「天気が悪くなってきた、と思ったらあっという間だったね」
濡れた髪を拭きながら、アズはベンチに腰をかけたアルギズに言った。
「屋根付きのバス停が見つかって良かったです」
「そうだね。運が良かったよ」
隣に腰を下ろして、
「しばらくは此処で足止めかなぁ」
丘で見た空よりも分厚く、暗い雲が全天を覆っている。
「最悪、此処で野宿でしょう」
「準備はしてあるから大丈夫さ」
「……イクサイスユニット、着てくれば良かったです」
「オフの時ぐらい着なくても良いだろう。それにそんな寒いわけでも……くしゅっ」
「必要でしょう?」
「……そうだね。少し、天気をなめてたようだ」
苦笑いしながら、空を見るアズの顔色は少し悪い。
「着替えた方が良いですよ」
「此処で?」
「はい」
それもそうなんだけど、と口の中で言って、
「後ろ、向いていてくれないかな」
その言葉に素直に従って、アルギズは後ろを向いた。
「シールド、使いましょうか?」
「いや、良いよ。すぐに終わるから。……終わり、と」
「着替えるの早いんですね」
「着込んでないからさ」
アルギズの隣に腰を下ろしてアズはふぅっと息を吐いた。
「寒くないですか?」
「ん、少しね」
「……こうしたら少しは温かいでしょうか」
そう言うとアルギズは、身体をアズに寄せた。
一瞬だけ、アズの身体が震えたが、それは一瞬だけだった。
「ありがとう……」
気づけば、アズの左手がアルギズの右手を握っていた。
「ダメですよ」
アルギズは右手をひっくり返して、アズの左手を握りかえした。
「こう、です」