『復讐』

「そう、それがあなたの理屈なのね」

 カシスは相手の目を真っ直ぐ見据えて続ける。

「ならこうしましょう。あなたは私を殺す。私はこの船のすべてのヒトを殺す」

「貴様っ」

「簡単な話よ。あなたはFSという種を消す。私はヒトを消す。これでおあいこね」

「笑わせてくれるな」

「あなたの家族を奪ったのは事実よ。あなたたちが私から何もかも奪ったことも」

「……黙れ」

「そのまま、私という存在も私から奪うの?」

「だとしたらどうする?」

「この船のヒトと定期便に致死性のウィルスでもばらまくわ」

 男は鼻で笑って、

「何処にそんなものがあるというのだ。この船の何処にもそんなものはありはしないぞ」

「あら、此処にあるわ」

 自分を指さしてカシスはいたずらっぽい笑みを浮かべ、

「ウィルスに変化するぐらい簡単よ。感染はヒトからヒト、発症はすべてのヒトに感染してから。これなら此処のヒトも向こうのヒトも死滅するわね」

「化け物め……」

「あなたが問答無用で撃つとしたらの話よ。それにあなたは撃てないわ」

 男はトリガーに力を込め、

「だって、彼が来たもの」

 銃声は一発、すぐさま弾く音が一つ。

「随分と語らっていたようだな」

「私を見殺しにするつもりだったの?」

 大きな剣を構え直し、ハガラズは苦い笑顔で応じる。

「わりぃわりぃ、雑魚に足止め食らってなぁ」

「……ありがとう」

 カシスの言葉にハガラズは顔をゆるめ、すぐに緊に戻し、

「礼はこのくだらねぇ現状を片付けてからにしてくれ。おっさん、言い残す事はねぇか?」

「ふざけるなっ お前も仲間を殺されただろう!?」

「ふざけるなはこっちの台詞だ。良いか、カシスだって殺されてるんだぞ? 自分だけが被害面か?」

「……」

「御託並べるのは坂下のババアやカシスに任せて――」

 目にもとまらぬ速度で一歩踏み込み、男の側面から剣を叩き込む。重量級の一撃を受けて男の身体は膝から崩れ落ちる。

「一丁あがり」

「峰打ち、ね」

「俺の仕事に人殺しは入っていないからな」

ハガラズ……本当にありがとう」

「改めて言われるとあれ……っ!?」

 カシスの行動に戸惑うハガラズ

「お、お前今何したかわかってるのか!?」

「自分のやったことぐらい把握できてるわ」

「と、とりあえず撤収だ。見られると不味い」