DAYS

『戦略再考』

一騎は頭を抱えながら夜道を歩いていた。
自分の対応もだが、エリスの反応の方が気がかりだ。
あの反応は過剰すぎる。
それ以来、ずっと、エリスは黙ったままだ。
あの場の反応が正しかったのか延々と考えているのだろう。
考えている点では二人とも一緒だ、と一騎。
だが、間違いなく内容は違うだろう。
エリス、大丈夫か?」
「問題は無い」
「さっきのこと、気にしているのだろう」
「肯定だ。私は判断ミスをした」
一騎はエリスに続きを促した。
「私の武装には強い制限がある。XH-00のみの場合、戦力不足である可能性が高い」
「そもそも、対魔術戦闘は想定外だろう。それでなくても負ける可能性がある」
「肯定だ」
「お前が人間の感情を理解した、と言うことなのだろうな」
今度はエリスが続きを促した。
「自分の親しい人間に危険を及ぼした対象に警戒するのは普通だ。もしかしたら、報復も考えるかも知れない」
それはエリスの今回の行動だ。
「つまり、感情的に私は行動したのか」
「そうなる」
「問題だと判断する」
「行動を起こそうとしたのが問題なんだ。感情を理解すること自体に問題はない。それはお前もよく知っているだろう?」
エリスは黙って頷いた。
考えてみれば、あのような言動の人間は初めてだった。
厄介なのは初めての人間にどのような反応を示すか想像できない点だ。
確かに件の人物の発言は挑発的であり、威圧的ではあった。
普段のエリスなら、淡々と応じるとばかり一騎は会ったその場で考えていた。
が、実際は違い感情的な反応をした。
一体何が原因だろうか、と一騎は考える。
やはり、人間とのふれあいが少ないのだろう。
話している人間の数で言えば、それ相応の数だ。
近所の人間、管理課や政府の人間、ネットワークゲーム上のプレイヤーたち。
だが、どれも実害がありそうな存在ではなかった。
今回は特殊な例なのだ。
自分の友人かそれ以上の存在をある種の危機に接触させた存在。
それは今までに知らなかったタイプだ。
しかし、と一騎は思う。
そう言うタイプはあちこちにいるのだ。
たまたま、エリスが接触しなかっただけで。
「お前はもっと、多くの人間と触れるべきだ」
「しかし、先のような判断ミスをする可能性がある」
「その可能性を低くしたり、ミスの被害を小さくするための俺だろう?」
「そうだ。だが、一騎にかかる負担が大きい」
「今日のようなことが毎日続けばな」
だが、と一騎は続ける。
「毎日ではあるまい。たまにある程度だ」
「そうだと判断する」
「それなら俺は大丈夫だ。それぐらいすぐに忘れる」
我ながら無責任な物言いだ、と内心で苦く笑う。
「了解した」
一騎は笑って、
「焦るなよ、相棒」
「心遣い感謝する」
「人間の感情などを理解するだけの段階は終わりなのかもな」
どういうことだ、とエリス
「基本的な部分はもう終わりで、これからはその感情とどう付き合っていくか。それを考えても良いと思う」
「理解した」
「だから、焦るな、だ。先は長いぞ」
どこかほっとした笑みで、
「了解した」