『降下、10秒前』
オペレータがカウントを始める。
0になると同時、機兵の脚部を固定していたロックボルトが解除。
機兵はレールを滑って、輸送機外へ飛び出る。
視界が機械の黒から空の青に塗りかわる。
一瞬の浮遊感、自由落下。
『全機降下開始』
『敵の対空砲確認』
『機竜隊の連中、仕事サボりやがったか』
眼下には敵の作った塹壕が見える。
その塹壕の一部に対空砲が設置してあり、さらにそれが火を噴き始めた。
着地用のロケットモータを点火、落下速度が減速。
先までの落下軌道を対空砲弾が貫く。
『敵、機兵の降下確認』
『味方の撤収完了』
『ビッグ・アップルのタイマー設定完了、240秒後に起爆します』
『敵の機兵が移動を開始』
『予想通り、解除に向かっているか』
『やはり、旧プロトコルは完全に解読されているようですね』
『ったく、仕事増やすなよなぁ』
『こっちとしてはやりがいがあって良いよ』
『撤収の時間は何とか稼げそうだ』
『ビッグ・アップルのタイマーが解除されました』
『思ったよりも早いな』
『前方に強力なエーテル変動を検出、テレポートです!』
ロケットブースターの加速に身体が押しつぶされそうになる。
それでも操縦桿はしっかりと握り、目は正面を捕らえる。
眼前に広がるのは宇宙の黒と星の青だ。
『ブースター切り離し』
同時にブースターが切り離され、その様子が後部カメラが映す。
ブースターの他に10機の機竜の姿もあった。
「俺たちが間に合うか怪しいところだ」
「間に合わせるのだ」
「そうだな。再突入コース変更だ。エーテルの大量消費になるがやってみる価値はある」
「再突入コースを再計算。割り出し完了、HUDに表示」
「友軍にデータ転送を頼む」
「了解。……転送完了」
通信機から無数の声。
「ノリが良い連中だ」
「再突入まで残り120秒」
「了解」
指揮車の前に現れたのは敵の機兵だ。
車両の装甲は分厚く、大体の攻撃は通さない。
が、それは対歩兵の話であり、対機竜・機兵戦では通用しない。
特に機兵に対する防御はこの大陸では軽視されていた。
理由は機兵が存在しないと単純だ。
そういう"文化圏"に機兵を主流とする文化圏の人間が来た、それだけのことだ。
「敵にロックオンされました……」
「アブソーバは全開にしておけ。ギリギリまで粘れ」
「後続の敵機兵に追いつかれました」
「囲まれた、か」
敵の機兵はそれぞれの武器を構えているが撃ってくる様子は無い。
「人質か、それとも情報が欲しいのか。判断に困る連中だ」
突然、指揮車の正面にいた機兵の胸部装甲が陥没した。
続いて爆発。
「上空より友軍機接近中です。機竜12」
「援軍か!?」
「散開しろ。応戦だ」
「大気圏外から出張かい」
「ギャラは上乗せの上乗せの上乗せだな」
「金は良いからどうに―」
通信機からノイズ、ディスプレイには2番機全損のメッセージ。
「対空ミサイルぐらい使わせろよ。ったく」
『警告: 前方から対空ミサイル接近』
一騎の目も接近するミサイルを捕らえていた。
すぐさま機首を上げて垂直上昇、ミサイルがブラック・アウトの後方に食いつく。
「良いミサイルだ」
そう言いながら、後部レーザーガンを速射、ミサイルが爆発し破片をまき散らす。
破片の一部がブラック・アウトのシールドに弾かれる。
「次はこちらの番だ」
「2機沈めたぐらいでいい気になりやがって」
レバーを握りながら男は空の敵を睨む。
サイドパネルを操作し、
「機竜慣れしてないと思ったら、大きな間違いだ」
『警告: 大規模なエーテル変動を検知』
「あの機兵、何をする気だ?」
眼下の機兵の装甲の隙間から白い光が漏れる。
「攻撃は……」
他の機竜がミサイルを撃ち込むが見えない壁に阻まれて爆散した。
装甲の隙間から光が止まると同時、分厚い装甲が剥がれ機兵の本体が見えた。
予想よりも細いフレームだ。
「高速機動形態か」
彼の言葉通り、機兵が動きを再開した。
機首を右に向けて推力を全開にする。
相手は脚部の関節を曲げ、跳躍の姿勢。
地面を蹴り上げ、背中と脚部のバーニアを吹かす。
「敵は全員、高速機動形態か」
『操縦モードの切り替えを提案』
「望むところだ」