部屋に戻ったアズをベッドの上に寝転がって本を読んでいたアルギズが迎えた。彼女の部屋は別にあるが本棚が所狭しと並んであり、生活拠点の機能をほとんど捨てている。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「収穫はありましたか?」
あまりにも単刀直入な物言いにアズは苦笑い。すぐに表情を戻して、
「まぁ、楽しかったよ」
「そうですか」
「人となりはわかったと思うけど、目的はわからない」
ベッドに座るアルギズの横にアズは腰を下ろした。
「目的は意外とシンプルかもしれませんよ」
アルギズの言葉にアズは首をかしげる。竜后や竜姫のリバースエンジニアリングできるかどうか、あるいはどう使うかをうかがっている。技術を持ち込んだ人間なら考えることだが、彼女が留まる理由ではない。自分自身で確かめる以外の方法はいくらでもある。
「鈍い人ですね、相変わらず」
膝の上で手を組み、その上に顎を乗せて考え込むアズは思考を中断して、
「何がさ」
「あなたがいるから、ですよ」
「それは、買いかぶりすぎだと思う」
「なら、安く見過ぎですよ」
ライラックから興味と好意を向けられている認識はアズもあった。それがとどまる理由のどれぐらいをしめているのかはわからない。
「興味関心や繋がりを言うなら、僕ら、だろう、きっと」
「僕ら、ですか」
「君やカシス、ここで出会ったいろんな人たちや場所だよ」
真剣にいうアズを見て、アルギズは心のなかで、そう言える人だから惹かれるんです、と呟いた。
●
ライラックはベッドに仰向けに寝転んで天井を見ていた。服は廊下から寝室のベッドにたどり着く間にほとんど脱ぎ捨てていた。身軽でいたい。肌から伝わる感触すら煩わしかった。
そんなに長居をするつもりはなかった。旅先の一つに選んだに過ぎなかった。だから、荷物は最小限にしていたし、竜妃の開発の際に貸与された住居も一人で暮らすには十分以上の広さだったがものは増やさないでいた。竜姫の開発を依頼されても変えるつもりはなかった。目を閉じると、青髪の少年の姿が鮮やかに思い浮かぶ。焼きつくとはこのことだ。
ライラックは向きを変えて、枕に顔を押し付けて、小さく叫ぶ。久しく忘れていた感情だ。多くの人が人が"わずらう"ものであることも思い出した。恋だ。正体がわかば手が打てるのがお約束なのだが、これは事情が異なる。何せ、思考や感情を中心に起こる状態異常なのだから。おかしなことを思いついたという自覚もしにくい。
「全く、責任、とってくれるんですの?」