『ある兄妹の一こま』

アズリエルは技術関係の書棚で目的の本を探していた。

これで本屋は5件目になるが、なかなか見つからない。

この本屋で見つけられなければ、今日は諦めようと思っている。

せっかくの休日を見つからないものを探すのに潰すのは勿体無いからだ。

そう思いなおしている間に書棚の最下段の端に来た。

「収穫なし、か」

誰とも無しにこぼすのと、後ろから抱きつかれるのはほぼ同時。

背中に当たっているものは気にせず、後ろを見れば、

「……」

「アズ兄ー☆」

「やぁ、ケイ」

「何そのリアクション。つまんないのー。」

「何となく、来るだろうと思っていた」

「そんなだと逃げられちゃうよ?」

「さて、それはどうだろう」

背中から抱きつかれる状態を半ば、強制的に解除して、

「話をするなら外に出よう。此処だと邪魔になる」

そういってケイを連れて、アズリエルが向かったのは近くの喫茶店だ。

「こういう場所、知ってるんだね」

「いつもの場所と言っても良い」

向かいの席にいるケイは少し、いたずらっぽい表情で、

「ふぅん」

「意味ありげな反応だな」

「気のせいだよ」

「そういうことにしておこう」

そんなやり取りをしている間に注文したものが来た。

アイスティーとクッキーが2人分。

「ああ、お金は僕が払うから」

「そういうのは言わないのが格好いいよ」

その言葉に苦笑いしつつ、アズリエルは別の話を始める。

「此処から電車で30分の場所に水族館が出来たんだ」

「水族館?」

「もし、余裕があるなら一緒に行かないか?」

「アズ兄から誘ってくるなんて珍しいね」

「嫌なら此処で解散しよう」

「嫌なわけないよ。それに代価、まだだし」

代価、という言葉にアズリエルはクッキーに伸ばした手を止めた。

それはほんの一瞬だったが、ケイはすかさず、

「アズ兄って初心だよね」

といった。