Feathery Instrument

Fine Lagusaz

第七章「王都インフェリア」

「ここが王都インフェリアかぁ」

レイルが門を見上げながらいった。

「やっぱり賑やかな街ね」 「光と影の交差する街・・・」

一人だけ違う反応を示すタナトス。 やはり表情は見えない。 なぜか街の近くでフードを被ってしまい顔を隠したのだ。

「表は賑やかなだけど裏は裏で危ないようね」 「やっぱりそんなものかなぁ」

レイルはウィルの言葉に頷く。 門番がちらっとこちらを見ていた。 門をくぐったところところで声をかけられた。

「おい、そこのフード被ってる奴」 「・・・なんだ?」 「ちょっと面を見せろ」 「何故その必要がある・・・」

門番はタナトスに近寄り乱暴な手つきでフードをとった。 そんな門番をタナトス冷たく見つめている。 深い青い瞳が門番の顔を捕らえる。

「な、いや、すまん。勘違いしたようだ」 「・・・ならいい」

そんなやりとりの後、中に入った。 気持ちのいい青空だ。 青空には雲一つ無い。

「道具と食料調達しないと」 「わたしは何処かでご飯食べたい」 「先に・・・道具を買おう」

タナトスの一言で道具屋によることになった。

「まとめ買いは基本ね」

旅馴れしているウィルが仕切っていた。 慣れないレイルは戸惑うばかりだ。 一歩後ろからタナトスは離れて眺めている。

「とこれでよろしくね」 「合計は1500フォルです」 「はい」 「ありがとうございました」

適当に何か食べられそうな店を探す。 タナトスの

『計画性が無い・・・』

の一言によりとある店まで誘導されてしまう。

「スパゲッティ屋・・・?」

レイルがタナトスに尋ねた。

「そうだ・・・ここのミートソースは最高で・・・」 「それじゃ入ろうか」

ウィルに背中を押されるような形で店に入った。 適当に空いている席に座ると注文する。 レイルがカルボナーラ。 ウィルがたらこ。 タナトスがミートソース。 意外な注文にやはり驚く二人をよそ目に黙々と食べていた。

そんな三人を遠くから監視する人影が複数。

『おい、あんな子供が王の暗殺を企てているのか?』 『隊長の命令なんだから仕方ないだろ』 『俺、抵抗あるな』 『だったらこの隊やめろや』 『職業ないんだからやるしかない』 『奴らが宿屋に入ったところで仕掛けるぞ』 『了解』『へいへい』

――インフェリア第12監視部隊。 ほぼ組織の末端、寄せ集めの部隊で元犯罪者など問題の多い部隊。 七年前にあった謎の一家虐殺事件の犯人とまでされていた。 見えない手はすべての流れを変えていく。 逆らうことの許されないそれは静かにそして確実にすべてを包み込んで・・・。

「やっと宿屋についた」 「疲れを癒さないとね」

部屋に入り重くなった荷物を下ろし疲れを吐き出すかのごとく言った。

「・・・早めに寝ておいた方が良さそうだ」 「なんかあるの?」 「嫌な予感がする・・・体力を極力回復するんだ」 「ちょっと早いけど寝よう」

タナトスの強い口調に押され早々、ベッドに倒れ込むレイル。 隣のベッドにウィルも倒れる。 その隣にタナトスが・・・座った。

「あの・・・連中か」

小さな呪うような呟きは二人の耳に届かなかった。 それから数時間。 結局、何も起こらず夕飯の時間になった。

「何も起こらなかったわね」 「・・・」 「でも何か嫌な予感がするのはするかな」 「うわ、レイルまで・・・。わたしもしてきそう」

運ばれてきた食事を口に運ぶが味がしない。 食べた気がしない。 今度は寝ずに座っていた。 時計の針の音だけが室内に響く。 荷物を足元においていつでも移動できる準備。 扉の向こうで宿屋の主人とのやり取りが聞こえてきた。 静かに立ち上がり武器を構える。 変わらない・・・。 沈黙を保ったペンダント(にした水の種)を見る。

「はぁ、それなら仕方ないですね。騒ぎは起こさないでくださいよ」 「つべこべうるさい奴だな」

ごすっと不快なにぶい音がして静かになった。

「とりあえず、だまらしたか」 「無傷、だよな」 「無駄にぶっ殺してどうする。あのときと違うん・・・」 「馬鹿野郎、言うな」

数秒の間がした後、扉が勢いよく開き剣を構えた男たちが入ってきた。

「貴様らは王暗殺の謀反を企てた罪で処刑するっ!!」 「いきなり何かしら」

ウィルが一歩前にでて兵士達を牽制する。

「問答無用でね」

ウィルの問いを無視し斬りかかろうとした瞬間、剣は光の砂になって部屋に舞った。 振り下ろした剣が弾かれる。

「やはりその実力、間違いないな」

再度剣を構える男たちの後ろに黒い人影。 扉に寄りかかりいった。

「お前らが・・・あの時の・・・一家虐殺事件で・・・無抵抗の母親と父親、そして娘を殺したのか?」 「何いってんだ、こいつ」 「ああ、あの会話を聞かれたか。俺らがやったんだよ」 「・・・贖罪しろ・・・」 「はっ?小さくて聞こえねぇな」 「だったら・・・身をもって感じ取れ・・・」

鋭い目付きで男たちを見据えると詠唱を始めた。

「こ、こんなところで晶霊術なんか」

詠唱を止めさせようと斬りかかる男をかわし詠唱を続ける。 レイルとウィルにも斬りかかろうとするが盾が邪魔で動けない。

「お前らに・・・あの苦しみを・・・あの罪を・・・償ってもらう」 「ぼ、僕は・・・」

同じインフェリア兵の鎧を身に付けた兵士が後ろで震えていた。 剣も握っていなかった。

「お前は・・・違う・・・その倒れているのを連れて行け・・・」

返事することもなく一目散に逃げ出す兵士。 宿屋の主人を抱えて。

「くそ、新米の馬鹿が」 「関係無いだろう・・・あの事件とは・・・」

水の壁の向こうで何もできずにその光景を見つめている二人。

「闇の晶霊たちよ。愚かな者たちを漆黒の果てに閉じ込めろ・・・『闇への誘い』・・・」

兵士達の中心に黒い歪みが生まれてきた。

「な、なんなんだ?!」

音もなく影に飲み込まれて行く仲間を助けようと手を掴むが影に引きずり込まれて行く。 「うわ、死にたくない」 「ぎゃー」 「死は・・・藻掻き苦しみ生きることで・・・償えっ!」

闇に食われていく兵士達を冷たい瞳で見つめるタナトス。 呆然と見つめる二人。 闇が去ると何事もなかったように静かになった。 兵士が落として床に突き刺さった剣がそのことを現実と物語っていた。

「終わった・・・これで・・・」

シールドが消えると倒れそうになったタナトス支えるウィル。 細い体は恐ろしいほど重かった。 意識の無くした体の重さだ。

「・・・」

結局、何もできなかった。 見ていることしかできなかった。 僕は・・・ 拳に力が入る。 どうして助けられなかったのだろう・・・ 人殺しの手伝いをしたようなものじゃないか。 レイルは自分を責めた。

――インフェリア城、第12監視部隊作戦室。

「あいつら、死んだようだな」 「ああ」 「あいつらを囮に王とアレンデを暗殺・・・こいつの能力は大したもんだ」

後ろを指さしながらいった。 手錠がつけられ鎖で椅子に固定されていた。 白く長い髪の毛が垂れている。 白で構成された衣服。 力無く椅子に座っていた。

「物事を予知する能力か。大晶霊も都合のいい能力を人に授けたもんだ」 「よりによってこんな人間を追放した教会もばかな連中だ」

「セイファートリングの崩壊などの一件で教会の勢力もいくつもに分散されている。まして追放した人間などどうなろうと把握はできまい」

王都から離れた森の中。

「ここまで来れば大丈夫」

宿屋から飛び出しここまで逃げてきたのだ。 ウィルの背中からタナトスを降ろす。 まだ目を覚まさない。 古く分厚そうな本をカバンから取り出し読み出すレイル。 意識を回復させる晶霊術は・・・あった。 これだ。 でも詠唱できない。 何処まで力不足なんだ、僕は。 またカバンを漁り今度は薬草を取り出す。

「最初から使えばよかったかな」 「何それ」

「眠気覚ましと疲労回復効果のある薬草。兄さんの配合したものだから名前はさっぱり」 「大丈夫なの、それ」 「恐らく」

それから十分ほどしてから彼は目覚めた。

「・・・おはよ」 「・・・おはよう、というよりなんていうのかしら」 「良かった、無事だったんだ」

身体をゆっくり起こし周りを見回し

「ここは何処だ」

と二人に尋ねた。

「王都から少し離れたところだよ」 「しばらくしたら移動した方が良いわね」 「すまない・・・俺のせいだな・・・」

「たまたま相手が一緒だっただけだよ・・・どのみち僕らは追われることになっていたんだ」 「でもどうしてこうなったのかしら?」 「どうしてだろう?」

いくら悩んでも答えは出てこなかった。 レイルはタナトスの過去と関係があると思った。 家族を殺された、その復讐の為に“彼ら”を“殺した”ただそれだけのことだ。 それでも何故、王暗殺という罪を着せられたのかはわからない。 何かが裏で動いている・・・そんな気がしていた。 それぞれの不安に包まれながら夜は過ぎていった。

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