『墓端会議』

 一本の短剣が地面に真っ直ぐ突き刺さり、刃が群青の空と白い雲を映していた。手前には名前と数字の刻まれた平らな石がおいてある。それが深瀬 蒼の墓だった。

「話した所で聞いてもらえませんよね」

 聞いてもらえないことをわかっているのに尋ねてしまった。本当はわかってないらしい、とアルギズは苦笑。

「あら、話してくれたら面白かったのに」

 後ろから飛んできた声に振り返ると、小柄な少女が立っていた。背中には白く小さな羽が見える。

「眠りを妨げるのもどうかと思いますし」

「そう思ってるなら、話しかけたりしないわよ」

「それも、そうですね」

 そこで途切れ、白い羽を持つ少女は、

「一年ぶりかしら」

「はい。お久しぶりです。カシスさん」

「あの時は思いっきり泣いていたわね、あなた」

「あ、あれは泣いていたのではなくて、雨に濡れていたんです」

「大切なヒトが死んでも泣かないなんて、アンドロイドに感情は無いのかしら?」

 言い返そうとするアルギズを遮って、カシスは言葉を続ける。

「泣くことは格好悪いことではないわよ。少なくとも、泣いたことを誤魔化すよりはね」

「……そういう言い方はずるいです」

「泣いたことを隠すあなたの方がずるくてせこいわ」

「……相変わらずですね」

 ため息混じりにアルギズは言った。

「あなたも相変わらずのようね」

 いたずらっぽい笑みを浮かべてカシスは返す。その笑みを微笑みに変えて、

「そういえば、向こうで就職が決まったそうね」

「はい。ちょっと、風変わりな会社に……ってどうして知ってるんですか?」

「向こうにも知り合いはいるわよ」

「身近なところにユダでもいるのでしょうか」

 まじめな顔で言うアルギズカシスはあきれた顔をして、

「私と話している時点で、他人のことを言えないわ」

カシスさんはどうするんですか?」

「そうね。特に考えてないわ」

「こちらに来るのも面白いですよ」

ハガラズと同じことを言うのね。彼の場合は行くと、だけど」

「もし、来るなら言って下さい。何かできると思いますから」

「自分の面倒は自分で見るわ。そうしないと、あのヒトに申し訳ないもの」

「そうですか……」

「他人を気にする前に自分のことを心配すると良いわ。時計をみなさい」

 言われてアルギズは時計を確認して、短く驚きの声を上げて、

「すみません。そろそろ行かないといけないので」

 背中に黒の羽を展開するアルギズを見て、カシスは数歩下がる。

「そう。気をつけてね」

「では、失礼します」

 言葉と共にアルギズは深く蒼い空に消えていく。残るのは彼女の起こした風と、なびく銀の髪を押さえる少女だけだ。