『浮上』 をテンプレートにして作成
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[[DAYS]]
*『浮上』 [#k541ecb2]
「浅間、彼女の精神構造体の歪み計を見たか?」
ベッドから起き上がると同時に上司兼相棒の中田が話しかけて...
意識が現実世界に浮き上がってきた影響で体に違和感を覚える。
これは、自分の体ではないぞ、と脳が叫び、いや、自分の脳で...
何度やってもこの感覚だけはなれそうにない。
黙れ、と脳と体に言い聞かせながら、
「いや、見てない。構造体そのものは無事だったが」
見たことのままを伝えると中田は、
「強度限界ぎりぎりだ。よく耐えてるよ」
と感心したように言った。
おれは首を横にゆっくりと振って、
「顕在構造物が全滅している。耐えてる、とは言えない」
中田は声に力を込めて、
「生きている限り、希望はある」
と言った。
それが彼の信念だった。
「可能性としてはそうだが、彼女がそう思うかは別だ」
彼は生きている限り、希望を見つけられる才能を持っている。
日陰で生きている方が心地よいと思う身としては、彼の明るさ...
「そうだな。何か飲むか?」
「珈琲がいい。熱いのを」
「夏だぞ」
そう言いながら中田はコーヒーポットに手を伸ばしていた。
「寒かったんだ。向こうは」
「そうか」
「海を見た。波もなければ浮いているものもない」
「空は、どうだった?」
「薄い雲が途切れることなく広がっていた。深度計がなかった...
「普通、どんな人間にも何かしら構造物があるはずだが」
健康な人間の精神であれば、精神の土台となる精神構造体の上...
精神構造体は深層意識、構造物は顕在意識の表現だ。
「機械にも記録が残っているだろう?」
「ああ、しっかり残っている。何かの見間違いでは、と思った...
「ブラックでいい」
「胃が荒れるぞ」
「刺激は強いほうが目が覚める」
「若さだな」
にたり、としながら中田は言った。
「おれとあんたは大して年が離れてないんだ。やめてくれ」
「そうだったな」
中田はおれより3つ年上だ。
二十歳過ぎの数年など、大した差ではないと言われるがおれに...
「レポートは今日中に書いて送る」
「短すぎやしないか。――熱いぞ」
「注文どおりだ――ありがとう」
カップを受け取り、そのまま、一口飲む。
黒い液体が口を通り、喉を下り、胃に消えていく。
熱が自分の身体はここにあるのだと示す。
「書くほどのものがない、ということか」
「正解だ。理解のある上司を持つと部下は楽ができる」
「あまり、頼りにされても困るがな。おれだって人間だ」
「知っている。部下の役割は果すさ」
「ならよろしい」
一呼吸おいて、
「治療しようとしても無駄だぞ、彼女は」
結論を先に述べると、中田は天井を仰いでから、
「何もないのではな」
といった。
「やりたいことがあるなら、まだ手伝う余地があるがそれすら...
装置の故障で見落としている可能性はゼロではない。
「話した感じはどうだったんだ?」
「そのままだよ。この場に存在することすら億劫そうだった」
活力がまったく感じられない被観察者の姿を思い出す。
白い髪、紫色の瞳、そして曖昧な笑顔。
話のさなか、笑うこともあったが嬉しいからではなく、あきら...
「両親の頑張りが裏目に出ているな、おそらくは」
医者につれていけばなんとかしてくれる、金を積めばなんとか...
治療の類に抵抗がないのは良いことだが根本的に姿勢を間違え...
「親に恵まれない子供は不幸だ。――レポートは渡すだろう? 覚...
「脅すなよ」
「忠告だ。手強いぞ」
「手当てでもつけてくれ」
「コーヒーにミルクでもつけようか」
「やすい手当てだ」
おれの言葉に中田は苦笑した。
終了行:
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*『浮上』 [#k541ecb2]
「浅間、彼女の精神構造体の歪み計を見たか?」
ベッドから起き上がると同時に上司兼相棒の中田が話しかけて...
意識が現実世界に浮き上がってきた影響で体に違和感を覚える。
これは、自分の体ではないぞ、と脳が叫び、いや、自分の脳で...
何度やってもこの感覚だけはなれそうにない。
黙れ、と脳と体に言い聞かせながら、
「いや、見てない。構造体そのものは無事だったが」
見たことのままを伝えると中田は、
「強度限界ぎりぎりだ。よく耐えてるよ」
と感心したように言った。
おれは首を横にゆっくりと振って、
「顕在構造物が全滅している。耐えてる、とは言えない」
中田は声に力を込めて、
「生きている限り、希望はある」
と言った。
それが彼の信念だった。
「可能性としてはそうだが、彼女がそう思うかは別だ」
彼は生きている限り、希望を見つけられる才能を持っている。
日陰で生きている方が心地よいと思う身としては、彼の明るさ...
「そうだな。何か飲むか?」
「珈琲がいい。熱いのを」
「夏だぞ」
そう言いながら中田はコーヒーポットに手を伸ばしていた。
「寒かったんだ。向こうは」
「そうか」
「海を見た。波もなければ浮いているものもない」
「空は、どうだった?」
「薄い雲が途切れることなく広がっていた。深度計がなかった...
「普通、どんな人間にも何かしら構造物があるはずだが」
健康な人間の精神であれば、精神の土台となる精神構造体の上...
精神構造体は深層意識、構造物は顕在意識の表現だ。
「機械にも記録が残っているだろう?」
「ああ、しっかり残っている。何かの見間違いでは、と思った...
「ブラックでいい」
「胃が荒れるぞ」
「刺激は強いほうが目が覚める」
「若さだな」
にたり、としながら中田は言った。
「おれとあんたは大して年が離れてないんだ。やめてくれ」
「そうだったな」
中田はおれより3つ年上だ。
二十歳過ぎの数年など、大した差ではないと言われるがおれに...
「レポートは今日中に書いて送る」
「短すぎやしないか。――熱いぞ」
「注文どおりだ――ありがとう」
カップを受け取り、そのまま、一口飲む。
黒い液体が口を通り、喉を下り、胃に消えていく。
熱が自分の身体はここにあるのだと示す。
「書くほどのものがない、ということか」
「正解だ。理解のある上司を持つと部下は楽ができる」
「あまり、頼りにされても困るがな。おれだって人間だ」
「知っている。部下の役割は果すさ」
「ならよろしい」
一呼吸おいて、
「治療しようとしても無駄だぞ、彼女は」
結論を先に述べると、中田は天井を仰いでから、
「何もないのではな」
といった。
「やりたいことがあるなら、まだ手伝う余地があるがそれすら...
装置の故障で見落としている可能性はゼロではない。
「話した感じはどうだったんだ?」
「そのままだよ。この場に存在することすら億劫そうだった」
活力がまったく感じられない被観察者の姿を思い出す。
白い髪、紫色の瞳、そして曖昧な笑顔。
話のさなか、笑うこともあったが嬉しいからではなく、あきら...
「両親の頑張りが裏目に出ているな、おそらくは」
医者につれていけばなんとかしてくれる、金を積めばなんとか...
治療の類に抵抗がないのは良いことだが根本的に姿勢を間違え...
「親に恵まれない子供は不幸だ。――レポートは渡すだろう? 覚...
「脅すなよ」
「忠告だ。手強いぞ」
「手当てでもつけてくれ」
「コーヒーにミルクでもつけようか」
「やすい手当てだ」
おれの言葉に中田は苦笑した。
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