#author("2018-06-15T23:40:12+09:00","default:sesuna","sesuna")
[[DAYS]]

少女の金の髪を風が揺らす。
足元は鏡のように空を映している。
水のようにも見えるが彼女の足は沈むことなく、鏡面に立っていた。
何処にも光源らしいものは見当たらないが辺は昼間のように明るい。
しかし、足下には影らしい影は無い。
文字通りの鏡だ。
この風景もいつも話している人間に話せば非日常、いつも話している科に話せば日常のものだろう。
ただし、自ら望んで赴いたのなら。
空はただ青く雲一つ無い。
美しい青なのに今は不安を呼びそうな空。
足元の感覚を無視したら、自分がどこにいるかもわからなくなりそうだ。
あわい感覚を信じながら少女は歩き始める。
迷い込んだこの場から抜けるために。


しばらく歩いて少女は鏡面に腰を下ろした。
かなりの距離を歩いたはずだが、景色も状況も変わっていない。
変わったとしたら、
感覚的には二日ぐらいは歩いている。
客観時間でも同じぐらいだろうか。
客観時間を気にするのは外に知り合いがいるからだ。
己の目的を達成したら最初に視ることになる人物。
そこに思考が至ると少女は勢い良く立ち上がった。
なぜ、あんなセクハラ野郎がこの場で出てくるのか。
いつも呼び出しては胸や足を触ったりした上で頭を優しく撫でてくる。
その先は独りでも思い出せなかった。
恥ずかしいから。
……顔、真っ赤だよね。
鏡面に視線を落とせば真っ赤な顔と目があった。
目が合うと相手は少し、困ったような笑みに変わる。
その知り合いの前でもいつもこんな顔を見せていたのかもしれない。
そう苦笑する顔に影が降ってきた。
少女の影が出るようになったわけではなさそうだ。
前と後ろに伸びているのは相手が横になっているからだろう。
影が揺らいでいるのではっきりとした輪郭はわからない。
空を見ても影の主は見当たらない。
そこにあるのは青い空だけだが、そこに相手はいると少女は確信した。
すると影がゆっくりと動き出した。
まるで道を案内するかのように。
そして、少女は影を追い掛けはじめた。
こちらが速度を上げれば影も速くなり、落とせば影も合わせて落とした。
最初から申し合わせていたかのように。
いつしか少女は影の主と一緒に全力疾走。
もう大丈夫、そう思うと同時に視界が一変した。


空から落ちる影を辿って外に出る。