DAYS

『トラブルシューティング』

弱った、と瞬子は動かないPCの前でうなだれていた。
先ほどまでディスプレイにテキストエディタが映っていたが今は何も映らない。
ディスプレイの電源は入っているようだが、パソコン本体からは何も音がしていない。
ブレーカーは落ちていないようだし、電源ケーブルも刺さっているが、電源ボタンを押しても何も反応がない。
彼女にわかるのは壊れたと言うことだけで、その先はわからない。
「……」
詳しい人に聞けば、と思ったがネットに繋がらないことにはどうにもなるまい。
ため息をついていると呼び鈴がなった。
玄関をあけてみるとカシスだった。
瞬子の顔を見ると、カシスは一瞬だけ目を見開いて、
「どうしたの?」
「パソコンが壊れたみたいなの」
努めて冷静に言ったつもりだったが、声は酷く落ち込んでいる。
「わかったわ。見せてもらえる?」
カシスの言葉に瞬子は頷いた。
「ところで、カシスちゃんはパソコンのことわかるの?」
「少しだけなら」
そういってカシスは微笑んだ。

「起動しないのは重症ね」
カシスは電源ボタンを押しても反応しないパソコンを見ていった。
見た目に変化はないし、臭いもない。
同居人がトラブルシューティングの記録に使っているノートを確認しながら、カシスは作業を進める。
このノートの記述を信じるなら、ハードウェアが壊れている可能性が高い。
「ケースを開けても良いかしら?」
「うん、全部任せるよ」
「わかったわ」
電源ユニットのスイッチを切り、各種ケーブルを丁寧に抜いていく。
何も繋がっていないことを確認して、カシスはパソコン本体を持ち上げる。
思ったよりも軽い、とカシスは思いながら、床に広げた新聞紙の上にそっと置いた。
ケースのふたを外すと緑色の基盤とそれに付随するパーツ群が姿を晒した。
小さなケースの中にぎっしりと部品とケーブルが詰め込まれている。
「はじめてみた。パソコンの中ってこうなってるのね」
と横から瞬子
「私もよ」
カシス
「でも、手慣れてるね」
「作業の様子を見ているからよ、きっと」
「すごいね」
「見よう見まねでうまくいったら、ね」
中を見ても特に変な様子はない。
ノートに従って、部品を構成している細かな電子部品レベルで何か問題がないか調べる。
「何をしてるの?」
「コンデンサが膨らんでいないか確認してるの」
ノートには円筒状の電子部品のスケッチが描いてあった。
左側には正常のもの、その隣に全体的に丸みを帯びたものが描いてある。
「膨らんでいるのは寿命のようね」
ノートの隅にはそう書き込まれている。
「でも、なさそう」
瞬子
「そうなると、何処かパーツがおかしいのでしょうね」
一見、何も起こっていないパーツ群を見回してカシスは言った。
「少し時間がかかりそうだわ。ほかのことをやっていてちょうだい」
「でも」
「その方が、気もまぎれるでしょう?」
「うん。あまり、無理しないで」
「ありがとう」
部屋から出て行く瞬子を微笑で見送ってカシスはパソコンとの戦いを再開する。