかまだ頭の中にデータが残っているような・・・・・・そんな感じです」
「少し休めば治るだろう」
蒼はキーボードを叩きオートチェックモードに切り替えた。
私はイスに体を預け照明のない天井を見上げた。
右には蒼の横顔が見える。
「もしかすると決戦があるかも知れない」
「決戦?」
「フリースタイルには統括する指示型がいるらしいんだ」
携帯端末にあるレポートを表示させて私に見せた。
「指示型?」
フリースタイルとの戦闘で得られたデータを解析したものだ。
砲撃戦型、接近戦型をはじめとする型だけではなくそれらを統括する指示型がいる可能性がある。
それは蒼も言っていたことだ。
さらに読み進めて行くと交戦した3種類は死亡すると一定の周波数の電波を放つ習性があると書いてある。
解析したところその電波には武器や戦法のことだけではなく取り込んだアンドロイドの情報が含まれているという。
「人間やAIの予測を越える存在がいる。・・・・・・だから僕もこれさ」
白衣を捲り自動小銃と剣が取り付けられているベルトを見せた。
「私もこれだけは携帯してます」
短機関銃と短剣を見せた。
「白衣の下によく隠せたね」
「小型ですから白衣を着てしまえば目立ちません」
「備えあれば憂いなし、と言うけどそうならないことを願うよ」
「同感です」
「こうやって二人とも携帯している、ということはここでの戦闘が行われる可能性があると考えているわけだ」
苦笑いして頷いた。
「明日は調査機が帰ってくる。忙しくなるからそろそろ寝ることにするよ」
「わかりました。おやすみなさい」
「おやすみ」
蒼が部屋からでて行くのを見送ってシステムと接続する。
流れ込んでくる膨大なデータとの戦いが再開した。
さっきより負担にならない気がした。



ドウシテキミダケイキノコッテイルンダ。

オレ、ウデヲモガレアシヲフキトバサレテアタマハクワレタンダゼ。

アナタダケイキノコッテイルノハズルイヨ。

オマエモコチラニクレバイイ、キットキニイルダロウ。

キミノナカマダヨ、アルギズ
コワガルコトハナイ、オイデ。
ソウダ。
コチラカラソチラニオモムクコトニシヨウ。

「・・・・・夢?」
聞いたことのある声・・・・・・死んでいった仲間だ。
幽霊なんてものが存在するのだろうか。
まだ人ならわかるけど、アンドロイドは機械だ。
そんな馬鹿げた話があるはずがない。
私達は機械なんだ。
魂なんて存在するはずが無いんだ。
そう自分を納得させて時計に目をやると、TFSの制御室に行かないといけない時間だった。
慌てて短機関銃と短剣を身につけ白衣を着て部屋を飛び出した。
制御室にたどり着き、ログをざっと見てエラーが無いことにほっとした。
調査機が飛んでいる様子がディスプレイに映し出されている。
「ん?」
一瞬だけ黒い影のような物が機体の後ろに見えた。
光の加減で逆行になっただけなのだろうか。
機体の重量が増加していれば、警告が出るから恐らく誤認だろうけど、報告だけはしておこう。
夢の最後のセリフが頭をよぎった。
「本当に来るはずが・・・」
嫌な予感がする。
蒼に連絡しようとしたけどすぐにやめた。
こんなことで蒼の邪魔をしてはいけない。
調査機は高度を上げカメラから消えてしまった。
後、数時間ほどでこちらに戻って来る。
そして、恐れていたことが現実になった。
「研究区画の4番格納庫に正体不明の物体が侵入。周辺の乗員は退避」
けたたましいアラートが船内に鳴り響いた。
端末に映っている物体の移動方向にはMAIがあった。
その物体の侵攻を妨げるように近くのアンドロイドが戦闘を開始している。
壁に立て掛けておいた簡易空間戦闘用の装備をしてその場へ向かった。
途中で地震のような揺れに襲われた。
「目標はコアシャフトに侵入。一直線にMother AIへ向かっている模様。至急排除せよ。Error R53発生:想定外の戦闘につき指示不可能・・・」
船の中で無機的な合成音声を聞くことになるとは夢にも思わなかった。
戦闘指示AIがいとも簡単にダウンするとも思わなかったけど。
作戦部はこれからどうするつもりなのだろう。
下にいる時も指示に従っているように見えるだけで、実際は独自の判断で行動していた。
あのAIがなくてもどうにかなる。
大きな空間にでると重力が無くなり体が浮き上がった。
船首から船尾まで貫く搬送路として使われるコアシャフトは回転していないため重力が無いので、スラスターと壁を使いながら進んで行く。
「ほぼ不意打ちに近いね」
横の通路から武装した蒼が姿を現した。
スーツ越しに殺気立っていることがわかる。
「蒼は下がってください」
「あれに仲間をやられたんだ。下がれるわけがない」
「・・・・・・こちらの被害は?」
「死者24名。負傷者5名・・・センサーが鈍くて感知できなかったなんて・・・」
蒼は悔しそうに唇を噛んだ。
調査機が戻って来るのを格納庫で待っていた。
隔壁が開いた瞬間、衝撃に吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまった。
小銃を数発たたき込んだが傷一つつけられなかったという。
「死者の数が多いのはそのせいですか・・・・・・」
初の人間の被害が宇宙でなんて認めたくない。
あの時見たのはノイズでもなかったんだ。
自分の判断の甘さを呪った。
「最終防衛線はここか」
巨大な隔壁を前に私達は足を止めた。
直径100mほどあるこの球状の空間はあちこちの区画につながっている。
このままここを突破されればこの先にあるMAIにたどり着かれてしまう。
ほかにも武装したアンドロイドや人間が待機していた。
ざっと600ほどだろうか。
そのうちの一人が気づいて蒼に言った。
「深瀬博士は下がってください」
「仲間がやられるのを指を加えて見るのはもう嫌だ」
蒼の目は真剣そのものだ。
気迫に押されて男の人はぽつりと言った。
「・・・・・・死なないでください」
「仕事を終えるまでは死ねないよ」
笑って蒼は返した。
蒼のやりとりを見ながら前線の仲間の声を聞いていた。
端末に映っている戦況もあまり芳しくない。
「ここを突破されたらMAIに到達する。恐らく融合するつもりだ」
「あのフリースタイルたちにそれをする意味があるんですか?」
「・・・・・・進化したいんだよ」
「進化、ですか・・・・・・。今は相手がなんであれ、ここを守れば良いだけの話です」
誰かが隠れろと叫び私達は散った。
短機関銃P90を構えコンテナの裏に隠れる。
目標は隔壁を強力なエネルギー波で破壊して突き進んでいる。
この隔壁もそうやって突破されるだろう。
センサーが高いエネルギーを検出し隔壁が赤く光った。
爆発音が轟き金属片があたりを漂う。
煙を突き破って二等辺三角型の物体が姿を現す。
表面は射撃戦型と同じ黒でかなりの強度を持っているらしい。
高い機動性と高い攻撃力という接近戦型と射撃戦型の長所を合わせ持っている。
銃声が多重に発生し目標の姿を煙が覆っていく。
その煙を貫くように複数の黒い線が現れ風を切った。
「全然、効いていないなんて・・・・・・うわぁっ」
悲鳴が上がった方を見ると触手がアンドロイドの胸部を貫いていた。
蒼が壁を蹴って剣を振り下ろし触手を切り落した。
近くにいたほかのアンドロイドが負傷したアンドロイドを抱き抱え後退する。
「ここだと不利だな。外に出せば障害物破壊砲で狙えるだろうに」
蒼の言うように船外にあるレーザー砲は私達の火器の比ではない。
目標を船外に誘い出しレーザー砲で止めを刺すことができればいいけどもしレーザー砲をコピーしてしまったらどうなるだろう。
グングニルの装甲は決して脆くはないけど被害はでてしまう。
アルギズ、なんとかして船外におびき出そう」
「そこのハッチから最短距離で外にいけます」
「わかった。問題はどうおびき寄せるかなんだけど・・・・・・」
おびき寄せるためには囮が必要になる。
とにかく目標の興味をひかせることができれば・・・・・・。
あれは進化を欲している。
私たちを取り込もうとしている。
取り込もうとしている?
あの夢の中であれの意識らしいものを見た。
取り込んだアンドロイドの情報からMAIの存在を知ったんだ。
簡単な本能しかなかったフリースタイルがAIで理性を持った。
AIにだって本能に近いものはあるからそれと融合したのだろう。
だとすると極めてAIに近い存在になる。
普通のAI管理者権限でアクセスすることが可能で記憶の書き換えもできる。
「このネットワーク経由で目標にアクセスできるかも知れません」
「そんなの無理だろう。それにアクセスしてどうするんだい」
「MAIを私と認識させてください。私が囮になります」
『その役、我々LANAが引き受けた』
通信に割り込んで来たのはネットワーク管理部だ。
『大体の構造はわかった。少し時間をくれ。すぐに書き換えて見せよう』
「そんなこといって大丈夫なのか?」
TFSの設置をするお前らやアンドロイドの連中だけに良い格好はさせんよ』
妙な笑いとともに通信は途切れた。
皮肉なのだろうか、それともただ目立ちたいだけなのだろうか。
そんなこと今は関係ない。
「今は彼を信じるしかないか」
「そうですね」
このやりとりを聞いた仲間の間にざわめきが広がる。
「俺らの連携を作戦部の連中に見せてやろうじゃないか」
若い声がそう叫んだ。
攻撃の音を掻き消すように応じる声が響く。

弾倉を取り替え私は目標に照準をあわせて、トリガーを絞った。
P90が火を噴き上げ、弾丸を高速で射出する。
でも、相手の装甲に弾かれて、ダメージを与えることは出来ない。
手持ちの武器で最大の火力を持つのは、
「武器工のくれたミニガンです。ちょっと起動に手間取りましたけど思うように動きます」
小通路から白の飛沫を上げて可動砲座となったミニガンが飛んできた。
「これで少しはマシになるかな」
「足止めが限界ですよ」
ミニガンが火を吹き薬莢が高い金属音と共に吐き出される。
目標にかすり傷すらつけられないけど足止めにはなっている。
突然、目標の攻撃が止まり通信が入る。
『またせたな。書き換えは完了した。幸運を祈る』
「お疲れ様でした。ありがとうございます」
書き換えが終わったことを示すように目標は進路をこちらに向けた。
蒼が閉鎖していた隔壁を開く合図をした。
私を追いかけて目標が恐ろしい速度で飛んでくる。
ぽっかりと開いたシャフトに向かってスラスターの推力に任せて突き進む。
アルギズ、危ないっ!!」
振り返ると目標に光が見えた。
目の前が真っ暗になってしまい何が起こったのかわからない。
それもすぐに治り赤い珠の浮かび漂う蒼の姿が見えた。
蒼が私をかばい傷を負った・・・・・・違う、右腕を失ったんだ。
「危ないところだったね・・・・・・」
「蒼っ」
「ここの医療部は優秀だ。大丈夫、2ブロック先の隔壁で離してくれ」
「・・・・・・」
「後、これを・・・・・・」
蒼が私に渡したのはいつも携えている剣だ。
「僕も一緒にいてあげたいけど今は役不足だからね・・・・・・。代わりに・・・・・・」
「わかりました。ちゃんと後で返しますから」
「手渡して返してくれよ・・・・・・」
「はい」
宇宙服を着て手を招く人が三人ほど見える。
最後に蒼は私に笑って見せたので私も笑って返した。
蒼の体を離し医療部の人に渡した。
『デブリではなくてこの化け物を狙うのかぁ。おもしろい』
代わりに入って来た通信は保安部からだ。
『あんたと目標が真空中にでた3秒後に攻撃する』
「了解、一撃で仕留めてください」
『了解した』
最後の隔壁が開き広い真空中に私と目標は吐き出された。
カウントが始まり船体にある砲台が動き目標を捉える。
極力、目標の動きを止めるように速度を落とし伸びる触手を避ける。
『3・・・2・・・1・・・』
眩いばかりの光線が交差し目標の体を貫き切断する。
音は聞こえず光だけが私の目に届いた。
「・・・・・・終わった・・・・・・違う」
煙から形が現れた。
その形には見覚えがあった、私だ。
来るな、心のなかで叫んだけど鏡の私は真空中で髪をなびかせ近寄る。
「こんにちは、アルギズ
ゆっくりと手を伸ばし私の頬に触れてきた。
それを振り払い距離を置いた。
「あなたは・・・誰?」
「あなたたちの言う目標」
「どうして私の形をしているの?」
「あなたが一番優秀な依り代だから・・・」
妖しい笑みを浮かべ私を見た。
恐らく、はっきりとした実体ではなく脆い状態なのだろう。
私と融合することが目的だった・・・・・・?
「さすがは私たちの選んだ依り代だわ」
こちらの思考を読んでいるの?
会話している回線を通じてAIにハックを仕掛けているのか。
最大強度の防壁を展開しすべての通信を遮断した。
真空中では銃は使えない、反撃する手段がない。
「このまま私と一緒になりなさい」
「嫌です」
剣を構えもう一人の私を牽制する。
依り代になるつもりはない。
そんなことのために蒼は私を護ったわけではないしここまで生きてきたわけではない。
アルギズの意味は防衛。私は蒼とみんなを護る・・・・・・」
「ふふ、おかしなことを言うのね。その力が無いから蒼は傷ついたんでしょう」
もう一人の私はあざ笑う。
確かに力不足であったのは紛れも無い事実だ。
でも蒼は・・・・・・生きている。
「私と一緒になればこの能力を手にいれられるの。悪くないでしょう?」
「それは私の存在否定です。今まで失った仲間のためにも負けられません」
「仲間? その仲間の記憶を持つ私もあなたの仲間・・・・・・」
言葉を無視し鞘から剣を抜いた。
胸に剣を突き立てた瞬間、顔が歪んだけどすぐに妖しい笑みを浮かべた。
「あなたの仲間なのに酷いわね」
「酷く無い。死んだ仲間はこの世界にはもういない」
剣を握る手に力が入り刃が沈む。
「あなたが持っているのはその仲間の情報だけ」
「ぐ・・・」
「このまま消えてください」
ジェネレータと剣の防御壁回路を直結するプロセスを開始する。
アンドロイドでも扱えるようにしてあるのが蒼らしい。
「命の危険まで侵して護るべきほどの仲間なの? あなたを蔑む人もいるのに」
"パス入力"
"我が命を喰らいすべてを断つ刃となれ"
"パス認識:ジェネレータ解放まで5sec"
文字が流れコンソールから消えるのを確認して私は笑顔で言った。
「私にとってその価値のある仲間ですよ」
剣が青い光を放ち目標の体を切り裂いていく。
目標は断末魔の叫びをあげ漆黒の空に散っていった。
スラスターが警告を上げた次の瞬間、爆発して私の身体を吹き飛ばす。
軽い衝撃に身体を丸めそのまま流される。
船が遠ざかって行くのがぼんやりとした目に飛び込んできた。
ゆるやかにだけど、確実に思考ができなくなってきた。
"記憶維持を最優先"
"稼働率を0.1に設定"
"スリープ移行まで30s"
何処にも目標の姿は無いことを確認すると私は目を閉じた。
体は船から離れて行く。
破損したスラスターに舞い戻る推力は無い。
約束は果たせない。
ごめんなさい、蒼。
彼から渡された剣が星の光を反射して輝いている。
その輝きに一瞬だけ蒼が見えたと思うと、意識が遠のき何もわからなくなった。