大小様々な機竜がサウスフォレストに向けて飛行している。
伝説の生き物である竜を機械の身体に押し込めたものから、実在する戦闘機のようなものまで様々だ。
田辺の駆るブラックアウトもその中にいた。
「多国籍軍にもほどがある」
「共通の目標が出来たのだ」
「心強い話ではあるな」
つい、先日まで敵対していたギルドまでがこの戦いに参加している。
敵は正体不明の大型ロボット、街の1つや2つたやすく消し飛ばせる能力を持っている。
しかも、敵は周囲のエーテルを操れる。
それは攻撃だけでなく、ガーゴイルやドラゴンなど本能的にエーテルを使う生物の操作も可能だった。
その情報が広まった結果が現状だった。
運営に報告をした者もいるが、プレイヤー間のいざこざは自力で解決するようにとテンプレートのメールが帰ってきただけだった。
そうなってくると、頼りになるのは自分たちだけだ。
『敵の第1波接近中。ガーゴイルとドラゴンの構成。迎撃部隊はF10th~F15th』
何処のギルドにいるかわからないオペレータが告げる。
迎撃にあたる部隊の機竜が一斉に加速を開始。
白い雲を引きながら、前方に消えていく。
「F11thが交戦を開始した」
「俺らもそろそろか」
「操作系の切り替えを提案」
「了解」
そう言って、田辺は呼吸を整え、目を閉じた。
『聞こえるか?』
『聞こえる。こっちの声は聞こえるか?』
『聞こえる。問題ない』
『これが感覚共有か』
『正確には感覚共有を応用した同調型の操縦系だ』
『互いの感覚がそのまま、伝わる、か』
『動作にかかる時間が大幅に短縮できる』
『ふむ』
『田辺、目を開け』
『……ブラックアウトの視界か』
コクピットから見た光景ではなく、ブラックアウトのカメラから見た光景だ。
ブラックアウトのカメラは機首に備え付けられている。
一瞬、身体だけで空を飛んでいる感覚にとらわれる。
『これがお前の感覚か』
『そうだ』
『良い景色だ。これなら、何だって出来そうだ』
『最初からこのシステムは搭載してあった』
『使わなかった理由は何となくわかる』
『このシステムの条件は互いの存在を認め、受け入れることだ。異なる存在の身体の境界を消すシステムだ』
『なるほどな』
『敵第3波確認』
『劣化機竜隊か。趣味が悪い』
『田辺、行くぞ』
『了解』
ブラックアウトが今までに無い加速を開始、遅れるように他の機竜が続く。
『大型ミサイル命中まで残120秒』
『何でもいい。道を切り開くんだっ』
『機竜残存率8割』
『後ろに食いつかれたっ』
『待て、俺が落とすっ』
ブラックアウトの後方にミサイルが5発食いついた。
すぐさま、擬似熱源を放出。
ミサイルのターゲットが擬似熱源に移り、ブラックアウトから離れる。
ミサイル、爆発。
周囲の機竜も降り注ぐミサイル群を回避しながら、敵の数を確実に減らしている。
『ミサイル着弾まで30秒、全部隊至急退避せよ』
『まだ、減らしきれてないぞっ』
『離脱に15秒あれば十分だ。粘れる奴はギリギリまで粘れ』
それでも多くの機竜はその場に残り、ミサイルを落とし、防壁となったガーゴイルとドラゴンを撃ち落す。
残り攻撃をする機竜の中にブラックアウトもあった。
『私たちは離脱に12秒あれば十分だ』
『とことん、ギリギリだな』
竜の砲撃を身体を傾けてかわし、
『だが、味方に落とされるつもりは無い』
竜の顔面にレーザーガンを浴びせる。
鱗と血と肉が飛び散る。
『そうだ』
さらにミサイルを撃ち込む。
竜が断末魔の叫びと身体を構成したものをぶちまける。
赤い飛沫を突き抜けて、ブラックアウトと機竜たちが敵の壁を削っていく。
『時間だ』
『離脱、最大速度』
2基のエンジンが青白い炎を吹き出す。
ブラックアウト、垂直上昇。
先に離脱を始めた機竜たちに並ぶ。
『着弾まで後、5、4、3、2、1―』
大型ミサイルは一瞬にして、内部に蓄積していたエーテルを膨大な熱と光に変換。
大きな光の半球となって敵の大型ロボットを飲み込んだ。