『空戦開始』

『大量発生したガーゴイルと野良ドラゴン退治で、俺ら総動員って大げさだな』
『逆に考えるだ。俺たちじゃないと手に負えないって』
『まさか、冗談にもほどがあるだろ』
そういって、無線を飛ばしている仲間は互いに笑った。
確かにうちの部隊は航空戦力に特化しているし、空中戦と得意とするガーゴイルや鈍足ながらも火力の高いドラゴンと戦うのはおかしくない。
今回の依頼はそのガーゴイルとドラゴンの討伐だが、アクティブな人間を総動員しなければならないという条件だった。
主力メンバーのうち、基地の守りに必要な数を残しての総攻撃だ。
一応は念を押して、ありったけの火力をそろえている。
過去のガーゴイル・ドラゴン討伐の経験もあってか、まわりの連中の空気は軽い。
が、ガーゴイルに制空権を確保された場合、竜の砲撃で一瞬にして全滅する可能性もある。
「随分と明るいな」
狭いコクピットに抑揚のない少女の声、この機竜の人工知能の声だ。
正確には人工知能の立場をやっている、か。
大抵の機竜や竜には知能と言うより、人格と言えるものが存在する。
それらは基本的に人間でも、アンドロイドでもなく、このゲームのコンピュータがやっている。
が、この機竜は珍しく、誰かが人工知能役を買って出ているのだ。
「明るく振る舞っているだけかもな」
「そういうものか」
「そういうもんだ」
これで会話終了、いつものやりとりだ。
直接、訊ねたわけではないが、どうやら、人間ではないようだ。
いつも、ログインしているから、人間の可能性は低い。
彼女(彼かも知れないが)の生活リズムは人間のものと異なるのは確認済みだ。
では、アンドロイドかというとそうでもなさそうだ。
通常のアンドロイドなら、人の感情がわかる。
人間もアンドロイドも変わらない人間性を持つはずだ。
なのに彼女には感情的な要素がわかることは少ない。
いや、わかることはわかるのだ。
順序立てて、これこれこういう理由でこういう感情を持つのだ、と説明すればわかる。
他者の感情を感覚的に理解する能力が乏しい、と言えば良いのか。
「なぁ」
「なんだ」
「お前、リアルじゃ何やってるんだ?」
「惑星移民計画の話を知っているか?」
「おいおい、質問に質問で返すなよ」
「関連する事柄だからな」
どうやら、地球出身ではないようだ。
「となると、お前さんは向こう出身のアンドロイドなのか」
アンドロイドではない。人間とも違う」
「じゃぁ、なんだよ」
「大気圏内防衛システムだ」
「お前も冗談が言えるんだなぁ。知らなかった」
「冗談ではない」
怒ったわけでもなく、何でもなくいつもの調子で言った。
「大体、防衛システムが何でゲームなんだよ。仕事したらどうだ?」
「役目は果たしている。ただ……」
普段は即答する人工知能の少女が珍しく躊躇う。
「ただ?」
「暇なのだ」
「暇か」
人間くさい理由に思わず、笑い出してしまった。
失礼だと頭ではわかっているが、笑わずにはいられなかった。
「おかしいか?」
「そりゃな」
「そうか……。正しくは―」
彼女の次の言葉は来なかった。
HUDに緑色の文字が走り、交戦を告げたからだ。
「続きは後だ。適当な時にゆっくり話そう」