Feathery Instrument

Fine Lagusaz

第十五章「灼熱を越えて」

バロールの宿。 道具の補充とむだに休息するために泊まっていた。 「あー、直った」 ケイはドライバーを置いた。 いくらなんでもこんなきついとはな・・・・。 しかし興味深い構造だ。 テストも兼ねてやってみるか。 『ロエンだ』 「ケイだ」 テストのつもりだったんだが仕方ないか。 『遅いっ!!』 「ぐぁ、そう叫ぶな」 『遅いのは遅いっ。でどうだったんだ』 ロエンの大声に耳を抑えながら話を続ける。 「まったく情報無し。それからセイという女の子が合流したぞ」 『通信機壊したのは貴様か』 「人聞きの悪いことを言うな、俺は興味を持って分解しただけだ」 自作のものと構造が違ったしな。

『一体、どこの誰だ。機械は任せろといっていたのは。揚げ句、風晶霊の空洞へ寄り道か』 「げ、ばれてたか」

『当たり前だ。次はシャンバールの近くの火晶霊の谷へ行って炎奏石を拾ってくれ』 「・・・・そんな酷なことは無いでしょう」 『ほかの連中によろしく言っておいてくれ。頑張れよ』 「了解」 そして通信が切れた。 その時、ロエンとケイが同時にため息をついたことは互いに気づいていない。

「ということで灼熱の街シャンバール行くことになった」 先のやりとりを話す。 「あの街へ行くの?」 「もしかしてウィルは行ったことが?」 「行ったことがはないけどね。話に聞いたことがあるのよ」 なんでも黒い屋根では目玉焼きが作れるそうだ。 とんでもない暑さであることは容易に想像できる。 「暑いの嫌いなんだけど」 レイルが嘆く。 「モルルは比較的涼しかったからな。俺は不安だ」 「確かに暑いけど湿度は低いから気持ち良く汗がかけるわよ」 「服は少し変えた方が良いかも知れませんね」 フィールの服は飾り気のないドレスだ。 この服だと暑いかもしれない。 スカート経験は無いからわからないけど。 でも僕も厳しいかも。 自分の服も長ズボンにTシャツ、その上から長袖の服だ。 さすがにこれでは厳しいかもしれない。 「・・・・大丈夫、だろう」 「セイは大丈夫」 「おぉ、ここでもカップリング成立か」

音も無く二人が振り向き-普通、音はしないが-冷たい瞳と能面のような表情でケイを見る。 睨んではいない。 下手に感情がこもっていないだけ怖い。 オマエら、最強だよ。 恐らく。

「エアリアルボード・・・・えっと」 はいどうぞと渡されて晶霊術が扱えるようになれば苦労しない。 呪文は・・・・! 頭の中に言葉が浮かび上がってくる。 そのことに驚きシルフに感謝した。

今は海の上にいる。 「身体、耐えられるか」 「大丈夫だよ、兄さん。そんなにやわじゃない」 「心強い限りだな。ま、無理はするなよ」 また潮風に吹かれながら海面を滑るように進む。 完全に飛んでいるわけではなく滑るという表現が近いようだ。 ケイはかりかりと風奏石と格闘していた。 クレーメルコンピュータに組むつもりらしい。 何故か糸を垂らしているタナトスとセイ。 フィールの膝の上で寝てしまっているウィル。 そんなウィルをかわいいなんて思うレイルだった。 きらきら輝く波がいつの間にか赤く夕日を映しだしていた。 結局、近くの島へ寄ることになった。 人のいない島で一夜を明かしまた進む。 シャンバールが近づくにつれて気温があがってきた。 ゆらゆら揺れる蜃気楼のような街が見える。 蜃気楼ではなく本物であることがわかるのに時間はかからなかった。

暑い、心の中で全員が言った。 「うお~、あっちぃ」 「兄さん、キャラ壊れてるよ」 横で叫んでいるケイに突っ込む。 「・・・・暑い」 額に汗を浮かばせている彼は本当に暑そうだ。 セイも顔には出していないが少しふらついている。 「確かにここは暑いですね。汗をかきたい人が集まるのもわかります」 「フィールさんは大丈夫なんだ」 「この程度は大丈夫です」 涼しい顔をして言うフィールをうらやましく思うレイル。 「なぁ、何処か店に入ろうぜ。このままだと脱水症状か熱射病で全滅だ」 宿屋になだれ込み日差しをしのぐ。 建物に工夫がされているらしく驚くほど涼しかった。 風を上手くつかっているようだ。 ケイは壁に耳を当てて何か聞いている。 ほかは適当にいすやベッドに腰を下ろしていた。 そしてケイは壁を軽くとんとんと叩いた。 「こんなか水が流れているな。水冷式の家屋か」 クレーメルコンピュータのキーボードを叩く(?) 何かのデータベースでも作っているのだろうか。 「だから室内は涼しいのですね」 「さすがに家の中まで暑かったら、ね」 二人で見合わせ苦笑していた。 「涼しいモルルがなつかしいよ」 「セレスティアも・・・・涼しいらしい」 タナトスが本で読んだ知識のようだ。 「棲んでいる晶霊の違いにより平均気温はインフェリアより数度低い」

「さすがは光晶霊技術部の人間だな。何だかんだ言いつつ王国もしっかり調べているんだなぁ」 感心したケイの言葉を打ち消すようにセイは言った。 「これはミンツ大学の学士キール・ツァイベルによるレポート」 ケイはセイの顔を見た。

「インフェリアは何もしていない。事実はセイファート教会によって歪められていた」 フィールはセイの言葉を何処か悲しそうに聞いていた。

「岩が溶けてるよ」 「火傷・・・・ではすまないわね」 なんとかたどり着いた火晶霊の谷。 街以上の熱さに思わず後退りする。 「熱ければ冷やせば良いのではないでしょうか」 「それだ、フィールさん。水奏石があったんだ」 青い石を手に取る。 でもなんて言えば良いのかな・・・・。 数秒悩み思った言葉をつないだ。 「この場に棲む水晶霊たちよ。我に力を貸したまえ」 青い光が辺りを照らした。 その光と共に熱がひいていく。 「本当に干渉できるとはな」 「でもシルフのときもあまり使えなかったから今もそうだと思う」 「ああ、先を急ごう」

そんな行く手を阻むモンスターたちを圧倒的な力で葬り去りながら灼熱の洞窟のなかを急いだ。 「人数増えたから戦闘は楽だな」 ケイの言う通りなのだが一番活躍しているのはフィールだった。 シルフの言葉が大分応えたらしく本気を出しているらしい。 レイルは水奏石で温度を下げることしかしていない。 フィールは時間のかかるであろう上級晶霊術をものの数秒で唱えている。 天使の姿をした悪魔、そんなことをふと思ってしまうレイルだった。 開けた場所に出る。 ちょうど溶岩の上に突出した岩に立っているようだ。 「ここにいるのかな」 額の汗を拭う。 「間違いなくいるわ」 「だろうな」 突然、炎の柱をまとった赤い巨人が姿を現した。 「大きな標的。ためし撃ちにはちょうどいい」 セイの言葉に炎の大晶霊イフリートは怒りをあらわにする。 炎の拳がレイルたちに迫る。 「スプレッド」 レイルの放つ青い柱にイフリートが接触する。 白い水蒸気が立ちのぼる。 ダメージを受けた様子も見せず拳を振り下ろす。 次の詠唱にはいっていたレイルは動けなかった。 「レイル、逃げろっ」 灼熱の拳がレイルを襲う。 「我に逆らう愚かな者たちを青の彼方へ封じ込めよ。ブルースフィアっ」 拳が青い壁に閉ざされる。 「ふん、こんな壁・・・」 力づくで突き抜けようとするが拳は白い煙をあげるだけで貫通しない。 「出でよ。神の雷インディグネイション」 フィールのインディグネイションがイフリートを襲う。 爆風に圧されながら連続攻撃が続く。 「あの球体は貫通するのかっ!?」 「うん、僕らの攻撃は通すよ。だけど長くはもたないから・・・・早く」 「・・・・ブラッティハウリング」 不気味な暗闇が広がる。 タナトスの晶霊術だった。 闇がはれるとウィルの一次元刀がイフリートの身体を切り裂いていた。 「この程度では俺は倒せんっ」 「ええっ、これだけ斬ったのに」 次の瞬間にはセイの光線がイフリートを貫く。 連続でたたき込まれイフリートは苦しそうな表情になる。

突然、イフリートの目の前から青い壁が消え去りイフリートは反撃しはじめた。 その時だ。 「人柱になってくれ」 場違いな台詞はケイの声だ。

ケイの手から離れた何かがイフリートに飛んで行き青い光を伴いながら炸裂した。 爆発音ではなく水をぶちまけるような音だ。 「うわおおっ」 「どうだ。対消滅晶霊爆弾の威力は」 誰の目から見てもイフリートに力は残っていないように見える。 「まだだ」 「やめた方が良いよ」 戦い続けようとするイフリートが動きを止める。 その場にいたみんなが止まった。 時が凍りついたように。 手には青い剣が握られている。 「これは水奏石の剣。剣の技術が未熟な僕でもあなたを倒せる」 悔しそうな表情になり、そして・・・・ 「俺の負けだ」

その本当に負けたという悔しさのようなものが声に含まれていて勝ったという気にはなれなかった。 「炎奏石はお前らにくれてやるぜ。好きなように使え」 レイルに炎奏石を渡すと溶けた岩に消えていった。 「すごいわね、レイル」 「あ、ありが・・・・とう」 そのまま崩れるように倒れてしまった。 「れ、レイル?」 抱き起こすとケイが肩を貸してくる。 「まずいな、早く移動するぞ」 キャンプできそうな場所にたどり着きレイルを横にした。 フィールの回復晶霊術がかかる。 「全く、手間かかせやがって」 「あれだけ・・・・精神力を消耗したんだ・・・・当たり前だ」 「ああ、そんなことはわかっているさ」 ケイはタナトスに少しむっとした顔をして答えた。 「うう・・・・・」 「れ、レイル、大丈夫!?」 いきなり抱き着かれ状況がよめずおろおろしている。 「ウィル・・・く、苦しいよ」 「あ、ごめん」 目尻の涙を指で払いながら言った。 「また心配かけちゃったかな」 「当たり前だろっ」 ケイに笑いながら小突かれる。 「その通りだ・・・」 「良かったです」 「フィールさん、ありがとう」 「それは皆さんに言ってください」 「うん、ありがとう」 僕にはこれくらいしかできない。 もっと先に進まなきゃ。 焦りのような曇りがレイルの心を覆い始めていた。

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