DAYS

座るよう促すと二人は一人は勢い良く、もう一人は静かに音をたてずにソファに腰を下ろした。
「来てもらえないかと思ったよ」
魚の面を横において僕は言った。
もう少し受けが取れると思ったが見事に空振ってしまった。この二人は強敵だ。
「話す時間ぐらいは作れるわ」
正面に座る少女は微かな笑みとともに隣の青年を見た。
「俺は頑張らないと辛いがなー」
青年に住んでいる場所を尋ねると名刺を差し出された。
名刺を受け取って目を通すと、グングニル テラ・フォーミング・フォースと書かれていた。
「あの移民船のアンドロイドだったのか」
「今は向こうで畑耕してる」
「そうすると君たちは元・敵同士だったわけだね」
僕の言葉に二人は同時に顔を見て、
「過去形だったらいいわね」
と白の少女。
「過去形であってくださいお願いします」
と青年は早口に言った。
ハガラズくんが本物であることは調べればわかる」
アンドロイド管理機構によってアンドロイドたちはどの地域にいるのかを管理されている。人の形をしながらも人よりも能力がはるかに高い存在が脅威になると考えられているからだ。
特に戦闘用のアンドロイドは高い脅威になりえるためにより管理が厳しい。所定の手続きを踏めばAIに残されている戦闘記録の参照だってできる。彼の言葉が本物であるかはこの記録を見れば一発でわかる。
「問題は君だね、カシスさん」
「そうね」
と白の少女は僕を真っ直ぐ見て言った。動じる素振りはどこにもない。
FSはこの世に存在しない、絶滅した存在だもの。証明しようがないわ」
頭に思い浮かべていたことを先に言われ、僕は驚いた。まさか、心を読めるんじゃないだろうな。
「なら、どうして、FSを自称するんだい?」
「私がFSだと思うから。あなたは自分が人間であるとどう証明するの?」
「なるほどねぃ」
人間であると証明するのは難しい。今まで見てきたFSを自称する人間は何かしらのトリックを見せてきた。こういう能力が使えるから自分は人間ではないのだ、FSなのだ、と主張する。当然、そのトリックが暴かれれば人間に戻ってしまう。彼ら彼女らの魔法はとても繊細だった。
「いざ、証明しようと思っても難しいね。自分が人間であることは公的機関に求めるかな」
「国が保証してくれる、というわけね」
少女の言葉に僕は頷いた。
FSは人間ではないから、誰かが保証してくれるなんてことはないわ」
僕は再び頷いた。
「そして、私も戸籍があるのよ」
「つまり、社会的には人間だと」
「そうなるわ。体の方も見ての通りよ。いっそ、組織の一部でも持ち帰ってみる?」
「その物言いだと生物的にも人間だと言いたいようだね」
「ええ。だから、FSだと自称しているだけよ」
「うーん」
僕は唸った。
彼女は自ら進んで自称していると認めてしまった。こうなってしまうと、今回も空振りだったと考えるのが賢明だろう。
「悩むより実際に調べてみたほうがいいわ」
ハンドバッグからハサミを取り出し、横にいる青年に手渡すと、
「少し髪を切ってくれる?」
「いっそ、スキンヘッドにしてみるか?」
「勝てると思うの?」
「ネガティブ」
などとどつき漫才を披露しつつ、青年は少女の髪を数本切って、布に包んだ。
「ありがとう。結果はあとで連絡するよ」
「待っているわ」
と少女はやはり、微かな笑みで言った。
調べてもきっと、人間だとしかわからないだろう。そう考えながらかばんにしまう。
「最後にもうひとつ聞いてもいいかな」
「どうぞ」
「どうして、FSを自称するんだい?」
問いに少女は、
「その方が面白いからよ」
と答えた。