『白のモノリス』 をテンプレートにして作成
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[[DAYS]]
宇宙人だとか宇宙生物だとか、そういう存在が地球を破壊しき...
そして、生き残りを賭けた戦いに挑み、勝つか負けるかする。
そういう物語は多い。
物語の中のことだが現実でも人類は戦うことになるだろう、そ...
実際は派手な戦いなど起こらなかった。
ある日、隣人が、友人が、同僚が、家族が"向こう側"について...
見た目や行動に何か大きな変化が起こるわけではない。
うめき声をあげながら人肉を喰らうとか、凶暴化するとか、腹...
わずかに行動が変化する。
相手に対する警戒が薄れ、信用するようになる。
公平に振る舞おうとするようになる。
身体には脳の表面を菌類のようなものが覆うという変化が起き...
思考に作用しているとはわかったが、生死には直結しないもの...
これを無害というべきかは意見が別れた。
寄生虫や細菌によって宿主の行動が変わることはよくある話で...
体内に別の生物が棲みつき共生し、やがて体の一部として振る...
脳にいつどのように同居人がやってくるかはわからない中、感...
感染経路は不明だったが、一緒にいるから感染するわけではな...
それが救いだと思う人物もいれば、ある日突然自分が化物に乗...
友人同士でも意見がわかれ、Webでも激論が繰り広げられていた。
が、それも最初の1ヶ月だけだった。
半年も経てば話題も落ち着いてしまった。
よくわからないけど、平和になったからいいのだ、という恐る...
そんな人類だったがこの脳に現れる同居人の正体が宇宙人だと...
人類は宇宙生物に脳を間借りさせていたのだ、という事実は楽...
しかし、ここでも多くの人達は恐るべき適応能力を発揮し、そ...
一部からは効果のあるかどうかわからない精神薬よりずっと効...
宇宙生物だとわかってから2ヶ月が経った頃だ。
友人が件の宇宙生物を脳に招き入れた、とショートメッセージ...
今まではホットな話題の一つに過ぎなかったのにいきなり身近...
それは本当か、と返事をするとそうだ。
そして、確かめてみるか、と。
返事も出さずに俺は彼の家に向かった。
彼の家に辿り着いた。
歩いて10分、大した距離ではないがもっと歩いた気がする。
ドアを開けて化け物が出てきたらどうするか、バールでももっ...
そして、呼び鈴を押した。
呼び鈴を押すとすぐに彼が出てきた。
いつもの良く知った顔だ。
顔色もよいし「はやかったな」という声もはっきりとしていた。
「同意しない限りは入ったりはしない、大丈夫だ」
「何がだ」
「これさ」
そういって彼は自分のこめかみをとんとんと叩いた。
部屋に入るとダンボールが目についた。
引っ越しでもするのだろうか?
「使わないものを捨てたり譲ったりするんだ」と彼。
「鋭いな」
「興味ありそうな目をしてた」
「お前、変わったな」
「同居人、万々歳だ」と彼は再び、こめかみのあたりを軽く叩...
まるでノックしているようだった。
「食欲落ちたりしてないか?」
「いつも通りさ。ああ、料理に凝るようにはなったな」
「それも同居人の力か」
彼は苦笑して、そうかもしれない、と続けた。
「誰かと一緒だと思うとしゃんとしないといけない、と思うだ...
「息苦しくはないか、それ」
「そうでもないよ」
そうだなぁ、と彼は腕を組んで、
「あれだ。神様が見ているからしっかりしようって感じだ」
脳の中の宇宙人は信仰心をも与えるらしい。
「ああ、適当に座ってくれよ。何か飲むか?」
「アイスコーヒー」
「はいよ」
「しかし、本当に招いたのか?」
「うん。医者にも診てもらったよ」
彼は冷蔵庫の扉に磁石で止めてあった封筒から写真を取り出し...
レントゲン写真だ。
「正常な人の写真がこれ。僕のはこれ。影が濃いだろう?」
言われてみればわかる程度には影が濃い。
これが彼の神様か。
「写真を撮ったということは今さっき、ではないのだな」
「2ヶ月ぐらい前だよ」
2ヶ月前といえば宇宙由来の生物だとわかった頃だ。
「あの騒動の中、よく決心がついたな」
「興味本位だよ。宇宙人、来ないかな、と思っていたら頭のな...
「勧誘か?」
「僕が聞いた限りじゃ一番、穏やかな勧誘だったよ」と彼は笑...
「あなたのぼんやりとした悩みを解決してあげる、そう聞こえ...
「胡散臭いぞ」
「まぁね。あなたが巷で有名な宇宙人ですか、と聞いたらそう...
「まさか、本当に興味本位だったのか」
「興味本位だよ。さすがに対価は聞いたけども。こんな世の中...
「対価はなんだ?」
「記憶だよ」
「記憶!?」
彼は右手をひらひらさせて、
「まぁ、落ち着いてよ。別に忘れるわけじゃあない。日記を覗...
「誰が保証するんだ」
「まぁ、それもそうだけど、もともと、ブログとかは書いてた...
ああ、こいつはそういう奴だったな、と俺は深く息を吐いた。
「女の子の声だったから彼女としよう。彼女は脳にかかる過剰...
「よくわからん取引だな」
「彼女はヒトを理解したいそうなんだよ」
「ヒトを理解する、か。まわりくどい手段をとるな。それも胡...
「相変わらず、疑り深いなぁ、君は」
「お前が脳天気なだけだ。この会話だって筒抜けかもしれない...
「敵じゃないんだから、そこまでいわなくても。ほら、コーヒ...
「ありがと。ココアの方が良かったかもな」
「コーヒーだとテンションあがるからね」
「そうだよ。ま、いただくがな」
思ったよりも苦くない。
半分ぐらいまで飲んで一息つく。
「それで今、お前の頭の中には風変わりな少女が住み着いてい...
「まるでラノベだね」と彼は本棚に目をやる。
カバーがかかっていて作品まではわからない。
「ああ、前言撤回だ。こんな調子じゃ、テンションあげないと...
「それならお酒じゃない?」
「ロシア人じゃあるまいし。……いつも通りそうで何よりだ」
「話が変わったね。まぁ、いつも通りさ。さほど、変わっちゃ...
「さほどか」
「先も言ったけど、神様が見ているからきちんとしようって意...
自由意志でそうしていると思い込ませているのでは、と思いつ...
「そうだね、少し建設的になったよ」
建設的か、と俺は彼の言葉を呟く。
「もしかすると、大きな一歩かもしれない」と彼は笑った。
「そうそう、件の宇宙人さんの住所を知っている。興味がある...
「超展開だな」
「人生、驚きの連続だからね」
「これは理不尽に近いぞ」
俺の言葉に再び彼は笑った。
左手に紙に書かれた住所、右手にナビアプリを起動したスマー...
その間、約1時間。
俺はその宇宙人の正体についてたっぷりと思考をめぐらせてい...
目が黒で肌が灰色の小さいアレから口の中から口が出てくるア...
武器も何もないので行ったところで死ぬのがオチだ。
一番都合がいいのは美男美女タイプだが油断していると地球は...
映画の中だったら俺はMobだ。
開幕、死ぬかもしない、などと考えている間に駅に着いた。
ほかの客に混じって降車する。
そこは別に何の変哲もない住宅街だった。
ナビアプリにしたがって歩くと団地に辿り着いた。
団地と宇宙人の取り合わせがシュールだ。
「目的に到着しました。ナビを終了します」というナビアプリ...
大玄関ホールはロック機能つきで、中に入るには入居者の許可...
パネルにあるテンキーで部屋番号を叩き、呼び出しボタンを押...
スピーカーから返事はない。
視線を感じてそちらに目をやるとカメラと目があった。
ややあってからパネル横の扉が開いた。
入れ、ということか。
エレベーターに乗り目的のフロアに向かう。
落書きや傷はなく、手入れも行き届いている。
住民が大切に使っている証か、それとも大切に使わされている...
嫌な考えだ、と思っている間に目的のフロアに着いた。
エレベーターホールにある案内板で行き先を確認する。
まっすぐ廊下を歩くだけで目的の部屋に辿り着いてしまった。
扉を開けたらよくわからない化け物にとっ捕まえられてミンチ...
呼び鈴を押すとぴんぽーんと聞き慣れた電子音が鳴った。
インターホンから返事はない。代わりに鍵の開く音が聞こえ、...
これまた中に入れ、ということらしい。
しかし、待て、この扉は普通の開き戸だ。
なんで開いた?
中を覗くと明かりはついており、奥の居間まで見渡せた。
そして、それぞれの家が持つ匂いもした。
生活臭というものだ。
玄関には靴が2足、女の子が好んで履きそうな靴だ。
部屋を間違えたのではないか、と紙のメモに目を通すがこの部...
メモそのものが間違えている可能性もあるが……。
「お邪魔します」
人の記憶を欲しがる宇宙人は挨拶を返してくれないらしい。
まったく、けしからんやつだ。
靴を脱いで、向きから察するにお客様用であろうスリッパに履...
何かいる気配はするが猫でも犬でも鳥でも人間でもなさそうだ。
では、なんだろう。
居間に入って右手を見る。
ダイニングキッチンがあったが誰もいない。
左手を見る。
それが"居た"
それは板だった。
天井に届きそうなぐらいの高さの白い板。
「モノリスか」
想像が全部外れたが、下手な怪物より質が悪いものが出てきた。
よりにもよって進化の象徴とは何様だ。
よく見ると床から指1本分ぐらい浮いている。
また、奇っ怪な物が出てきた、と表面を眺めていると何か動い...
3表面が梨地になっているのだと思ったがどうやら違うらしい。
小さい細かな点が動いているのだ。
全体が見えるところまで離れて、瞬きを繰り返す。
何か文字が見えた。
「これが、件の宇宙人の本体?」
誰かの記憶が文章になって表面を高速で流れていくのだ。
本体なのにターミナルとはこれいかに。
「火星人、ゴーホーム」
「嫌よ」
即答だった。
「板が喋るのか。高性能だな」
「板に向かって平然と話しかけるヒト、初めて見たわ」
「スマートフォンが喋るご時世に何を言う」
「そうね」
会話は普通にできるようだ。
「ホールからの沈黙は演出か」
「そうよ。でも、無粋だわ」
宇宙人に無粋だと言われるとは思っていなかった。
これだけ準備してくれていたのだから、驚くなり、ひれ伏すな...
その点で確かに俺の反応は無粋だった。
「演出だというならもう少し話しやすい演出をしてくれ」
板と話すのは落ち着かない。
「スマートフォンが喋るご時世なのでしょう?」
「普通に話すなら人の形のほうがいい」
「どんな姿がお望みかしら?」
「普通に話せそうな姿で頼む」
モノリスの輪郭がぼやけ、人の形に変わっていく。
そして、モノリスは少女の姿になった。
陶磁器のように白い肌、窓から差す光に輝く白い髪、ドレスの...
何もかも見通すような鋭い光が宿っている。
ラノベ展開に俺は戸惑った。
「これでどう?」
「ありがとう。話しやすくて助かる」
「それで今日はどうしてここに?」
「友人が会ってこい、と。お前と取引をした奴だ」
「ああ、彼ね」
と少女は即答する。
「いろいろ、聞きたいことがある」
「そう」
否定でも肯定でもない一言、やりにくい。
「何か、飲む?」
「さっき、コーヒーを飲んだばかりだ。気持ちだけいただこう」
「お酒もあるわよ」
「酒はいい」
彼の記憶を覗いているらしい。
「さっきのやりとりを見たな」
「見たのではなく、教えてもらったのよ」
「教えてもらった?」
「そうね、テレパシーのようなものよ」
「問答無用で記憶を見るわけではないのか」
「相手が許可したものだけ見られるのよ。そうでないと困るで...
風呂やトイレの中まで見られていたのでは落ち着かない。
銀行の口座番号と暗証番号、利用しているサービスのIDやパス...
「ヒトの生活は知っているつもりよ。幾つかのパターンを経験...
「パターン? 輪廻でもしたか?」
「まさか。複数の体を用意して、それぞれ別の生き方をさせて...
まだ輪廻のほうが現実味があるぞ。
「それでは足りないのか?」
「足りないわ」
これまた少女は即答する。
「足りないから、多くの人にその、自分の一部を宿して、記憶...
「ええ、そうよ。わかってもらえて嬉しいわ」
「何がだ」
「寄生ではないということを」
言葉を選んだのがばれた。
「記憶をもらう代わりに異常なストレスを打ち消す、そういう...
「ストレスを打ち消す、か」
あいつもそんなことを言っていたがにわかには信じがたい。
「異常なストレスに晒されたら、正常な範囲まで戻してあげる...
腕組みをして少女を見る。衝動が抑えられるのだとしたら、悪...
特にネガティブな衝動が止められるのであれば助かる人間も多...
目の付け所が良い。
「ううむ」
それなら多くのパターンがわかるだろうが、また周りくどいこ...
だいたい、脳に送り込んでいる時点で抵抗を覚える。
「いい方法だと思ったけれど、ヒトは選ぶわね」
少女は目を閉じて静かに息を吐いた。
「人を操ったりは、しないのか」
「しないわ。面倒だもの」
「面倒?」
「そんなことをして何が得られるというの?」
「地球征服とか」
「地球人類を征服したところでこの星は手に入らないわ。それ...
「人を操るつもりはないのだな」
「ストレス以外は見てるだけよ」
あくまでも副作用のない抗ストレス薬に徹しているというわけ...
「聞きたいことはそれだけ?」
「どうして、地球に来た?」
「住処を地球人に奪われたから」
少女の答えに俺は体を固くした。
これはまずい。
「別に復讐とかは考えてないから。こうやって住めているのに...
少女の声はあくまでも穏やかだった。
すまないことをした、とここで謝ると地球人類を代表したこと...
「気にすることはないわ」
とさらりと言われた。
掴めそうで掴めない。
何度も同じようなやりとりをしているのかもしれない。
「普通に話す以外の方法でも、コミュニケーションができると...
と少女は笑う。
彼女にとって相手の体の一部になったり、テレパシーで会話し...
「まだ、何か、考えているのか?」
「今は何も。もう少し、ヒトに何かしてあげられたら、とは思...
少女の表情が変わった。
「わかった。いきなりお邪魔したのにすまなかった」
「話ができてよかったわ」
少女に見送られて俺は部屋をあとにした。
寂しそうな笑顔が瞼から離れなかった。
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宇宙人だとか宇宙生物だとか、そういう存在が地球を破壊しき...
そして、生き残りを賭けた戦いに挑み、勝つか負けるかする。
そういう物語は多い。
物語の中のことだが現実でも人類は戦うことになるだろう、そ...
実際は派手な戦いなど起こらなかった。
ある日、隣人が、友人が、同僚が、家族が"向こう側"について...
見た目や行動に何か大きな変化が起こるわけではない。
うめき声をあげながら人肉を喰らうとか、凶暴化するとか、腹...
わずかに行動が変化する。
相手に対する警戒が薄れ、信用するようになる。
公平に振る舞おうとするようになる。
身体には脳の表面を菌類のようなものが覆うという変化が起き...
思考に作用しているとはわかったが、生死には直結しないもの...
これを無害というべきかは意見が別れた。
寄生虫や細菌によって宿主の行動が変わることはよくある話で...
体内に別の生物が棲みつき共生し、やがて体の一部として振る...
脳にいつどのように同居人がやってくるかはわからない中、感...
感染経路は不明だったが、一緒にいるから感染するわけではな...
それが救いだと思う人物もいれば、ある日突然自分が化物に乗...
友人同士でも意見がわかれ、Webでも激論が繰り広げられていた。
が、それも最初の1ヶ月だけだった。
半年も経てば話題も落ち着いてしまった。
よくわからないけど、平和になったからいいのだ、という恐る...
そんな人類だったがこの脳に現れる同居人の正体が宇宙人だと...
人類は宇宙生物に脳を間借りさせていたのだ、という事実は楽...
しかし、ここでも多くの人達は恐るべき適応能力を発揮し、そ...
一部からは効果のあるかどうかわからない精神薬よりずっと効...
宇宙生物だとわかってから2ヶ月が経った頃だ。
友人が件の宇宙生物を脳に招き入れた、とショートメッセージ...
今まではホットな話題の一つに過ぎなかったのにいきなり身近...
それは本当か、と返事をするとそうだ。
そして、確かめてみるか、と。
返事も出さずに俺は彼の家に向かった。
彼の家に辿り着いた。
歩いて10分、大した距離ではないがもっと歩いた気がする。
ドアを開けて化け物が出てきたらどうするか、バールでももっ...
そして、呼び鈴を押した。
呼び鈴を押すとすぐに彼が出てきた。
いつもの良く知った顔だ。
顔色もよいし「はやかったな」という声もはっきりとしていた。
「同意しない限りは入ったりはしない、大丈夫だ」
「何がだ」
「これさ」
そういって彼は自分のこめかみをとんとんと叩いた。
部屋に入るとダンボールが目についた。
引っ越しでもするのだろうか?
「使わないものを捨てたり譲ったりするんだ」と彼。
「鋭いな」
「興味ありそうな目をしてた」
「お前、変わったな」
「同居人、万々歳だ」と彼は再び、こめかみのあたりを軽く叩...
まるでノックしているようだった。
「食欲落ちたりしてないか?」
「いつも通りさ。ああ、料理に凝るようにはなったな」
「それも同居人の力か」
彼は苦笑して、そうかもしれない、と続けた。
「誰かと一緒だと思うとしゃんとしないといけない、と思うだ...
「息苦しくはないか、それ」
「そうでもないよ」
そうだなぁ、と彼は腕を組んで、
「あれだ。神様が見ているからしっかりしようって感じだ」
脳の中の宇宙人は信仰心をも与えるらしい。
「ああ、適当に座ってくれよ。何か飲むか?」
「アイスコーヒー」
「はいよ」
「しかし、本当に招いたのか?」
「うん。医者にも診てもらったよ」
彼は冷蔵庫の扉に磁石で止めてあった封筒から写真を取り出し...
レントゲン写真だ。
「正常な人の写真がこれ。僕のはこれ。影が濃いだろう?」
言われてみればわかる程度には影が濃い。
これが彼の神様か。
「写真を撮ったということは今さっき、ではないのだな」
「2ヶ月ぐらい前だよ」
2ヶ月前といえば宇宙由来の生物だとわかった頃だ。
「あの騒動の中、よく決心がついたな」
「興味本位だよ。宇宙人、来ないかな、と思っていたら頭のな...
「勧誘か?」
「僕が聞いた限りじゃ一番、穏やかな勧誘だったよ」と彼は笑...
「あなたのぼんやりとした悩みを解決してあげる、そう聞こえ...
「胡散臭いぞ」
「まぁね。あなたが巷で有名な宇宙人ですか、と聞いたらそう...
「まさか、本当に興味本位だったのか」
「興味本位だよ。さすがに対価は聞いたけども。こんな世の中...
「対価はなんだ?」
「記憶だよ」
「記憶!?」
彼は右手をひらひらさせて、
「まぁ、落ち着いてよ。別に忘れるわけじゃあない。日記を覗...
「誰が保証するんだ」
「まぁ、それもそうだけど、もともと、ブログとかは書いてた...
ああ、こいつはそういう奴だったな、と俺は深く息を吐いた。
「女の子の声だったから彼女としよう。彼女は脳にかかる過剰...
「よくわからん取引だな」
「彼女はヒトを理解したいそうなんだよ」
「ヒトを理解する、か。まわりくどい手段をとるな。それも胡...
「相変わらず、疑り深いなぁ、君は」
「お前が脳天気なだけだ。この会話だって筒抜けかもしれない...
「敵じゃないんだから、そこまでいわなくても。ほら、コーヒ...
「ありがと。ココアの方が良かったかもな」
「コーヒーだとテンションあがるからね」
「そうだよ。ま、いただくがな」
思ったよりも苦くない。
半分ぐらいまで飲んで一息つく。
「それで今、お前の頭の中には風変わりな少女が住み着いてい...
「まるでラノベだね」と彼は本棚に目をやる。
カバーがかかっていて作品まではわからない。
「ああ、前言撤回だ。こんな調子じゃ、テンションあげないと...
「それならお酒じゃない?」
「ロシア人じゃあるまいし。……いつも通りそうで何よりだ」
「話が変わったね。まぁ、いつも通りさ。さほど、変わっちゃ...
「さほどか」
「先も言ったけど、神様が見ているからきちんとしようって意...
自由意志でそうしていると思い込ませているのでは、と思いつ...
「そうだね、少し建設的になったよ」
建設的か、と俺は彼の言葉を呟く。
「もしかすると、大きな一歩かもしれない」と彼は笑った。
「そうそう、件の宇宙人さんの住所を知っている。興味がある...
「超展開だな」
「人生、驚きの連続だからね」
「これは理不尽に近いぞ」
俺の言葉に再び彼は笑った。
左手に紙に書かれた住所、右手にナビアプリを起動したスマー...
その間、約1時間。
俺はその宇宙人の正体についてたっぷりと思考をめぐらせてい...
目が黒で肌が灰色の小さいアレから口の中から口が出てくるア...
武器も何もないので行ったところで死ぬのがオチだ。
一番都合がいいのは美男美女タイプだが油断していると地球は...
映画の中だったら俺はMobだ。
開幕、死ぬかもしない、などと考えている間に駅に着いた。
ほかの客に混じって降車する。
そこは別に何の変哲もない住宅街だった。
ナビアプリにしたがって歩くと団地に辿り着いた。
団地と宇宙人の取り合わせがシュールだ。
「目的に到着しました。ナビを終了します」というナビアプリ...
大玄関ホールはロック機能つきで、中に入るには入居者の許可...
パネルにあるテンキーで部屋番号を叩き、呼び出しボタンを押...
スピーカーから返事はない。
視線を感じてそちらに目をやるとカメラと目があった。
ややあってからパネル横の扉が開いた。
入れ、ということか。
エレベーターに乗り目的のフロアに向かう。
落書きや傷はなく、手入れも行き届いている。
住民が大切に使っている証か、それとも大切に使わされている...
嫌な考えだ、と思っている間に目的のフロアに着いた。
エレベーターホールにある案内板で行き先を確認する。
まっすぐ廊下を歩くだけで目的の部屋に辿り着いてしまった。
扉を開けたらよくわからない化け物にとっ捕まえられてミンチ...
呼び鈴を押すとぴんぽーんと聞き慣れた電子音が鳴った。
インターホンから返事はない。代わりに鍵の開く音が聞こえ、...
これまた中に入れ、ということらしい。
しかし、待て、この扉は普通の開き戸だ。
なんで開いた?
中を覗くと明かりはついており、奥の居間まで見渡せた。
そして、それぞれの家が持つ匂いもした。
生活臭というものだ。
玄関には靴が2足、女の子が好んで履きそうな靴だ。
部屋を間違えたのではないか、と紙のメモに目を通すがこの部...
メモそのものが間違えている可能性もあるが……。
「お邪魔します」
人の記憶を欲しがる宇宙人は挨拶を返してくれないらしい。
まったく、けしからんやつだ。
靴を脱いで、向きから察するにお客様用であろうスリッパに履...
何かいる気配はするが猫でも犬でも鳥でも人間でもなさそうだ。
では、なんだろう。
居間に入って右手を見る。
ダイニングキッチンがあったが誰もいない。
左手を見る。
それが"居た"
それは板だった。
天井に届きそうなぐらいの高さの白い板。
「モノリスか」
想像が全部外れたが、下手な怪物より質が悪いものが出てきた。
よりにもよって進化の象徴とは何様だ。
よく見ると床から指1本分ぐらい浮いている。
また、奇っ怪な物が出てきた、と表面を眺めていると何か動い...
3表面が梨地になっているのだと思ったがどうやら違うらしい。
小さい細かな点が動いているのだ。
全体が見えるところまで離れて、瞬きを繰り返す。
何か文字が見えた。
「これが、件の宇宙人の本体?」
誰かの記憶が文章になって表面を高速で流れていくのだ。
本体なのにターミナルとはこれいかに。
「火星人、ゴーホーム」
「嫌よ」
即答だった。
「板が喋るのか。高性能だな」
「板に向かって平然と話しかけるヒト、初めて見たわ」
「スマートフォンが喋るご時世に何を言う」
「そうね」
会話は普通にできるようだ。
「ホールからの沈黙は演出か」
「そうよ。でも、無粋だわ」
宇宙人に無粋だと言われるとは思っていなかった。
これだけ準備してくれていたのだから、驚くなり、ひれ伏すな...
その点で確かに俺の反応は無粋だった。
「演出だというならもう少し話しやすい演出をしてくれ」
板と話すのは落ち着かない。
「スマートフォンが喋るご時世なのでしょう?」
「普通に話すなら人の形のほうがいい」
「どんな姿がお望みかしら?」
「普通に話せそうな姿で頼む」
モノリスの輪郭がぼやけ、人の形に変わっていく。
そして、モノリスは少女の姿になった。
陶磁器のように白い肌、窓から差す光に輝く白い髪、ドレスの...
何もかも見通すような鋭い光が宿っている。
ラノベ展開に俺は戸惑った。
「これでどう?」
「ありがとう。話しやすくて助かる」
「それで今日はどうしてここに?」
「友人が会ってこい、と。お前と取引をした奴だ」
「ああ、彼ね」
と少女は即答する。
「いろいろ、聞きたいことがある」
「そう」
否定でも肯定でもない一言、やりにくい。
「何か、飲む?」
「さっき、コーヒーを飲んだばかりだ。気持ちだけいただこう」
「お酒もあるわよ」
「酒はいい」
彼の記憶を覗いているらしい。
「さっきのやりとりを見たな」
「見たのではなく、教えてもらったのよ」
「教えてもらった?」
「そうね、テレパシーのようなものよ」
「問答無用で記憶を見るわけではないのか」
「相手が許可したものだけ見られるのよ。そうでないと困るで...
風呂やトイレの中まで見られていたのでは落ち着かない。
銀行の口座番号と暗証番号、利用しているサービスのIDやパス...
「ヒトの生活は知っているつもりよ。幾つかのパターンを経験...
「パターン? 輪廻でもしたか?」
「まさか。複数の体を用意して、それぞれ別の生き方をさせて...
まだ輪廻のほうが現実味があるぞ。
「それでは足りないのか?」
「足りないわ」
これまた少女は即答する。
「足りないから、多くの人にその、自分の一部を宿して、記憶...
「ええ、そうよ。わかってもらえて嬉しいわ」
「何がだ」
「寄生ではないということを」
言葉を選んだのがばれた。
「記憶をもらう代わりに異常なストレスを打ち消す、そういう...
「ストレスを打ち消す、か」
あいつもそんなことを言っていたがにわかには信じがたい。
「異常なストレスに晒されたら、正常な範囲まで戻してあげる...
腕組みをして少女を見る。衝動が抑えられるのだとしたら、悪...
特にネガティブな衝動が止められるのであれば助かる人間も多...
目の付け所が良い。
「ううむ」
それなら多くのパターンがわかるだろうが、また周りくどいこ...
だいたい、脳に送り込んでいる時点で抵抗を覚える。
「いい方法だと思ったけれど、ヒトは選ぶわね」
少女は目を閉じて静かに息を吐いた。
「人を操ったりは、しないのか」
「しないわ。面倒だもの」
「面倒?」
「そんなことをして何が得られるというの?」
「地球征服とか」
「地球人類を征服したところでこの星は手に入らないわ。それ...
「人を操るつもりはないのだな」
「ストレス以外は見てるだけよ」
あくまでも副作用のない抗ストレス薬に徹しているというわけ...
「聞きたいことはそれだけ?」
「どうして、地球に来た?」
「住処を地球人に奪われたから」
少女の答えに俺は体を固くした。
これはまずい。
「別に復讐とかは考えてないから。こうやって住めているのに...
少女の声はあくまでも穏やかだった。
すまないことをした、とここで謝ると地球人類を代表したこと...
「気にすることはないわ」
とさらりと言われた。
掴めそうで掴めない。
何度も同じようなやりとりをしているのかもしれない。
「普通に話す以外の方法でも、コミュニケーションができると...
と少女は笑う。
彼女にとって相手の体の一部になったり、テレパシーで会話し...
「まだ、何か、考えているのか?」
「今は何も。もう少し、ヒトに何かしてあげられたら、とは思...
少女の表情が変わった。
「わかった。いきなりお邪魔したのにすまなかった」
「話ができてよかったわ」
少女に見送られて俺は部屋をあとにした。
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