DAYS

「言わなきゃわからないって言葉があるよね」
と彼女。
俺はそうだな、と頷く。
よく聞く言葉であり、だいたい問題のまっただ中で聞く、あまり耳にしたくない言葉だ。
「でも、何処まで言わないとわからないんだろうね」
「ふぅむ」
何処まで、と言われると難しい。
そこに彼女が頼んだほっけの定食を持った店員がやってきて、静かにお盆をおいた。
焼いた魚から旨そうな香りがする。
箸を渡しながら、
「人間がコミュニケーションを取るとき、言葉が占めているのは情報の全体のうち10%ぐらいなのだそうだ」
「残りの90%は?」
「声の調子や表情、身振り手振り、らしい」
「その数字だけ聞くと言わなくてもわかっちゃいそう」
「実際、わかるんじゃないか? ほら、外国語喋れないけどボディランゲージで乗り切ったって話もあるだろ」
「うん」
耳はこちらに傾けながら、それ以外は魚に全部向いている彼女を眺めつつ、
「言葉がなくてもなんとかなると思う」
「すごい、ちゃぶ台返し」
「大事なのは相手が何を意図しているのか汲みとることだろう。言葉ではっきりさせる場面もあるが」
「たとえば?」
「何かを契約するときとか」
「なるほど」
魚の解体は終わったらしく、青い瞳がこちらを捉える。
「相手が何を意図しているのかわかろうとしないなら何を使って表現しても無駄で、逆にわかろうとするなら少ないヒントでもわかるだろうさ」
「じゃあ、いま、私が何を考えているかわかる?」
「醤油をとってほしい」
「ぶっぶー、ポン酢でした」
「さよか」
俺はポン酢を彼女に渡して、
「そういや、俺の定食はいつ来るんだろうな」
「魚をとって来ているところじゃないかな」
「ああ、気長にまとう」