DAYS

『薬の塔』

「こっちの薬はあーまいぞ」
などと歌いながら目の前の少女は薬を積み上げていく。
「確かに甘い」
とおれ。
「飲んだことあるの?」
「あった。今は飲んでいない」
「治ったんだ」
「一応は」
寛解した、というのが正しい。症状が落ち着いただけで、何かの拍子にぶり返すこともある。
「私も治るかな」
おれは黙って首を縦に振る。
専門家ではないからただの気休めでしか無い。
おれにできるのは機械を使って相手の精神世界を偵察飛行することだけだ。
「でも、どうやったら治るんだろうね」
いつもの、実体がどこにあるかわからない笑顔で問うてきた。
「……わからないな」
「わからないのに治るんだ」
笑顔はそのままで指摘が飛んできた。
「わからないから調べるんだ。時間をかけてでも」
「まるで、機械みたい」
「そうかもしれない。機械を調べたら何かヒントがあるかもな」
少女の動きが止まる。
あの笑みのままで表情からは何も読み取れない。
「うん。そういうのもあるかも」
治そうという気持ちはあるのだろう。
ただ、環境が悪い。
記録を見ると最初のほうがどうにかしようと意欲はあったのだが、それをことごとく潰してしまい、今の無気力状態を招いたようだった。
「できる範囲で手伝おう」
「ほんと?」
「サービスだ、サービス」
そこまで付き合う理由はほとんどない。
この言葉に嘘はない。
「時間だ。そろそろ行くよ」
「うん」
おれはゆっくりと立ち上がり部屋をあとにした。