#author("2018-01-21T23:46:59+09:00","default:sesuna","sesuna")
[[DAYS]]

「その様子だと、ろくに食べてないでしょう?」
「あ、ああ、ここどれぐらいだったかな」
「冷蔵庫の中が空っぽ。ゴミ箱は膨れ上がってる」
「そうだ、コンビニ弁当で済ませてたんだった」
今日も軽く済ませるつもりで栄養入りのゼリーを買って来ていた。
「ちゃんと、食べないとダメよ」
と、カシスは台所に向かうとなれた手つきでエプロンをつけて、料理の支度を始めた。
「冷蔵庫、空なのに?」
「別にここの冷蔵庫が空でもうちの冷蔵庫にあればいいの」
そういうと彼女は虚空に手を突っ込み、豚バラ肉を取り出した。
「どこの英雄王だ」
「ただの宇宙怪獣よ。フレンドリーな」
フライパンを熱して、油を伸ばし、そこに肉を入れる。
焼ける匂いと音が台所から溢れ、俺の脳のスイッチを押した。
そうだ、俺は腹が減っていたのだ。
ちゃんとしたものが食べたい。
「お腹、鳴ってるわよ」
「まじで」
「うそよ。でも、鳴りそうでしょう?」
フライパンから目を離さずに彼女は続ける。
きっと、微笑んでいるのだろう。
いつものあの毒舌は何処へやら、だ。
「大抵のことはご飯食べて、しっかり眠れば落ち着くものなのよ」
「まぁ、そうだな。先に風呂に入って来ていいか?」
「わかしておいたから」
「悪い」
「感謝の言葉しか受け付けないわよ」
「ありがとう」
「ゆっくり浸かって来なさい」
湯船に浸かったの久しぶりだと、体の力を抜きながら気がついた。
今までシャワーで軽く済ませていた。
シャワーはちゃんと、温水だったろうか?
実は、ぬるいまま、あるいは冷たいままだったのではないか。
いやいや、まさかな、と考えながら風呂から上がる。
ダイニングキッチンに戻ると、焼肉と野菜サラダ、味噌汁、ご飯が並んでいた。
向かいの席でカシスはゆっくりと、お茶を飲んでいるようだった。
「ちょうどいいタイミングね」
「覗いていたのか?」
「覗かれたいの?」
「まさか」
席に座ると、焼肉のたれの香りが鼻をくすぐる。
いただきます、と箸を動かし始めるともう、止まらない。
食事の情報量に圧倒されている間に平らげてしまった。
うまい、感想はその一言で十分だった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「はぁ、助かる。生き返った」
「それは、良かったわ」
カシスは小首を傾げてから、
「彼女冥利につきる、というものかしら?」
俺はお茶でむせた。