DAYS

『星の屑』

「ちきしょー、あいつ」
男は撃たれた腕を押さえながら、コンテナの影に隠れた。
顔を出そうものなら、コンテナの向こうにいる女が持つ突撃銃の餌食だろう。
幸い、致命傷にはならずに済みそうだ。
別に致命傷になったところで、男にとってはさしたる問題はない。
「デリったところで作りゃ良いだけだ……」
しかし、殺されるのは釈然としない。
自分がいったい何をしたというのか、と男はここ数日の行動を反芻する。
何か、女を怒らせるようなことをしただろうか?
会話は特に問題は無かったように思う。
いつも通りの他愛もない会話が多かった。
ううむ、と男は頭を抱える。
そこへ転がってくる黒いもの。
男は咄嗟にそれを掴んで投げ返す。
手榴弾は地面に落ちることなく空中で炸裂、短い破裂音と共に金属片をまき散らした。
周囲のコンテナに傷をつける。
金属の不協和音をBGMに女の狂った笑い声が聞こえる。
「どうして、私だけを見てくれないの?」
「お前みたいな怖いのに構ってられるかよっ!」
男は叫びながらコンテナの間を走り抜ける。
良く効くと評判の傷薬はその評判通りの働きをしてくれている。
ああ、こんなことならありったけの弾薬と薬品を携行しておくべきだったな。
だいたい、街外れで戦闘なんか普通はしねぇよ。
常識ってもんがない。
毒づきながらひたすら走る。
後ろから走ってくる音が聞こえる。
男は確認せずに手榴弾を呼び出し、レバーを引き、躊躇いもなく後ろに投げる。
炸裂音は聞こえたがすぐに女の笑いにかき消された。
男からは見えないが女は両の手に突撃銃を構え、引き金を絞った。
咄嗟に男はシールドを展開するが、シールドのポイントが目に見える速度で減っていく。
男は身をひねり半回転、滑りながら減速しながら、両の手に自動小銃を握る。
彼のシールドに女の展開したシールドが激突し、稲妻に似た光が走った。
「お前、いったい何が気に入らないんだ!?」
「あなたがわたしの知らない人と一緒にいたこと」
「無茶言うなぁっ!!」
叫びながら後ろに跳躍と連射撃。
弾倉はアイテムボックスと直結している。
焼き付くまで連射してやる、と男はひたすらトリガーを絞る。
何を思ったか女はシールドと言う結界の内側で何もせずに男の方を見ている。
女の口は何かを伝えようと動いているが、銃声に阻まれて男の耳には届かない。
「どうして、歯車が狂ったのかな?」
さらに女の問いは続く、
「なぜ?」
武装選択、対物狙撃銃。
己の背よりも高い銃を構えながら、
「なぜなの?」
銃口が男を捉える。
男はひるまずに射撃を続ける。
女のシールドは残り数秒しか効果を維持できない。
「なぜなのよぉっ!!」
叫びと同時に女はトリガーを、ひいた。
放たれた12.7mmの弾は女と男のシールドを貫き、男の胸に命中した。
男の身体は後ろに吹き飛び、コンマ数秒の間をあけずに衝撃が体組織を粉砕していく。
一瞬にして男のHPはゼロになった。

少女はつけていたヘッドマウントディスプレイを外して、机の上に置くとため息をついた。
最後は逃げた方が良かったな、と思いながら。
先のやり取り(通常の言語と肉体言語による)のせいで酷く疲れているようだ。
オレンジジュースを注いだコップを部屋に持ってきてから、"彼"は"彼女"を怒らせた理由に気づいた。
「もしかして、新しいギルド員に街の案内をしていたから?」
さすがにそれはないか、と打ち消してオレンジジュースを飲んだ。
思ったよりも酸味のきつい味だった。